弁当作っただけなのに
週が明けて月曜日。
弁当を作るために、いつもより早く起きると母親がキッチンに立っていた。
「おはよ、今日二人分なんだよね?」
「おはよ、そう。尾浜のも一緒に。諸々下準備してあるから唐揚げ揚げて、卵焼き焼いて詰めればいいかと思って」
「んじゃ、お母さんも手伝う。今日休みだし、お父さんのも一緒に作っていい?」
「あ、うん」
別にマザコンだとか、そういうのじゃないけど。
母さんと一緒にキッチンに立つのは嫌いじゃない。
わざわざ俺用にエプロンまで用意するほどだから、母さんも料理する俺のことは嫌いじゃないんだと思う。
下味は、昨夜のうちに付けて寝かせておいた。
卵焼きは…甘いのとだし巻きと、二種類。
あいつの好きな味がどちらか分からないから。
まあ、どっちでも食べるかもしれないけど。なんとなく。
「誠ちゃん、喜ぶといいわねぇ」
「…いつの間にそんな呼び方してるわけ」
「あら、いいじゃない。お母さんもお友達になったんだから」
「まったく…」
母さんが唐揚げを揚げている間に、弁当箱に他のおかずを詰めていく。
卵焼きと唐揚げは、少し冷まして詰める。
「冷めたら詰めるから。そこ置いといて。着替えてくる」
制服に着替えて戻ると、父さんも起きてきたところだった。
「おはよう浅緋。今日のお弁当、から揚げだって?楽しみだなぁ」
「そ、そう」
「…朝ごはん、食べる?」
「あ…うん。…いや、もう少ししてから食べる」
「そうか、うん。そうだな」
「…でも、コーヒーだけ飲もうかな。座っていい?」
「あぁ、もちろん!コーヒー父さんが淹れよう!」
「いや、俺やるから。父さんコーヒー淹れんの苦手だろ」
「確かに…浅緋に美味しく淹れてもらおう」
「はいはい」
「あ、浅緋、お母さんもー」
「…はいはい」
やけに嬉しそうな両親の視線が痛い。
まあ…5、6年ぶりに息子が食卓に座るだけで嬉しいんだろうか…。
朝食は簡単に母さんが作ってくれた。
少しコーヒーを飲んで、残りの弁当を詰める。
「誠ちゃんのお弁当大きいなぁ」
食器を片しにきた父さんが手元の弁当箱をみて驚いている。
…てか父さんまであいつのことあだ名で呼んでるし。
別にいいけど…。
「あいつほんと、よく食うから。まさかこんなでかいと思ってなかったけど」
「そうなの?美味しそうに食べるし、また連れてきてな、浅緋」
…息子の友達をこんなに楽しみにするとは…。
一人息子としては、複雑な気分だ。
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昼休み、二人分の弁当を持って生物準備室へ向かう。
「八束ぁ!!」
「なんだよ…うるさい」
いつもより早い時間。
今日は早めに来てもらうことにした。
「ありがとう、俺楽しみだった!!今日は昼まで我慢してたからめっちゃ腹減ったぁ!」
「わかったから、ほら」
「…ね、隣にいてもいい?」
「静かに食えよ…」
「わかった!」
昨日は結局、いつも通り両親とは時間をずらして夕飯をとった。
土曜日以来なのだ、誰かと飯を食べるなんて。
「あと…あんま、こっち見ないでほしい…」
「わかった、大丈夫」
弁当箱の蓋を開ける。
「わぁ、美味そう…朝から揚げ物大変だったろ」
「今日仕事休みだからって母さんが揚げてくれた」
「そうなんだ、いただきまーす」
人には見るなと言いながら、尾浜の感想が気になってついじっと見てしまう。
「うんまぁ…天才じゃん。冷めてるのに美味い。揚げたてならもっと美味いのかなぁ」
「まあ、揚げたてのほうが美味いけど」
「俺卵焼き好きなんだよね。…え、うま!これうま!ちょっと…八束天才…え、待って味違うじゃん。こっちもうまぁ」
「お前…静かに食えって言ったのに」
「あ、ごめん。だってさ、うまいんだもん!しょうがないじゃん?」
「まあ…そんなに美味そうに食うなら作った甲斐がある…かな」
「八束も早く食べな、美味いから」
「俺が作ったんだけど」
「まあまあ、いいじゃん」
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「はー、美味かった!八束ありがとな!」
「どう、いたしまして」
「ふはっ、なにその堅い返事」
「な、八束、また遊びに行ってもいい?お前んち」
「別に、いいけど…なんも面白いもんないだろ」
「楽しかったんだもん。買い物してさ、みんなでご飯食べて。美味いし。うちは弟と妹いるからどうしても面倒みたりしてさぁ。あんなふうに手加減無しでトランプしたのとか久々だったし」
「兄弟いたの?」
「あ、言ってなかったっけ?俺、実はお兄ちゃんなんですよー。ついでにちょっと上にねーちゃんもいる」
「へぇ」
それは知らなかった。
別に、知りたいと思ってなかったけど…。
なんか、少し知らなかったことが知れて嬉しい。
いや、嬉しいってなんだ、嬉しいって…。
結局、また週末にうちに来ることになった。
それを帰ってから母さんに伝えると
「え!ほんと!嬉しい!楽しみー!!」
この喜びようで、父さんも
「それは楽しみだなぁ、今度は浅緋もトランプしよう!」
と、二人してまだ週末まで4日もあるのに
毎日毎日楽しみ楽しみと…そんな浮かれようだった。




