SS6 旅立ちのご挨拶
今回は、木下先生とのお話を二人別々でお届けします。
【浅緋】
卒業式が終わり、まだ教室から、誰も出ていく様子がない。
多分、名残惜しいんだろう。
誠治朗は…と振り返ると、隣の席の女子やら男子と仲良く話している。
とりあえず、一人で行くか、と職員室へ向かった。
「失礼します」
教室より少し静かな職員室を見渡すと、目当ての先生はお茶をすすっていた。
「木下先生」
「おう、八束か。卒業、おめでとう」
「ありがとうございます」
「進学するんだったか。お前なら大丈夫そうだな」
「そうですかね。まだ、何もわからないんで…」
「実家から通うのか?」
「いえ、大学の傍に、春から一人で」
「そうか。親御さんも寂しくなるな。たまにはちゃんと帰るんだぞ」
「はい、そうします」
初めて声をかけてくれた日。隣のクラスの強面の担任に、なんだか怒られる気がした。
まさか、こんなに長くお世話になるとは。
「木下先生、三年間、準備室を貸していただいて、本当にありがとうございました」
「なんだ、急に改まって。別に大したことじゃない。俺も楽しかったしな」
「…木下先生がいなかったら、多分、毎日一人になれるところ探さなきゃいけませんでした。感謝してます」
「…そうか。そう思ってくれているなら、あの日見逃した甲斐があったな」
「あ…。あの日は…ありがとうございました」
「あんなに堂々とサボりを見逃せと頼まれたのは、教師人生初めてだったけどな。まったくあいつは大した奴だ」
「…俺も、そう思います」
「よかったな、八束」
ガシガシと大きな手で頭を撫でられる。
これが最後かと思うと、胸にこみ上げるものがあった。
「何かあったら、ここに来い。話くらい、いつでも聞いてやる」
「…はい。また、奥さんのご飯の話と娘さんの話、聞かせてください」
「ああ、そうだな」
先生は、がははと豪快に笑った。
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【誠治朗】
卒業式が終わって、最後のHRの前に、職員室に向かった。
「木下先生ー!!」
「おう、尾浜。お前は相変わらず元気だな」
「それが取り柄なんで!!」
大きな口を開けて、先生が笑う。
「どうした、そろそろ、HRじゃないのか」
「はい、でも、その前に木下先生にお礼が言いたくて」
「お礼?」
「はい!木下先生のおかげで、浅緋と仲良くなれました。あの日、先生がついてきてくれなかったら、今こんなに仲良くなれてない…というか、絶対仲良くなれなかったと思います」
「…そうだったな。そういえば、そんなこともあったな」
「それから…サボり、見逃してくれて、ありがとうございました。むちゃくちゃなこと頼んだのに…」
「ああ、あれはさすがに、面食らったな」
「へへ…。でも、あのおかげで、仲直りできました。ありがとうございました」
「そうか」
「先生の教え子になれて、よかったです」
「……。ああ、これからも、仲良くな。お前のおかげで、八束も随分明るくなった。俺がしてやれることなんて、あの部屋を貸して、たまに話を聞いてやることくらいだったからな…」
先生のゴツゴツとした大きな手で、頭を乱暴に撫でられる。
少し、先生の目が潤んでいる気がした。
「そろそろ行け。HR、遅れるなよ」
「はい!!先生、ありがとう!!」
「廊下、走るなよー!」
「はーい!」
職員室を出て、教室へ向かう。
今日はもう一つ、やりたいことがある。
少しにやけながら、階段を駆け上がった。
ちょこっと裏話
二人の視点を、同時に…というか、1つのエピソードに並べて書いたのはこれが初めてなんですが、自分が思っていた以上に、二人の性格とか、話し方とか、全然違うなあって思いました。
浅緋には、背中を押して。誠治朗には、ありがとうを。木下先生の生徒に対する向き合い方、うまく描けていたら嬉しいです。
ラストの誠治朗のやりたいこと…は、ひとつ前のSSで分かります!お気に入りです!




