SS1 幸せの立会人2
撮影当日。浅緋が誠治朗を連れて、うちのスタジオへやって来た。
なんて言って連れてきたんだろう。
誠治朗は不思議そうな顔で扉をくぐる。
「え…未來?」
「や、いらっしゃい」
想像通りの反応に思わず笑みがこぼれる。
「今日は、素敵な一日になりますように、精一杯お手伝いさせてもらうよ」
「どういう…」
まったく何も知らされていない誠治朗に説明することなく。
「じゃ、準備してもらおうかな。崇彦さん、お願いします」
「はいはーい。ヘアメイクとスタイリストを担当する斉藤崇彦です!さ、こちらへどうぞ~」
後は崇彦さんにお任せした。
崇彦さんなら、大丈夫。あの人は柔軟だから。
「さて、こちらも準備をいたしましょうか」
「よろしくお願いします、立花さん」
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二人が来るまでに、ある程度の準備は済ませていたから、僕は浅緋の準備に付き添うことにした。
「なんて言って誠治朗連れてきたの?」
「ちょっと付き合ってくれ、行ってからのお楽しみだ」
「なるほど。それはあの顔で入ってくるわけだ…笑 もう少し、ヒントをあげてもよかったのに」
「最終的に黙ってついてこいって言って連れて来た」
「ふふっ。八束さん、惚れ直されたんじゃないですか、その言い方」
「……いや、それは…」
「あれ、これは図星だ」
「あ、八束さん、顔が赤くなると調整に影響が出ます。少し耐えていただけますか」
「あ、はい。すみません」
「さすが立花さん、無理難題を…」
「こればかりは私には調整が難しいですから」
「そうですね、浅緋、頑張って」
「…わかりました」
立花さんは丁寧に、繊細に仕事をする。
崇彦さんも素晴らしい仕上がりに仕立て上げるけど、立花さんはそこに美しさが乗せられる。
誠治朗に崇彦さんを充てたのは、初めてのコミュニケーションは、崇彦さんの方がぴったりだと思ったから。
立花さんは時々女性に間違われるくらい、綺麗な顔立ちをしている。
初めてお会いした時、僕もその綺麗さに少し緊張したものだ。
打ち合わせに参加していない誠治朗も、恐らく…と思った。
まあ、単純に、浅緋が立花さんと誠治朗を二人きりにしたくないだけだったりもするけど…。
二人の準備がそろそろ、という頃。
僕は助っ人二人を迎える準備に入った。
「未來、久しぶり!」
「久しぶり!兵助、優くん!今日は協力してくれてどうもありがとう」
「この後呼んでもらえただけでも嬉しいのに、こんな助っ人を頼んでもらえるなんて思ってなかったから」
「そうそう。未來にも最近忙しくて全然会えてなかったし。嬉しいよ!」
「ふふ、そうだね。元気そうでなによりだよ。早速だけど君たち二人には、撮影が始まってから協力してもらいたい」
「うん。緊張するであろう二人をほぐしてあげればいいんだったよね」
「そうそう。ここで待っててくれるかな?」
「わかった。見えないから、タイミングは未來が教えてくれる?」
「うん、僕が合図したら、よろしく頼むよ」
軽く打ち合わせを済ませて、浅緋の様子を確認しに行く。
少し緊張気味の、いつもとは違った浅緋が、僕を待っていた。
「誠治朗より先に見ちゃってごめんね。似合ってるよ、浅緋」
「ありがとう、さて、うちの奥さんを迎えるとするか」
「あれ、浅緋が旦那さんなの?」
「…何のためにあいつに白を着せたと思っているんだ」
少しムッとする浅緋が、なんだか可愛い。
「ふふ、ごめん。ちょっとからかってみただけだよ」
「そうだと思った」
先にスタジオで、浅緋を待たせる。
誠治朗の控室にノックをして、声をかけた。
「誠治朗、もうそろそろいいかな?」
「う、うん。大丈夫」
誠治朗のOKを確認し、控室の扉を開けた。
「お、やっぱりそれよく似合ってるな」
浅緋と対面した瞬間、うるうると涙目になる誠治朗。
「…どうしよう、俺泣きそう」
「こら、撮影の前に泣くな。もう少し我慢してくれ」
さっきまで自分だって緊張で強張っていたくせに。
カメラを持って、二人の元へ向かう。
「今日は二人の結婚記念日って聞いてね。ちょっと協力させてもらったんだ」
誠治朗に説明して、浅緋が声をかける。
その言葉にさらに泣きそうになる誠治朗を思わず撮ると
「笑顔のとことってくれよ、未來…」
「いいじゃない、自然なところも撮っておきたいんだよ」
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主役が揃ったところで、まずは予定通り、二人並んでポージングしてもらう。
予想はしていたけど、やはり二人とも緊張で表情がかたい。
2,3枚緊張した面持ちの写真を撮ったあと、画像を確認しながら後ろに控えている兵助と優くんに合図を送る。
「お、二人ともかっこいいじゃん」
「よ!」
さすが、付き合いの長い二人だ。
ものすごく自然に登場して、誠治朗を驚かせる。
優くんは、なんだか泣きそうになっていた。
そんな再会のシーンも撮っていく。
僕の撮りたい写真は、そういった自然体な笑顔。
兵助と優くんのおかげでほぐれた二人に、撮りたい構図と、用意した小物を渡して、自由にしてもらう。
時々、兵助と優くんが茶々を入れつつ、「俺たちならこうかな…」とヒントも与えつつ、順調に撮影が進む。
「さて、一回兵助と優くんには控室で待っててもらおうかな」
「あれ、もういいの?」
「最後に、どうしても撮りたい写真があるんだ」
「そっか。散々お邪魔したし、ちょっと引っ込もうか」
「そうだな、あっちでいい?」
「うん、スタイリストのお二人もいらっしゃるから、良かったらゆっくりしてて」
「わかった!」
「未來?俺、あとお願いしたものは何も…」
浅緋が不思議そうな顔をする。
「うん、でもお願いされたし、僕が撮りたい写真なんだ」
「うん…?」
「誓いのキスを」
「「え、」」
浅緋も誠治朗も驚いた表情をする。
「大丈夫」
「で、でも…さすがに…その……」
「何のためにみんなに控室に行ってもらったと思ってるの?僕は今、プロとして最高の一枚を二人にプレゼントしたいんだ」
浅緋に頼まれた時から、これだけは必ず撮りたいと思っていた。
この二人のことだ。
二人でいるときに、キスしているところを客観的に撮影なんかしないだろうし、なかなか撮る機会なんてないだろう。
きっと、これが二人のキスシーンを収める最初で最後のチャンスだ。
「どうかな、僕に撮られるのは不満かな?」
我ながら、少しずるい聞き方だと思う。
でもせっかく任された仕事だ。
友人としても、プロとしても、最高の写真で祝福したい。
「撮ってもらおうよ、浅緋。最高にラブラブなとこ」
「…そうだな、未來が撮りたいと言ってくれたから今日がある。改めてお願いするよ、未來」
「ありがとう、二人とも」
タイミングは、二人に任せた。
ふっと、その場の空気が変わる。
この仕事をしていると、必ず立ち会う空気。特別な時間だ。
浅緋が、誠治朗の肩に手をかける。
僕には聞こえない程の声で、誠治朗に何か伝えている。
思わず笑みが零れる誠治朗。
ここだ、と思った瞬間にシャッターを切る。
きっと、二度と僕が立ち会うことが出来ない二人だけの最高の一枚。
「お疲れ様!!」
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その後、待っていた皆さんに声をかけて後片付けをする。
パーティーのことは、まだ誠治朗は知らないから、慎重に。
先に二人を見送って、浅緋が少し迂回して誠治朗を会場へ連れてくる間に僕たちも急いで向かう。
立花さんだけは、どうしても翌日の仕事の都合で、来られないと残念がっていた。
「お二人に、私の分も改めておめでとうございますと伝えてください」
会場となる中野先輩のお店には、浅緋のご両親や誠治朗のご家族、高校でお世話になったという先生もいらっしゃった。
皆さんにご挨拶をして、主役が来るまでの温かい雰囲気をカメラに収めていく。
二人の温かさは、この人達が作ってきたんだな、と実感した。
二人が到着して、パーティーが始まる。
どの瞬間も撮り逃したくないほどの幸せな空間を、僕はその日、沢山カメラに収めることが出来た。
二人の幸せを祝うこの日に立会人になれたこと、きっとこの先、僕は忘れない。
SS1 幸せの立会人 fin.
SSとして初の未來くん視点、いかがでしょうか。
本編には入れられなかった打ち合わせや、浅緋の準備の様子、誠治朗の衣装の色の理由。
ふんだんに詰め込んだから、ちょっと長かったですかね…?




