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久しぶりの食卓


「そんで、なんでお前ここにいんの」


今晩はカレーにしようと思っていた。

カレーは、だいたい俺が作る。

…父親が作ってくれっていうから。

市販のカレールーだし、特にこだわって作ってるわけでもない。ただ、何となく…嬉しそうに食べるから、何となく。


そんで、作ろうとキッチンに立つと、

「え、八束(やつか)が作んの!?俺も手伝う!」

と何故か張り切って隣にやってきた。


「せっかく手洗ったし、ごちそうになるからなんか手伝いたいんだよ」

「…はぁ、んじゃ人参洗って皮剥いてくれ」

「はいはーい」


張り切って返事をしたのはこいつだ。

なのに…


「お前料理出来ないなら先に言えよ!」

「いや、八束(やつか)と一緒なら出来るかなぁって思ったんだよね」

「ほら、浅緋(あさひ)怒んないの。浅緋(あさひ)だって最初は皮むき苦手だったじゃない」

「いや、まさかピーラー使ってこんなに人参ガタガタに剥くとは思わなかったんだよ」


「ごめんって、八束(やつか)ちょっとやってみせて」

「ったく…そんなに力入れなくても端っこにひっかけてそのまま引っ張る」

「なるほど。それなら出来そう」

「ほんとかよ…、手ケガすんなよ」

「…八束(やつか)やさしいんだな」

「は?」

浅緋(あさひ)、照れてないで進めないとお父さん帰ってきちゃうよー」

「照れてないし!!」

「こんな照れてる八束(やつか)初めてみた!お母さんすごーい」

「お前の母さんじゃねーから!」

「やだ浅緋(あさひ)、やきもちー?」

「え、やきもちー?」

「うるさいな!さっさとやれよ!!」


カレーを作るのにこんなに疲れたことはない。

ぎゃーぎゃー言いながら作ったカレーは、父親が帰ってくる頃ようやく出来上がった。


「おかえりー」

「ただいま、なんだか賑やかなだな」

浅緋(あさひ)のお友達が来ててね、一緒にカレー作ったのよ」

浅緋(あさひ)の…友達?」


「お邪魔してます、尾浜誠治朗です!」

「おや、かっこいい名前だねぇ。初めまして、浅緋(あさひ)の父です」

「おかえり父さん。カレー出来てるよ」

「ありがとう!すぐ着替えてくるよ」


カレーを盛り付けて、食卓に運んでいく。

4つ。


「あれ、浅緋(あさひ)、4つ…?」

「あ、たまには…俺も一緒に…食べようかと思って…。尾浜、お茶入れるから運んでくれ」

「はいはーい」


いつもは先に一人で食べるか、後から食べるか、

部屋で一人で食べるか。

ここ数年、両親と一緒に食事をしたことがなかった。

俺が、無理しないように気を遣ってくれているから。


「お待たせ。あれ…浅緋(あさひ)

「冷めちゃうから、座って。尾浜帰るの遅くなるし」


両親がそっと目配せするのがわかる。

すごく、緊張する。

誰かと一緒に食べるなんて、久しぶりすぎて。


「いただきまーす」


とりあえず、気持ち悪くなった時のことを考えて小盛りにした。元々、食が細いのもあるけど。


少し、震えながら口に運ぶ。

見ないようにしてるんだろうけど、両親の視線が刺さる。

向かいに座った尾浜は、相変わらず美味そうにぱくぱくと食べる。


「うまぁ。八束(やつか)、めっちゃうまい!」

「そりゃ、よかった」

「…八束(やつか)、おいし?」

「ん、んまい。我ながら」


緊張しているせいか、尾浜のようにぱくぱくとは食べられないが…気持ち悪くならない。

二口、三口と食べすすめると、隣で父親がほっと肩の力を抜いたのがわかった。


浅緋(あさひ)のカレー美味しいだろ?つい食べ過ぎちゃうんだよなぁ…っ、」

「ほんと、美味し…っ美味しい、浅緋(あさひ)…」


尾浜の前だというのに、ぽろぽろ泣き笑いながら食べる両親。気まずくなって思わず尾浜に話題を振ってしまった。


「今日は…尾浜も手伝ってくれたし…な、尾浜」

「俺皮むきしかしてないけどな!笑 八束(やつか)、おかわりしてもいい?」

「どーぞ」

「やったー!」


結局尾浜はカレー3杯にサラダとスープも平らげて、さすがに腹いっぱいになったらしい。

あっという間に父親とも仲良くなって、尾浜の方が息子みたいだ。


「あ、浅緋(あさひ)、お皿はいいよ。お母さん洗うから。お腹休まったら尾浜くん駅まで送ってあげて」

「あ、うん」


どこから出したのか、トランプでババ抜きを始めた父と尾浜。

皿を洗う母親の手伝いをしながら、それを眺めてて思わず


「ああいう息子のほうがよかった?」

「何言ってんの。お母さんの息子は浅緋(あさひ)なんです。ご飯も作ってくれるし…久しぶりに一緒にご飯も食べられたし」

「…ごめん」

「ううん、よかった!お母さん嬉しい!」


もう二度と、この人を泣かせないようにと思って生きてきた。

でも…笑いながら泣くのは、いいんだろうか。


「尾浜、そろそろ行くぞ」

「あ、はーい!お父さん、また遊びましょ!」

「あぁ、またいつでもおいで」

「お母さんも、今日はありがとうございました!ごちそうさまでした!」

「いいのよ、またご飯食べにおいで!気をつけてね」

「はーい!お邪魔しましたー!」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「やー、楽しかったー!てか美味かったぁ!」

「ホットケーキ食べたのにカレー3杯も食うとは…」

「いいご両親だな!優しくて」

「ん…まあ」

「八束は…お父さんに似たのかな、お母さんめっちゃよく笑って可愛いなー」


隣を歩く尾浜はにこにことそんなことを言う。


「んー、どっちだろな…。血繋がってないから、二人と」

「んぇっ…?そうなの?」

「まあ。あー、今日は遅くまで付き合わせて悪かったな」

「いやいや、無理やりくっついてきたの俺だし!弁当、作ってもらうの楽しみだなー」

「あ、忘れてた」

「忘れんなよ!」

「…冗談だよ。久しぶりに人と飯食った…。緊張したぁ…」

「…大丈夫だった?俺いたから無理してたんじゃ…」

「いや、むしろお前居てくれたから食えたのかも。なんか変な空気にして悪かったな」

「いや、まさか家でも駄目だったとは知らなかったからびっくりはしたけど…よかったな!」

「ありがとな…尾浜」

「え、急にどしたの、素直じゃん」

「うるせぇ!」



駅まで見送って、帰り道。

久しぶりにあんなに笑った両親を見たな。

あいつ、すげぇな…

と、改めて尾浜のすごさを実感した。


何となく作るのが好きだったカレーが、

また作ろうかな、というものになった。



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