お互いの両親との食事会-side誠治朗
八束家へ挨拶に行って、1ヶ月。
今度はうちの実家へ…と思っていたところ、うちの父は浅緋のご両親ともお話がしたいと言い出した。
改めて、八束家の予定を確認、場所を決めて…。
なんだか想定していたより堅苦しい感じにしようとしてくるのが伝わる。
父親主導のようでなんだか気に食わない。
母さんは
「別にうちでゆっくりご飯食べるだけでいいのに。反対する理由もないし」
なんて、ひっそりぼやいていた。
浅緋は浅緋で、
「せっかくだし、みんなで美味しいもの食べられたらいいな」
なんて、ちょっと無理して笑う。
ほんとは平気じゃないくせに。
個室にしてもらったとはいえ、いつもの食事風景と違う。
絶対に上から下までジロジロ見るに違いない、あの頑固親父。
出会った頃よりだいぶ良くなってきているが、浅緋は人が多いところ、かしこまったシチュエーションでの食事は苦手だ。無理をすると具合が悪くなってしまう。
ましてや昔気質のうちの父を相手に、緊張しないはずがない。
「浅緋、やっぱり無理してないか」
「この先も誠治朗と一緒にいるためなら、無理くらいするさ。この前誠治朗もうちに一緒に来てくれた時、頑張ってくれただろ」
「そう…だけど、そうじゃない…」
「今日がだめでも、許してもらえるまで話しに行くよ。ほら、そろそろ着く。しゃんとして行くぞ」
そう言われ、怖気づいていたのは自分のほうだと気づいた。
ホテルのロビーには、先に浅緋のご両親が着いていた。
「今日はわざわざありがとうございます」
「いいえ、素敵なところだから少し早く来て、お父さんとお庭見て回ってたの。二人も後で行ってみたほうがいいよ!池に鯉もいて」
「母さん…」
「許してあげなさい、浅緋。落ち着かないんだよ、こんなこと初めてだから」
「そうそう、お父さんは緊張してずっと無言なんだもの。ついついお母さん喋っちゃって」
「母さんがお喋りなのはいつもだろ…な、誠治朗」
「…よかった、俺だけ緊張してるんだと思ってた」
「やだ誠ちゃんも緊張してたの?いつもよりかっこいいから気づかなかったー!」
「お母さんだって今日はいつにも増してお綺麗ですよ」
「ありがとう誠ちゃん!おめかししてよかったー!」
「その辺にしておきなさい、そろそろ時間だろう」
「はいはい、そうね、ちょっとお淑やかに見えたほうがいいわよね」
「母さん…まったく…」
浅緋のご両親を先に案内してもらう。
「おばさん、いつも通りだな笑」
「ほんとに…いいんだが悪いんだか…」
少しして、ようやくうちの両親がやって来た。
「あ、誠ちゃんいたー!ごめんね、お母さん道間違えちゃって遅れちゃった」
「いや、無事に着いてよかったよ。そろそろ探しに行くところだった」
「危ない危ない、ごめんね浅緋くんも。お待たせしました」
「いえ、今日はお時間とっていただいてありがとうございます」
「ほら、お父さんも」
「あ、ああ。今日はよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
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「今日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます」
とりあえず、進行は浅緋に任せることにした。
本当に緊張しているのか疑うくらい、しっかり話す姿に思わず惚れ直してしまう。
飲み物を頼んで、揃ったところで、とりあえず、乾杯し、それぞれ両親を紹介。
なんだろう、こういう時、母親ってすごいんだなと実感する。
堅苦しい父親とは対等に、ものすごくゆるいうちの母。
「すみません。今日、駅に着いてから反対に向かって歩いてしまって。お待たせしてしまいました」
「あら、そしたら後で一緒にお庭観に行きませんか。綺麗なお花が咲いていて」
「え、いいんですか?ぜひ!」
「妻がすっかり気に入ったようで。ぜひ一緒に観に行ってやってください」
「母さん…」
「仲良くなるの早すぎて…俺もびっくり」
「さて、そろそろ本題に入ってもらおうか、誠治朗」
せっかく和やかに話していたところに、うちの父が水を差す。
「あ、はい。すみません。せっかく楽しくお話しているのに。今日お越しいただいたのは…」
さすがに浅緋にばかり任せてはいられない。
対面の浅緋に目をやると、
先ほどから、緊張のせいか、父の視線のせいか、ほとんど食事に手をつけていない。
事前に話してあるが、改めて、二人で暮らしていきたいこと、家族になりたいということを伝えていく。
「世間一般の夫婦のようにとはいきませんが、二人で生きていく覚悟です」
「心配なこともあるかもしれませんが、温かく見守っていただけたら」
二人で真剣に話した。
「八束さんは、どうお思いですか」
一通り聞いて、うちの父が浅緋の父親に問いかけた。
「私は、元々反対するつもりは一切ありません。息子と、誠治朗君が幸せなら。
何よりも、私たちは誠治朗君のおかげで、なりたかった家族になることが出来ました。勝手ながら、誠治朗君のことも本当の息子のように思っています。明るくて、人の心に寄り添える、素敵な息子さんですね。息子の作る料理をいつも美味しそうに食べて、見ていてこちらまで笑顔になります」
「ふふ、うちの息子は、そんなところに救われて、惹かれたんでしょうね。そんな息子を誇りに思います。親ばかと笑われても構いません。もし、尾浜さんが何かご心配なことがあれば、お聞きしてもいいですか?」
浅緋の両親は、挨拶に伺った日と同じく、穏やかに、丁寧に温かい言葉を父に伝えてくれた。
どうしよう、俺が泣きそうだ。
「一つ、浅緋君は一人っ子ですよね?我が家はほかに三人おります。誠治朗が浅緋くんと一緒になっても、他に息子か娘が、子を授かるかもしれません。ですが…おたくは違うでしょう」
父の言葉に、胸がえぐられる思いがした。
ずっと考えてきた。でも、おじさんとおばさんのことまでは、考えていなかった…。
緊張で、喉が渇く。
「そうですね…。確かに…そうか、そこを心配いただいているんですね」
おじさんが、少し押し黙る。
「もしよければ、少し外でお話させていただけますか?息子に聞かれるのは、少し気恥ずかしくて」
「ええ、わかりました」
思わず、浅緋の顔を見る。
強張っているのが、よく分かった。
「おじさん…あの…」
「あ、大丈夫だよ。うちの息子はこんなに素敵ですよってお話してくるだけだから。誠ちゃんも、少しお母さんたちのおしゃべりに付き合ってもらっていいかな?」
「あ、はい」
おじさんは穏やかな表情で、安心させるのがすごくうまい。
その一言で、場の空気が一気に和んだ。
「そういうことだから、お母さん達に二人の馴れ初め聞かせてくれる?」
「あ、それいいですね!私も聞きたい!」
母親達は、二人でぐいぐい話を進め始める。
父親二人が、部屋を離れると、うちの母が浅緋に声をかけた。
「浅緋くん、ごめんね、うちのお父さんが。浅緋くんのことは、悪く思ってないのよ。心配しないで」
「あ、ありがとうございます」
「それに、緊張してあんまりご飯食べてないでしょう?お父さん見てないうちに、少しでも楽しく食べましょう。これ、すっごく美味しかったよ」
「あ、それ美味しかったですよね!お母さんはこれが好きだった。浅緋、今度うちに帰ってきたとき作ってみようよ」
「え、二人でご飯作るんですか?うちに来た時も手伝ってくれるから、すごく助かってるんですよ」
「あら、それは知らなかった。浅緋、やるじゃない」
…母達の弾丸口撃に、思わず二人で吹き出してしまった。
そうして、浅緋はようやく、冷めてしまった料理を少しずつ食べ始めた。
このお話、こちらの方が緊張してしまうんですよね…。
次回は私がこのお話でどうしても描きたかった、八束家のお話です。




