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お兄ちゃんとの仲直りーside琴音

今回は誠治朗の妹、琴音ちゃん視点です。

琴音ちゃん、とてもお気に入りなんです…。


-誠治朗が二人を見つける少し前-


「琴ちゃん、落ち着いた?」

「うん。ごめんね、じろちゃん」


じろちゃんとは、黒木宗二郎。兄の陽光(はるひこ)の友達の黒木宗一郎くんの弟で、幼馴染。

最近、元気がないから、とお散歩しようと誘ってくれたのが、さっき。

じろちゃんは落ち着きのあるお兄ちゃんと顔はそっくりなのに、虫が好きだったり、ちょっとやんちゃだったりする。そして、ものすごく優しい。

私が小さい頃から、更に上の兄の友達の浅緋兄ちゃんを好きなことを知っていて、

いつも嬉しかったことやら、遊んでもらったことを矢継ぎ早に話す私を、馬鹿にせずに最後まで聞いてくれていた。


-----------------------------------------------------------------


半年ほど前、浅緋兄ちゃんがうちに久しぶりに遊びに来ていた。

私が小さな頃から可愛がってくれて、優しくて料理が上手で、頭もいい。

結婚するなら、浅緋兄ちゃんがいいとずっと思っていたくらい、私は浅緋兄ちゃんのことが大好きで。


誠ちゃん…うちのお兄ちゃんはいつでも会えるんだからいいでしょ、とうちに遊びに来ると浅緋兄ちゃんにくっついて構ってもらっていた。


その日も、思う存分構ってもらって、そろそろ帰るというから、帰りに渡そうとして作ったエプロンを部屋に取りに行った。

浅緋兄ちゃんは料理を作るとき、必ずエプロンをする。

私は小学生の頃家庭科で習ってから、絶対に自分が作ったエプロンをプレゼントしたいと思って、1年近く練習してようやく完成したものだった。

びっくりさせたくて、そっと階段を降りて玄関へ向かった。

…なのに、視線の先では、初恋の人とうちの兄がキスしていた。

ほんの一瞬。だけどものすごく幸せそうで。

悪ふざけではないのが一目でわかった。


失恋した瞬間だった。


それからはもう、感情に任せて兄にも浅緋兄ちゃんにも言葉やものをぶつけた。

苦しくて、苦しくて。

今思い返すと、恥ずかしいくらい泣いて喚いてぐちゃぐちゃだった。


それから二人には何度も謝られたし、素直に話も出来ない私に困って、だんだん兄は家に帰ってこなくなってしまった。


時々帰ってきて、話しかけてくれるのに、私は拒絶した。


誠ちゃんのあんな顔、初めてみた。

私が知らない、お兄ちゃんの顔。


好きな人と、お兄ちゃん、いっぺんに失った気持ちだった。

簡単に、良かったね、なんて言えるほど私は大人じゃない。


あんなに頑張って作ったエプロンも渡せず、ごめんの一言すら言えず、誰にも相談出来ずに、半年が過ぎてしまった。


あまりにも家に寄らなくなってしまったことが寂しくて、

毎日ひこちゃんに「今日、誠ちゃん帰ってくるかなぁ」と聞く自分にも呆れていた。


だから、じろちゃんが外に連れ出してくれてすごく嬉しかった。

それなのに…公園に着くなり、ありの行列を眺め始めたじろちゃんに腹を立て、宥めてもらって今に至る。


じろちゃんには、事情をかいつまんで話した。


「ごめんねって、言えばいいのに」

「わ、わかってるよ。わかってても言えないんだから仕方ないじゃん…」


じろちゃんは、冷静に、正論を言う。

ごめんねの一言が言えたら、半年も拗らせていない。


「僕は誠兄ちゃんも、浅緋兄ちゃんも怒ってないと思うけどな。琴ちゃんのこと、待ってると思う」

「…そうかな。だって誠ちゃん、もう3か月くらいうちに帰ってきてないし…。嫌なこといっぱい言っちゃったから、もう私のこと好きじゃないかもしれない」

「琴ちゃんは、誠兄ちゃんのこと嫌いになったの?」

「ううん!」

「浅緋兄ちゃんは、琴ちゃんのこと嫌いだって言ってたの?」

「浅緋兄ちゃんはそんなこと言わないよ」


「それなら、後は琴ちゃんが素直になるだけだよ。琴ちゃんは可愛いし、頑張り屋さんだし、二人とも大好きだと思うよ、僕」

「そ、そうかなあ…」

「僕は笑ってる琴ちゃんが好きだから、仲直りして、元気になってほしいなぁ」


俯いていた顔を、じろちゃんへ向けると、にこっと笑っていた。

なんだか恥ずかしくなって、また俯いてしまう。

じろちゃんは、いつも真っ直ぐ目を見てお話してくれるし、嘘はつかない。

じろちゃんがそういうなら…そろそろ、素直になってもいいのかな…。


「お迎えに来てくれたんじゃない?琴ちゃん」

「誰が…」


じろちゃんの視線を追うと、公園の入口に、誠ちゃんが立っていた。


「…じろちゃん」

「琴ちゃんなら大丈夫だよ、ほら」

「…ありがとう、じろちゃん!」


じろちゃんにお礼を言って、走った。

勢いをつけて、誠ちゃんに飛びつく。

勘のいいうちの兄は、両手を広げて受け止めてくれた。


「誠ちゃん、ごめんなさい!!」


恐る恐る顔をあげると、にこにこした笑顔があった。


「ごめんな、琴。浅緋のプリンあるから、一緒に帰ろ」


「うん!!」


思わず振り返って、じろちゃんを見る。

大きく手を振って笑っているのが見えた。


「じろちゃーん!大好きー!!」


手を振り返して、誠ちゃんと帰路に着く。

少し私の後ろを歩く兄を見ると、なんだか困った顔をして頭を撫でてきた。


それが何だったのか、分かるようになったのはもっと私が大きくなってから。


「今日は、浅緋兄ちゃん来ないの?」

「まずは兄ちゃんと仲直りしてくれよ、琴」

「ふふ、そっか。ごめんね、誠ちゃん」


「俺こそごめんな。あんな風に傷つけちゃって」

「もういいよ。いっぱい泣いたし、いっぱい考えたし」

「うん」

「でも、私が悪いのに誠ちゃんが帰ってこなくなって…寂しかった」

「そっか」

「浅緋兄ちゃんにも…謝りたいから、今度会わせてくれる?」

「もちろん。浅緋も喜ぶよ」

「よかった」

「琴はほんと、ねーちゃんにそっくりだな」

「え、どこが?」

「怒り方と、ケロッとするとこと、実は寂しがりやなところが」

「えー?」


半年、まともに話していなかったことが噓のように、普通に話しながら家に帰った。

玄関を開けると、廊下でうろうろするひこちゃんと、なぜか一緒にお姉ちゃんがいた。


「あ、おかえり!」


「ただいまぁ!」


「…よかった、宗二郎に任せて」

「何?」

「ううん、何でもないよ」


なぜか涙ぐむ姉に抱きしめられ、

「ついでに僕も」とその後ろからひこちゃんがくっつき、

「んじゃ俺もー」とさらに誠ちゃんもくっついた。


ちょうど帰ってきたお母さんが


「あら…どしたの、これ」


とまんまるな目をして笑っていた。

その日は久しぶりにみんなでお鍋を食べて、デザートに浅緋兄ちゃんのプリンを食べた。



ちょこっと裏話

琴音ちゃんが陽光はるひこをはるちゃん、じゃなくてひこちゃんとよぶのは、

単に陽光の前世…彦から始まる名前だったのを私が気に入っているからです…。

誠治朗に名前を変えるときに、陽光も名前を変えたんですが、ひこちゃんは引き継ぎたくて…。

じろちゃん、はお兄ちゃんの宗一郎と呼び間違えないために、幼い頃の琴音ちゃんが考えた呼び方です。

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