悩んだ顔の理由はーside誠治朗
最近、浅緋の様子がおかしい。
よく一人で唸っている…かと思えばため息をつく。
料理をしていて、焦がすことも少し増えた。
あと、帰ってきたと思って玄関まで出迎えると、開けた鍵を閉めてガチャガチャやることも何回か見かけた。
付き合って約10年。言葉にすると、長く感じる。
あっという間のようで、長い時間だ。
恐らく、そろそろちゃんとしたい、と考えているんだろう。
一人で。
俺だってそう思ってる。
ただ、せっかくならお互いの家族にも受け入れてもらいたい。
きちんと、先のことを考えて一緒になりたいっていうこと。
考えてるのは同じなのに、なかなか話してくれない。
自分から聞こうかと何度も思った。
だけど…悩んでいるところも好きだった。
真剣に考えてくれてる。俺のために。
「ぎゅっとしとく?」
と聞くと、
「…しとく」と素直に抱きついてくるところも可愛い。
一緒にいられるだけで、幸せなのに。
そんなに、悩むことかなぁ。
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「誠治朗、ちょっと、ここ座って」
いつもと変わらずだらだらと過ごしていたある休日。
妙に真剣な表情で浅緋に呼ばれた。
「なに、どしたの。怖い顔して」
「いや…その…」
言い淀む。そういう時はだいたい、何か大事なことを伝えたい時か、何か打ち明けたいとき。
とりあえず、真剣に話をしたいんだな、と察して次の言葉を待つ。
「俺は、お前が思っているより…誠治朗のことが好きだ」
「え、あ、ありがとう」
「…だから…その…」
浅緋がふぅ…っと息を吐いて、短く息を吸う。
「この先もずっと、一緒にいてほしい」
周りの音が、一瞬聞こえなくなった。
目の前には、リングケースを開けてこちらを見る浅緋。
これ、俺もしかしてプロポーズされてる………?
あれ…これ…は…物凄く…
「せ、誠治朗…?」
こちらに伸びてくる手。
拭われる頬。
抱き寄せられる体。
嬉しすぎて、声も出ない。
止まらない涙。
頷いて、抱きしめ返すと、浅緋の肩の力が一瞬抜けるのが分かった。
「はぁ…緊張した…っ」
いつもはあんなに余裕そうなのに、相当緊張していたらしい。
「っ、あさひ、っ、指輪、つけて」
改めて座り直して、左手の薬指に指輪が通る。
いつもは何もない指に、少し重さが感じられた。
「俺、今1番幸せかも…」
「それはよかった」
久しぶりに、笑顔の浅緋をみた。
それからしばらく、何度も自分の左手を見てはニヤける俺に呆れながらも、自分も嬉しそうにしていることを、俺は知っている。




