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どうやら懐かれたらしい

あれから、週に2回ほど、俺が食べ終わる頃に尾浜が生物準備室に来るようになった。


「お前ほんとによく食うよな…」


尾浜は細身に見える割にものすごくよく食べる。

ここに来る前にしっかり昼飯食べてから、購買でパンを買って持ってくる。

その体のどこに入っているんだと疑うほど。

そして、毎回本当に美味そうに何でも食べる。

これも俺とは正反対。正直、馬が合うとは到底思えないのに、なぜか一方的に懐かれてしまったようだ。


「それ、よく言われる。俺は普通に食ってるだけなんだけどな」


「そう言われるの嫌なら言わないけど…」


俺は人に"一緒に食べよう"だとか、"もっと食え"だとか言われるのが好きじゃない。それが苦痛で倒れたほどだ。

誰にでも言われて嫌なことがあるだろう。


「や、全然!むしろ嬉しい!」


なんでそんなにこにこしてるんだ…。

気遣って損したじゃないか。

自分のひねくれ具合に呆れてしまう。


「そういえばさ、八束、料理はするんだよな?」

「あぁ、趣味程度だけど…」

「今度俺にも弁当作ってくれない?」

「は…?」

「あ、ちゃんと材料費払うし!」

「なんで」

「八束と同じの食べたら、一緒に食べた気持ちになるじゃん?」

「…どういう理論なの、それ」


相変わらず言っていることがよくわからない。

なのにこいつ、どうやら成績上位だし、運動も出来る。

本当に理解出来ない。


「いつもどんなの食ってるか気になるし、純粋に八束の作ったの食べたい!だめ…かな」


そういえばこの間、木下先生と三人で話しているときに弁当はほとんど自分で作っていることや、休みの日は料理をしていることをちらほら話した。

それで興味を持ったらしい。


「別に、大したもの作ってないし。母親が作る日もあるし」

「いいんだよ、八束と同じの食いたいの」

「…変なやつ。来週…いつ来る?」


「え、いいの!?」

「お前が言ったんだろ。空いてるなら金曜日、弁当箱持ってこい。俺のじゃ足りねぇだろ、絶対」


俺の弁当箱は、一般的な男子高校生にしては小さい方だ、と思う。

こいつが食うにしては絶対足りない。


「八束、愛してるー!!」

「わ、やめろよ気持ち悪い!!」


急に尾浜が抱き着いてきた。犬みたいなやつだ…。


「おお、お前ら随分仲良くなったな」


尾浜を引っぺがしていると、木下先生が笑いながら入ってきた。


「全然仲良くないです!こいつが勝手に…」

「八束ったら素直じゃないんだから。ね、木下先生」

「確かに八束は少し不器用だからな」

「先生、八束が今度俺に弁当作ってくれるって!楽しみー!!」

「よかったな、尾浜。あ、八束、無理するなよ?」

「大丈夫です」


金曜日、約束通り、尾浜は空の弁当箱を持ってきた。

が…


「お前…どんだけ食う気…」

「いやいや。八束くん、これ普通だよ」

「いや、これは多いだろ」


想定していたより大きな弁当箱で、何を入れるか…

まあ、白飯多めに詰めるか…


「ね、材料買いに行くのついて行っていい?」

「は?」

「明日、一緒に買いに行こうぜ!!」

「絶対やだ。お前と買い物とか行きたくない」

「なんでだよ!」

「お前うるさいから」

「うるさくないって!」

「それがうるさいんだって」

「んじゃ静かにするから。スーパー行くだけだろ?」

「…週末スーパーはしごするし、八百屋のほうが安かったりとか…色々あんだよ」

「…本格的だ。え、やっぱり絶対一緒に行きたい」


変なやつ。全然食い下がらない。

本格的ってなんだよ。安さとか、新鮮さとか優先するだけなのに。


「…明日、13時。駅前」


「…!わかった!あ、八束連絡先教えて!」


結局尾浜の勢いに気圧(けお)されて、一緒に買い物に行くことにした。




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「何買うの、八束」

「卵と野菜と肉。あと今晩の晩飯の材料」

「へぇ、わかった」

「…尾浜さ、意外と力あるよな?」

「ん?まあ、それなりに?」

「ついでに米買っていい?持てる?」

「いいよ」


休日に誰かと買い物に出かけるなんて…初めてだ。

こんな…普通の食材を。


行きつけのスーパーやら、八百屋、肉屋などそれぞれ回っていく。

八百屋のおじさんには

「あれ、浅緋(あさひ)彼氏か?」

と茶化され

肉屋のおばさんには

「あら浅緋(あさひ)のお友達?イケメンねぇ…コロッケ食べる?」

とナンパされ…


そのたびに

「あ、浅緋(あさひ)の友達でーす!」だの

「いいんですか!?うまそー!いただきまーす!」

だの、

とにかく愛嬌があるこいつはうまく対応してて

なんだ…こいつ…と思った。

人見知りの俺には到底出来ない所業だ。

恐ろしい…。


「よし、あとはここ。ここは戦場だ」

「戦場?」

「ここの卵、タイムセールで安く買える。ただしお一人様1パック」

「な、なるほど。奥様達の戦場か」

「そうだ。お前もよろしくな」

「へぁ、俺も?」

「当たり前だろ!そのための要員だ」

「…このためにOKくれたの、八束」

「そう」

「なるほど…道のりは果てしないな、」

「は?ほら、行くぞ!米もここで買うんだからな」


思いの外すんなり買えたのは、尾浜効果だったのかもしれない。

なぜだかするするっと人の波をすり抜け、

いつもはぎゅうぎゅう詰め寄る奥様方が、尾浜に手懐けられていた。

…やっぱりこいつ只者じゃないな。


いつもは自転車か、父親がいる日に車を出してもらって買う米も、尾浜はなんなく持ち歩く。


「ここ。入って」


さすがに半日連れ回し、重い米まで持たせてしまったからお茶くらいだそうと家に連れてきた。


「あれ、浅緋(あさひ)おかえりー…え、もしかして噂の尾浜くん?」


家に入ると母親が帰ってきていた。

今日は早い上がりだったらしい。


「ただいま。米持ってもらったから、お茶くらい出そうかと思って」

「え、やだお米まで買ってきてくれたの?!ありがとう。ごめんね、重かったでしょー?」

「あ、いえ全然。尾浜です。すいません突然。お邪魔します」

「どうぞどうぞ。尾浜くんお腹空いてない?よかったらホットケーキ焼いたんだけどちょっと遅いけどおやつにどう?」

「いいんですか!?いただきまーす!」

浅緋(あさひ)、それ運んだらふたりで手洗っておいで」

「あ、うん」



手を洗って、ダイニングに向かうと、ちょうど一人分焼き上がったところだった。


「母さん、後俺やるから」

「あ、そだね、お願いしちゃおーっと」


母親用に、もう2枚焼いていく。


「冷めちゃうから、尾浜くん食べて食べてー」

「あ、んじゃいただきまーす」


少しこちらの様子を伺ってきた。

いつもは少し離れて食べるからだろうか。


「え、おいしっ!」

「でしょー?よかった!浅緋(あさひ)が言ってた通り本当に美味しそうに食べるのね」

「あ、ちょっと母さん…!」

「え?」

浅緋(あさひ)、家であんまり学校のこと話さないんだけど、最近は木下先生とか、尾浜くんのこと話してくれるのよ」

「…っ!」


尾浜が目をキラキラさせてこっちをみてくる。


「なんだよ、世間話だよ別に。母さん、はい」

浅緋(あさひ)ったら素直じゃないんだから…あ、ありがと!」


人たらし尾浜を気に入って、結局晩飯を食っていけってことになった。

いつの間にかうちの母親と仲良くなった尾浜は嬉しそうにいいんですかー!なんて言って、こちらを見てきた。


本当に…どこまでも恐ろしい奴…。



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