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線香花火と乾いた唇ーside誠治朗

今回は誠治朗視点で、告白した花火の日に戻ります。


浅緋が倒れてからしばらくして、体調が回復したと連絡をもらった。

遠慮なく、八束家を訪ると、つい先日より随分と顔色のいい浅緋が出迎えてくれた。


心配したんだぞ!と強がりながらも伝えると、ちょっとおどけつつも、おばさんに連絡したことへの礼を言われた。

そして、そのお礼に、と食卓には卵焼きに唐揚げ、ハンバーグ、サラダに野菜スープ。

いつもよりはちょっと控えめな山盛の白飯。


「そんでこれが仕上げの…」


浅緋が、どこから出したのか、可愛らしい星のマークの小さな旗のピックをハンバーグにさした。

ちょっと得意気な様子で、好きなだけ食えよ、とか言う。

なにそれなにそれ。え、なにそれ。

なんだか体温が上がる感じがする。


いつものごとく、浅緋の料理はどれもこれも美味い。

病み上がりだから、気にせずに食えという浅緋に見られながら、俺はぱくぱく食べた。


そう言えば…と食べながら、浅緋が寝込んでいる間に送ったメッセージに花火しようと書いたことを思い出した。

それを浅緋に言うと、もうそろそろ売ってないんじゃないかとか言う。

甘いな、8月の後半にもなれば、値引きのワゴンに並びだすのだ。


「尾浜、ソース、ついてる」

ふいに、浅緋に声をかけられた。

「え、どこ?」

「そこ、口元」

浅緋に指さされたあたりを触る。

「違う、こっち」

反対を触ると、もどかしかったのか、浅緋が立ち上がった。

「だっ!違うここ!」


浅緋の手が、俺の口元を掠めて、ソースを拭った。

一瞬、脳がフリーズする。

ものすごい勢いで、心臓が音を立てて暴れだした。

とりあえず、食べよう。と下を向いてハンバーグを頬張る。


あ、どうしよう。

すごい…好きだ……。


-----------------------------------------------------------------


うるさい心臓を落ち着かせながら、夕方二人で花火を買いに出かけた。

適当に見繕って、買って帰る。線香花火は必須だな、なんて言いながら。


こんな住宅街で花火をしようとしている浅緋に、思わず「…海行くか!」と伝えるともう夕方だと顔をしかめられた。

夏休みだぞ!と言って、強引に納得させて、八束家の晩御飯の支度を手伝った。

あれから何度も来ているうちに、俺も前よりだいぶ、手際が良くなってきたと思う。

昼にも食べたハンバーグを焼いて、浅緋が準備したのは、昼とは違って玉ねぎを使った和風ソース。

それにポテトサラダとコンソメスープ。

それを容易く作ってしまう浅緋の手際の良さに見とれる。あと、エプロン姿にも。



-----------------------------------------------------------------


電車に揺られている間、ずっと考えていた。

俺はいつまで尾浜と呼ばれるんだ?

別に、村上や風見から呼ばれる分には、何とも思わない。

誠治朗という名前は、苗字より文字数が多い。

尾浜のほうが呼びやすいなら、それでいい。

だけど…。浅緋には、名前で呼んで欲しいと思った。

なんて切り出そうか…。


気づけば駅から歩いて、砂浜に着いていた。

「尾浜・・・、まだ歩くのか…?」

「んぇ?あぁ、この辺でいいか!」


また、()()。確かに、俺は尾浜。尾浜なんだけどさ…。


先ほど二人で買った手持ち花火に火をつけた。

珍しく、浅緋が写真を撮っている。可愛い…。なんだそれ。いつもそんなことしないのに。

…そうか。浅緋、もしかしたらこんな風に友達と花火したことないのかもしれない。


物思いにふけっていると、

()()、次どれにする…?おーい」

俺の目の前で手を左右に振る浅緋。


「…んー、これかな」

「ぼーっとしてるとケガするぞ。…どっか具合悪いのか?あ、昼間食いすぎた?」


病み上がりのくせに、俺の心配をしてくれる。

………。どうしよう、心臓がうるさい。


「いや…全然平気」


全然平気じゃない。お前が好きすぎて死にそうになってる。


「んじゃなんかあったのか?」


心配そうに顔を覗かれた。

待って、ちょっと、待って。その顔、初めて見た。

少し息を吐く。


「んー、浅緋さ、そろそろ名前で呼ばない?俺のこと」


勇気を出して、言ってみる。

返ってきたのは、「は?」

「誠治朗って長いのはわかるんだけどさ、せっかく仲良くなったし…その…どう?」


尻つぼみになる言葉。浅緋の顔色を伺う。

待つこと1分。


「…っ…せ…誠治朗、これでいいか…」


思わずばっと浅緋を見た。

ちょっと、感動で言葉に詰まる。


「っ、!うん!いい!」


さっきまであんなに悩んでたのが、噓のようだった。

と、喜んだのも束の間。


「ほら、線香花火やったらそろそろ帰るぞ」

遅くなると補導されて面倒だから、と真っ当なことを言われる。

ぐうの音も出ない。


最後はお決まりの線香花火。

中身は6本。


「んじゃ、線香花火長く残ったほうが勝ちな」

家のノリで、そう言うと

「おう、受けて立つ」

とか、思いのほかノリがいい。


ああ、帰りたくないな…。

心からそう思った。


消えないでくれ、と念じながら始めた一本目。

ぽと…と俺の火花が地面に落ちた。


「よし、まずは俺の勝ち!」


珍しくはしゃぐ浅緋に、胸が高鳴る。

このまま、この時間が止まればいいのに。


二本目に火をつける。

少しでも長くもて…と念じる。

隣の浅緋も、静かに自分の花火を見つめていた。


ぽと…と浅緋の火花が落ちた。


「あ、だめだったか。…これが最後だな」


会おうと思えば、また会えるのに。

夏休みに会えなかったとしても、新学期になれば学校でも会えるのに。

「最後だな」という一言が、ひどく寂しく聞こえた。

このまま、帰りたくない。引かれても構わない。


最後の花火に火をつけた。

段々小さくなっていく火花を、そっと見つめる。

もうどちらが落ちてもおかしくない。

今だ…と思った。


「浅緋、あのさ」

「なんだよ、今めっちゃ真剣に…」


急に話しかけられて、手元から目を離さない。


「俺、浅緋のこと好きだよ…」


最後の火花は、多分、ほとんど同時に落ちた。

さっきまで花火の灯りで明るかった手元が、暗くなった。


ゆっくりと俺の顔をみて、

「誠治朗、今なんて言った?」

()()()、ついさっき呼んでくれるようになった名前を自然に呼ばれた。


「俺、浅緋のこと好きだよ」

先ほどと全く同じ言葉を繰り返した。

固まる浅緋が、「それは…どういう…」とか言う。

あ、伝わってないのか。俺、めちゃくちゃお前のこと好きなのに。

少しイラッとして浅緋に近づく。


「…ちょっと、浅緋目瞑って」


戸惑う浅緋に強引に目を瞑らせた。


浅緋の唇に触れた。ちょっと乾いてる。


「ん、もういいよ。これで伝わった?」と聞くと、たじろいでもごもごしてる。

まだわかんねえのか…とイライラが勝つ。

「もう一回する?」というと、壊れた人形のように頷かれた。


思わず浅緋をぐいっと寄せて、さっきよりしっかり口づけた。

さすがにこれで伝わるだろうと思って。


「まだわかんない?」

「いえ、十分です…」


見たこともないくらいに固まる浅緋に、やりすぎたかと反省する。


「ごめん、よくわかった。…けど、ちょっと気が動転してて…返事、するから…ちょっと時間くれ。…また連絡する。俺からするから…それまで待ってて」


あ、伝わったんだ。それなら、まあいいか。


二人で片づけをして、一緒に駅に向かった。

無言で。


「じゃ、気を付けて帰れよ」

と言って、浅緋は電車に乗って帰っていった。


………。やってしまった。

相手は病み上がりなのに…。なんで、もうちょっと考えてやらなかったんだ…!!


家に帰りながら、一人で反省会をする。

なんだか上の空だったけど、浅緋は気を付けて帰れよ、まで言ってくれたのに。


「はあ………」


「なに、どしたの。悩み事?」


家に帰ってきていたねーちゃんが、俺のため息を聞いて近くに寄ってくる。


「あ、誠、花火したでしょ。火薬のにおいする…早くお風呂入ってきな」


ああ、花火…。花火…。


いつもなら、今日はありがとな!くらい送ることができるメッセージも、送ることが出来ない。


"…また連絡する。俺からするから…それまで待ってて"

浅緋の言葉がくるくると回って、ことん、と落ちてきた。


「はあ………」


いつまでだろう…。俺、もう今すぐ会いたい…。


「おい、誠治朗、早く風呂に入れ!!」


奥から父さんの声がしたけど、俺はしばらく、動けずにいた…。



ちょこっと裏話

誠治朗のお姉ちゃんは静奈しずな。3つ年上のはきはきとしたお姉ちゃんです。

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