兵助との和解
その後、木下先生に鍵を返しにいき、お礼としてマフィンを渡すと
「仲直り出来てよかったな、八束」
と、大きな手でガシガシと頭を撫でられた。
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家に帰り、晩飯の準備をする。
久しぶりに、カレーが食べたいと父さんが今朝言ってきたので、今日はカレー。
ここのところ、甘いものばかり続いてたからかもしれない。
スパイスの香りに、ほっと一息ついた。
「あ…ごめん父さん。俺…」
炊飯のスイッチを押すのを忘れていたらしい。
母さんも遅かったから、全く気が付かなかった。
…思ったより浮かれていたようだ。
「今から炊こう、スイッチなら父さんでも押せるし」
我が父ながら、こういうところを尊敬する。
「炊けるまでみんなでトランプしよう」
あいつに出会うまで、こんなことは想像もしなかった。
うちにトランプがあることすら知らなかった。
一緒に食事をとれない。それがすごく後ろめたくて。
気にしないように、そっとしておいてくれた分、腫れ物に触れるように、一定の距離を保っていた。
俺のせいで外食も出来ない。それなのに、嫌な顔一つせず、俺に合わせてくれていたんだ。
「父さん、ありがとう」
「ん?どうした?」
「いや…なんでもない」
その日、久しぶりにぐっすり眠った。
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誠治朗と付き合うことになってから、気づいたことがある。
実は、ものすごい照れ屋だということ。
照れると一時的に固まる。それが面白い。
花火の時はあんなに積極的だったくせに。
自分から茶化しておいて、反撃すると固まる。
そこが可愛い、とか思うようになっているから、俺も大概だなとは自覚している。
まあ、そんなことは言ってやらないけど。
特に隠しているわけでもないが、おおっぴらにするつもりはなくて、結局、今までと変わらない感じで、学校では接している。
そんなある日、誠治朗から日比谷にだけは話しておきたい、と言われた。
正直、あまり気が進まなかった。
俺と違って、日比谷とはかなり幼いうちから仲がいいようだし、
初めて日比谷と話した時の、あの感じは…
もしかしたら、日比谷が誠治朗のことを好きなんじゃないか、とずっと心の奥底で思っている。
「だめかなあ」
この食いしん坊犬め…
そんな顔で言ってくるんじゃない。
俺がその顔に弱いのを知っている癖に…。
「…わかった」
次の日曜日、日比谷と会うことになった。
自分で言いだしたくせに、誠治朗は少し遅れてくるらしい。気まずいから、早く来いよ…!
「八束。久しぶりだね」
「あ、あぁ」
「あれ…もしかして俺、警戒されてる?」
「いや、別にそんなつもりは…」
「安心していいよ、俺と誠治朗は幼馴染」
「…誠治朗のこと好きなんだと思ってた…」
「え!そうなんだ、それは悪かったな。あれ…もしかして俺が誠ちゃんのこと可愛いって言ったのが、もしかして悪手だった?」
「…自覚あったのか、あれ」
「ごめん…勘違いさせるつもりじゃなかったんだ。誠ちゃんが八束のこと好きなの聞いてたからさ、こう…誠ちゃんの良いところを知ってほしかっただけなんだ…ごめん」
「いや、まさかそうとは知らず…。こっちも悪かった、なんか…気を悪くさせてしまって」
「いいよ、全然!あ、よかったら俺とも仲良くしてくれる?」
俺が思っていた以上に、いい奴だった。
仲良くなってから聞いたが、目力が強すぎて、よく誤解されると嘆いていた。
日比谷の目力に弱いのは、どうやら俺だけではないらしい。
「あさひー!へーすけー!」
日比谷と話し終えた頃、ようやくやってきた誠治朗。
…あれは多分、もっと早くに着いていたのにわざと遅れてきたな。
「来る途中で優と会ったんだ。ただ松田先輩に見つかっちゃって、危なく引きずられるところだった…」
「優?」
「あ、中学の部活の友達。隣の高校なんだ。前に練習試合来てたろ?」
「いや、相手まであまり見てなかったから…」
「八束は誠治朗しか見てなかったもんな」
隣から、痛いところをついてくる。
「あと、兵助の長年の想い人だし」
「あ、誠ちゃん!バラすことないだろ!」
「いいだろ、兵助だって俺らのこと知ってるんだし。なんか…二人仲良くなれたみたいだし!」
「…ま、いっか」
こうして、俺らは仲良くなった。
気づいたら、既に冬。
休みをうちで過ごす予定にしていたある日、
誠治朗から連絡が入った。
■浅緋、子ども平気?
子ども…?
ちょこっと裏話
木下先生は、なんとなく前から浅緋と誠治朗のことを感づいていました。
恐るべし、木下先生…。




