甘いお菓子のその後で
木下先生が見逃してくれたおかげで、ようやく話をする時間ができた。
「誠治朗、ごめん。俺、実はあの日のこと…その…驚いて後半全然記憶になくて…」
「それなら、もっと早くにそうやって連絡が欲しかった」
誠治朗の話では、あの後どうやら返事は後でさせてほしい、俺から連絡するから待っててほしい
と言って駅まで一緒に帰ったらしい。
全くもって記憶にない。
恐ろしい。
「だから俺ずっと待ってたんだよ。いつも俺から連絡するから、めっちゃ我慢して…おかげで夏休みの終盤、兵助に付き合わされてえらい目に遭ったんだからな」
「ご、ごめんって」
「ま、いっか…俺が怒ってると思って卵焼き焼いてきてくれたの?」
「あ、やその…卵焼きは…なんというか、口実で…」
「え、俺浅緋の卵焼き食べたくて走ってきたんだけど」
「あ、ある!あるよ」
おずおずと卵焼きが入った容器を差し出す。
「やった、食べてもいい?」
「どーぞ」
「うまぁ…」
開けて口に入れたとたん、目尻が下がる。
あぁ、この顔が見たかったんだ。
「そういえば、なんかお菓子みたいな甘い匂いするけど」
確信犯なのか、天然なのか…。
「あ、これ。お前に…作ってきた」
これまたおずおずと、ラッピングまでした焼き菓子を渡す。
「え、俺に?浅緋、お菓子も作れたの?すげぇ!」
「ま、まあ…」
お前のために1週間かけて練習したとは…言わなくてもいいだろう。
「クッキーと、カップケーキ?」
「マフィンだ」
「…食べてもいい?」
「ど、どーぞ」
初めて弁当を作ってきた日を思い出す。
あの日も…緊張した。
「ん、んま…」
卵焼きを食べた時と同じ、ぐっと目尻が下がる。
ごくんと飲み込んで、こちらを見ると
「ね、浅緋、めっちゃ美味しい!」
この笑顔が見たかった。
俺が作ったものを食べて、嬉しそうに笑う、こいつの顔が。
「誠治朗、好きだ」
「え…?」
「俺も、お前が好きだ」
みるみるうちに、誠治朗の顔が赤くなっていく。
「ほんと…に?」
「確かめてみる?」
あの日のお返しを、そっと引き寄せて返す。
あの日と違って、甘い、甘い唇に。
「木下先生には内緒だぞ」
「は、はい…」
やましいことはしないので、と見逃してもらった。
キスはやましいことに入るんだろうか。
まあ、すでに授業もサボってるし、もういいか。
後で木下先生にも、お礼のマフィンを差し入れしよう。
ちょこっと裏話
誠治朗、美味しいと目尻がぐいっと下がります。
それが浅緋にはぐっとくるそうな…。




