男子高校生の悩み 1ーside誠治朗
練習試合当日。
夏期講習が終わり、軽く昼飯を食べてユニフォームに着替える。
中学の頃はセッターだったが、今は全くやっていない。現役の中野先輩がいるし、今回は空いているレフトのポジションに着くことになった。
クラスのバレー部の山瀬と一緒に体育館へ向かう途中、浅緋が歩いて来るのが見えた。
「あれ、浅緋今帰り?」
「あぁ、尾浜は…部活か?」
俺のユニフォーム姿をみて、不思議そうな浅緋。
急遽助っ人として出ることを説明して、ふと
「あ、ちょっと見ていく?」
なんて言ってみた。多分、来ないだろうな…。
「ん…あぁ、少しくらいなら」
浅緋の返事に、驚いた。
え、来てくれるの?浅緋が?
少し離れて待っていた山瀬が、先に行くと声をかけてきた。
「あぁ、すぐ行く!ギャラリーか、入り口からも覗けると思うから。んじゃ!」
少し早口で説明して、その場を離れた。
ほんとに…浅緋来てくれるかな。
「誠治朗、遅いぞ!」
「すみません!!」
ほんの少し、そわそわしながら、念入りにアップをする。
練習試合の相手は、隣の工業高校。中には、中学で一緒だった竹田優がいる。
実は、優は兵助の長年の想い人。
気さくで、生き物が好きで、はきはきとした気のいい奴だ。
兵助にも昨日声をかけておいたから、もう少ししたら来るかな?
「よし、気合入れて行くぞ!!」
練習試合とはいえ、両者どちらも気合十分で幕を上げた。
付け焼き刃で練習したものの、体が感覚を覚えている。
それに、散々松田先輩にしごかれた。嫌でも体が動く。
久しぶりの感覚に、なんだか高揚した。
楽しい。
ギリギリ競って、1セット目を取った。
ベンチに戻りながら、ふと上を見上げると、兵助の隣に浅緋の姿が見えた。
嬉しくて、思わず手を振る。
兵助がにこにこと手を振り返してくれて、そのまま浅緋に何か言っている。
「尾浜ー、これ?」
「あ、うん。さんきゅ」
休憩を挟んで、2セット目が始まった。
茹だるような暑さの中、2セット勝ち取り、試合は終了した。
試合終了と共に、ギャラリーを見ると、もう浅緋の姿はなかった。
帰り道、浅緋にメッセージを送る。
別にすぐ返ってくるわけじゃないけど、それでも毎回、何かしら返信をくれるから、
今日の感想何か言ってくれないかな、なんて少し期待をして、家に向かった。
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「なんでだろ」
「どうした、尾浜」
「いつも何かしら返信くれる人から返事来ないのはなんでだと思う?」
「お、彼女か?」
「いや、そこまでいってない」
「おい、尾浜、聞いてない。なにそれ、ちょっと詳しく!」
夏期講習最後の日、例のごとく村上と風見と話し出した。
「んー、夏風邪ひいた、とか?」
「尾浜よりいい人と出会っちゃったとか?」
「まあ、夏休みだしな。そんなこともあるよな」
「あとは…なんか思い当たることないの?尾浜」
「え…ない」
全く身に覚えがない。だってあれから話してないし、そもそも返信が来ないから次はまだ送ってもいない。
「あ、もしかしてちょっと駆け引きされてる、とか?」
「駆け引き?」
「そうそう。感想言うより、尾浜から夏休み誘われるの待ってる、とか」
「そうか?それなら感想くらい先に送ってくれても良さそうだけどな」
「うーん」
「わかんないな、悪い尾浜。役に立たない俺たちで」
「あ、いいよ全然、ありがとな」
「ちょっと気になるから、また続報、メッセでくれ」
「そうそう、グループのやつに!」
「そうする」
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「どう思う?兵助」
「んー、この前何かしちゃったかなぁ」
「この前?試合、見に来てくれた時?」
「うん。たまたま、八束に会ったから誘って一緒に見てたんだ。誠ちゃんの魅力を伝えようと努力してみたんだけど…」
「そうなの?」
「うん」
「んー」
「あ、俺が先に誠治朗に手振り返しちゃったからかなぁ」
「そんなことですねるような奴じゃないし、そもそも多分、違うと思う」
「少し日も空いたし、もう一回連絡してみたら?」
「あ、そうか。そうだよな」
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それからもう一度、元気?と送って2日。既読すら付かない。
「どう?」
「こない。というか既読も付かない」
「んー、やっぱり体調崩してるとかかな?」
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「せいちゃん!おまつり!!」
妹の琴音と商店街に買い物に出かけると、商店街は夏のお祭りを催しているようだった。
「こと、あれ食べたい!」
「え、琴にはあれ多いよ。兄ちゃんと半分ならいいけど」
「えー、せいちゃんいっぱい食べちゃうからやだなあ」
「う…。んじゃ、こっちは?」
「うん!こと、それにする!!」
お祭りはまだ何日かやっているようだ。
あ、浅緋のこと誘ってみようかな。
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………。どうしよう。全然、既読が付かない。
「なんか怒ってんのかな…」
ついに策もつきて、思わず独り言ちる。
なにかアドバイスがほしくて、村上と風見、兵助とのグループにメッセージを送る。
兵助は、もう少し様子見たら?
風見は、電話しろ!
村上は、家まで行ってこい!!
なるほど。それだ!!
既読が付かないから、電話をかけてもきっと出ない気がする。
家まで行って、顔見て来よう。もしいなくても、浅緋のお母さんがいたら、ちょっと挨拶すればいい。
みんなに礼を言って、浅緋に念のためメッセージを送った。
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来てみたはいいものの、なんも手に持たずに「よ!」じゃ悪いよな。
いつも飯食わせてもらってるし…。あいつ昼飯食ったのかな。
口実用に、素麵を買って、八束家へ向かった。
インターホンを押して少し。
「尾浜です。浅緋に会いにきましたー」
というと、なんだか不機嫌そうな浅緋が出てきた。
一応連絡は入れておいたものの、やはり見ていなかったらしい。
俺的には、突然じゃなかったのにな…。
とりあえず、話す元気はありそうだ。
無理やり家に上がらせてもらい、二人で素麵を茹でた。
何度か来るうちに、お母さんが俺用の箸と食器を用意してくれたので、今日もそれが並ぶ。
…正面に座って顔を見ると、なんだかやはり顔色が悪い気がする。
心配で声をかけると、不機嫌なせいか一発デコピンを食らった。
額を抑えながら、心配なんだから仕方ないだろ、と言うと夏バテだと返された。
いつものように、なるべく見ないように、素麵をすする。
でも、どうしても気になって、浅緋のことを見てしまった。
あれ…
「あさひ?どした?」
なんだかさらに顔色が悪い。
「あ…悪い。ちょっと」
浅緋が立ち上がって、その場を離れた。
あ、俺が食べようとしてるとこ見ちゃったから…。
夏バテだって言うなら、もしかしたら食欲なかったのかも。
洗面台のほうから水音がする。
居ても立っても居られなくて、急いで向かった。




