誠治朗は自覚するーside誠治朗
村上くんは誠治朗の隣の席の男の子。名は颯くんです。
途中にでてくる風見くんは誠治朗の前の席の男の子。名は壮馬くんです。
やいやい担当コンビで、だいたい村上くんにツッコミしてるのが風見くん。
浅緋が弁当を作ってくれた日から、少しずつ、浅緋と昼飯を食べることが増えた。
横に並んで、顔は見ないように。
でも、なんか話しかけると、必ず反応が返ってくる。
クラスの友達と食べるのももちろん楽しいけど、浅緋と過ごす昼休みは、全然違う楽しさがあった。
週末、一緒に買い出しに行って、八束家でご飯をごちそうになって、月曜日に浅緋が弁当を作ってくれる。
そんな風に前より距離が近くなって、段々浅緋が打ち解けてくれるようになったのが、一番嬉しかった。
「尾浜、最近あんまり早弁しないな」
隣の村上にそう言われて、初めて気づいた。
前は早弁して、購買でパンまで買っていたのに、浅緋と昼飯を食べるようになってから、それが随分減った。
「彼女か?ダイエットか?」
「え、尾浜彼女いんの?」
前の席に座る風見が村上のそれに反応してきた。
「違うから。彼女なんかいないっつの」
「ほー、その割にはなんか最近随分楽しそうだけど」
「日比谷、なんか知らないの?」
周りに茶化されて、兵助に飛び火が飛んだ。
「んー、もうすぐ夏だからかな?」
「…日比谷、どういうこと?」
「颯馬鹿だな、暑くなってきて食欲落ちてきてるってことだろ」
「え、そうなの?尾浜無理すんなよ?」
兵助の発言により、なぜか暑さにやられ始めたという解釈に落ち着いた。
兵助を見ると、なんだかにこにこしていた。
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その日の帰り、兵助と一緒になった。
「兵助、今日ありがとな」
「え?何が?」
「村上たちのこと、うまくやり過ごしてくれて」
「ああ、あれか。誠ちゃん楽しそうなのは俺も嬉しいし」
「そうか?」
ふと校庭を見ると、浅緋が歩いているのが目に入った。
「あ、」
俺の視線を追って、兵助が気付く。
「ああ、彼が八束なんだ。ふふ、すぐ見つけるなんて、さすがだね」
「あ、いや…まあ」
そう言われて初めて気づいた。浅緋を初めて見かけた日から、見つけるとつい目で追ってしまっていることに。
「好きなんだね、それくらい」
「え…え?俺が?」
「あれ、違った?」
思わず顔が熱くなる。
「気がついたら目で追ってしまって、一緒にいると楽しくて、次はいつ会えるのか考えちゃう」
「はい…」
「笑ってくれると嬉しくて、返信がきたら何度も見返してしまう」
「はい…」
「夏休みが来るのが寂しい」
「…はい」
「ほら、ね?」
ああ、俺浅緋のことが好きなんだ。
兵助に言われて、やっと実感した。
穏やかに、にこにこしながら、的確なことを言われた。
「俺も知ってる。その気持ち」
そう、兵助にも同じように想う人がいる。
他校に。
「夏休み、夏期講習もあるし全く会えないわけじゃないだろ?」
「まあ、そうだな」
「お祭りとか、誘ってみたら?」
「でも多分、買って食べ歩き、とか難しいと思うし…」
「誠ちゃん、お祭りって別に食べながら歩かなくても楽しいでしょうが」
「いや、俺はお祭りに行ったら絶対に焼きそばとたこ焼きとかき氷は食べないと気が済まない」
「……誠ちゃん」
「あ、そういうことじゃないよな。なんか…誘ってみようかな」
「それがいいと思う。俺も…誘ってみようかな」
段々日が長くなって、暑い日差しが眩しくなって、俺は高校で初めての夏休みを迎えた。
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夏期講習は、大体午前中で終わる。
せっかく夏休みになったのに、学校に来なくてはいけないなんて…と今までなら思っていた。
浅緋を好きだと自覚してから、学校に来るだけで、なんだか浮足立つ自分がおかしかった。
なるべく、顔にも態度にも出さないように。
気を付けないと、つい顔が緩んでしまいそうだ。
廊下ですれ違う時、前まではあんまり返事をしてくれなかった浅緋も、
「よ、今日も暑いな」
なんて言ってくれるようになった。
「…なんで講習は午前だけなんだ」
シャツを捲り上げ、うちわで顔を仰ぎながら、独り言を口に出していたらしい。
「は、尾浜マジで言ってんのそれ?」
「暑さのせいだろ?な、そうだよな尾浜」
「いや、俺は違うと思う。目が本気だ」
「いやいや、暑さで気が遠くなってるだけだよ。帰ってこい、尾浜」
村上と前の席の風見が好き勝手に喋りだす。
俺もいよいよだな、と天を仰いだ。
「ああ…あちぃ」
「ほらな、お帰り尾浜」
「なんだよ、心配させんなよ」
茶化してくるが、根はいい奴らだと思う。
「おーい、誠治朗はいるかぁ」
「…あれ、松田先輩!?こんにちは!」
一つ上の学年で、中学の時同じ部活だった、バレー部のエースだ。
「お、いたいた。悪いんだけど明後日の練習試合に出てくれないか」
「はい?」
…どうやら明後日の午後、隣の工業(高校)と練習試合をするらしい。
三年生は受験対策のため、1・2年生より夏期講習が多いそうで、午後までかかる。
練習試合は1・2年生メインでメンバーを組んでいたが、夏風邪やらケガで人員不足だと。
ただ、大会も近いので、せっかく組んだ練習試合を無駄にしたくない。だから、出てほしい。と。
後ろから付き添いで来ていた中野先輩が説明してくれた。
松田先輩のざっくりした説明と、中野先輩の補足で言いたいことは分かった。
足りないなら延期にすればいいのでは…と思ったが、
「さっき依澄から連絡があったんだ」
…なるほど。
なぜか昔から不運な体質の石川依澄先輩は、運動も勉強もできるのに、ついていない。
今回も恐らく、何か不運に見舞われたんだろう。
ギリギリ間に合っていたメンバーが、依澄先輩の不運に巻き込まれたようだ。
「てことで誠治朗、頼まれてくれないか」
「…僕、最近全然やってないですよ」
「心配するな、今日と明日でなんとでもなる!!」
思わず冷や汗がこぼれた。
「さ、行くぞ誠治朗!!」
「…尾浜、お大事に」
「頑張れ、骨は拾ってやる」
イエスなど一言も言っていないのに有無を言わさず引きずられる。
無慈悲な村上と風見に不吉なことを言われ、先輩の付き添いだった中野先輩にはぐっとハンドサインで見送られた。
「お、そうだ誠治朗、久しぶりに優にも会えるぞ!」
「いてて…え?優って優ですか?」
「そうだ!よし気合い入れて行くぞー!!」
「あ、待ってくださいぃ!!」
2日間みっちりしごかれて、危なく魂が飛んでいくところだった。
「さすがだな、誠治朗。やはりお前バレー部入れよ!!」
「いえ、今回だけで許してください…」
ちょこっと裏話
①1学期のくせに早々と席替えイベが行われた1年2組。
誠治朗は廊下側の1番後ろの席。下記の位置関係です。
黒板
窓 廊
風 下
兵村誠
②誠治朗は中学時代バレー部に所属していてセッターでした。
松田先輩はエースアタッカー、中野先輩もセッターでキャプテンです。
石川先輩は、リベロ。




