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第54話

「人は契約を軽んずる。神前で愛を誓った者同士が罵り合うのが人間という生き物だ。変わらない愛を謳いながら、相手にはそれ以上を要求する矛盾」

 セラフィムはベンチに腰掛けながら、映画館のモニターのように中空へ映し出した圭の映像を見上げていた。

 大竹山の展望台。

 夜の帳はすでに下り、わずかなナイター照明の下に天使以外の気配はない。

 セラフィムの後方で、アイラは二人のヴァルキリーによって地面へ組み伏せられていた。

「人間の語る愛は偽物なのさ。結局、彼らのいう愛は自己愛に帰結する。愛し愛されることに資格は必要ないと思い上がり、言葉だけの愛を語り、誰も真実の愛に到達しない。カシワギケイが好きなのは、セブンス、君じゃない。容姿端麗で自分に尽くしてくれる、都合の良い相手であれば誰でもいいのさ」

「そんなことはありません」

 言いながら、アイラはモニターの向こうで仲睦まじく柏木書店の店頭に立っている二人を直視することができない。

 アイラの両翼の純白は、残りわずかしかなかった。

「堕ちないね。しぶといなぁ」

 セラフィムは愉快そうに微笑んだ。

「まぁ、いいさ。カシワギケイが君以外の女性で満足するのかどうか、じっくり鑑賞しようじゃないか」

 アイラは光のリングで後ろ手に固定された左手をまさぐった。

 圭にプレゼントしてもらったおもちゃの指輪。

 子供のような嫉妬を繰り返す今の自分にはぴったりだと、アイラは思う。

 呼吸を整える。

 大丈夫。信じてる。

「可哀そうなヒト」

「なに?」

「深く傷つくことがあったのですね。愛する人に裏切られましたか? 相手を自分の思い通りにできなければ満足できないのですか? そんなものを、私は愛とは認めません」

 アイラは自分自身に言い聞かせるように言った。

 セラフィムの表情に、初めてわずかなイラ立ちが見えた。

「きっと君も、うちと同じ思いをする」

 ふん、とセラフィムは前方へ向き直った。

「先ほどのような抵抗をされなければ、これ以上手荒な真似はしません」

 アイラを組み伏しているヴァルキリーの一人が呟いた。

 二人共、アイラがヴァルキリー時代共に戦った乙女たちだった。

「あなたが脱走などという暴挙に出られたことに、我々は驚きを禁じえません。それほどの価値が、あのカシワギケイという人間にはあるということなのですか?」

 二人のヴァルキリーには、迷いが見えた。

「価値、という言葉は正しくないと思う。私は彼に、ただ恋をしているだけだから」

「恋とは、どんなものなのですか?」

「あなたたち、『流星群』は読んだ?」

「ミーティアシャワー……我らの聖典ですので、目は通してあります」

「読んだ時、ドキドキした?」

「ドキ、ドキ……?」

「続きが気になって仕方がなかった?」

「はい。まぁ……」

「私の気持ちは、それに似ていると思う。物語の続きが知りたくて、ワクワクしてる。その中に自分も入りたい。うれしい時も寂しい時も、彼の物語に、私は寄り添いたいの」

 迷いのないアイラの口調に、二人は困惑した様子で顔を見合わせた。

 信じよう。

 何があっても。

 アイラは初めて、モニターの中の圭を直視した。

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