第45話 二度目の夜
アイラの舌先がくすぐるように僕に触れている。
「き……汚いから、それくらいでいいよ?」
陽はとうに落ち、けれど男女の時間にはまだ早い。アンドレとアイオンも、気を利かせたリアが今日は天界へ帰している。
薄暗がりの中、敷布団の上へ仰向けに寝転びながら、僕は情けない声をあげた。
「いやですか?」
「いやじゃ、ないけど……」
「やり方、教えてください」
そう言われても、僕だってこんな風にしてもらうのは初めてで、よくわからない。
「こう?」
「あっ!」
ピチャ……と、音と僕の声が同時に跳ねた。
「もっと、してみるね」
アイスをなめるように——そう言ってしまうには、その動きはあまりに卑猥だった。
痺れるような感覚に、僕の下半身が強張る。
「だ、ダメだよ、やっぱ、り……」
すでに息が切れ始めている僕の言葉に、説得力はまるでなかった。
「これ、すごい。いろんな圭の表情が見られる」
もっと……と呟いた、その後。
うっとりした表情で、アイラは僕を呑み込んだ。
「あっ……あー……」
未知の快楽が下腹部から全身を駆け巡る。
なんだ、これ?
なんだこれ⁉︎
「ん……圭」
「ま、待って、アイラ! あっ!」
「ん……」
「はぁ……あ、ぁ……」
「ん……んん……」
アイラが僕の下で前後する度、欲望と罪悪感が同時に膨れ上がる。
僕を見上げた彼女と目が合った瞬間、僕は衝動的に彼女の膨らみへ右手を伸ばしていた。
「はぁ……はぁ……」
「ん……ふ、ん……」
この上なく淫らで幸福な時間が、しばらく続いた。
僕を充分育てた後、アイラは僕の下腹部にまたがった。
「僕が、するよ?」
アイラは小さく首を横に振った。
「今日は、私がするの」
ゆっくり——。
僕が彼女の中に、ゆっくりと沈み込んでいく。
「あぁ……」
「け、い……」
やがて僕が完全に見えなくなると、僕らは小さく震えながら見つめ合った。
ずっと、こうしたかった。つながっていると、それは彼女も同じなんだということがはっきり伝わってくる。
「んっ……あっ……変じゃ、ない?」
「うん。気持ちいいよ」
「うれしい、圭」
見上げるアイラの美しい裸体が、僕から思考を奪っていく。
前屈みになった彼女と存分に唇と舌を重ねた後、僕はそのまま彼女のやわく垂れ下がった頂きにくちづけた。
「あ……」
口の中で、今度は僕が彼女の先端を育てる。
「や……だめ……やらしい、圭」
「いや?」
下腹部の動きもあわせてみる。
「あ! やっ、やじゃない……!」
僕が上体を起こすと、アイラは子供がせがむように僕にしがみついた。
互いに唇を塞ぎ合う。僕の全てが、彼女と深く結びついていく。
「ん……アイラ」
「けいぃ……」
僕は彼女の腰に両手を回し、アイラは僕の頭を両手でかきむしった。
やがて僕らの全身がしっとりと汗ばんだ頃、僕は彼女を背中から慎重に押し倒した。
「アイラ……」
とてもゆるやかな時間だった。
呼吸を合わせた律動に、アイラが子猫のような喘ぎ声をもらす。
時折唇を重ねて、ほほえみ合いながら、やさしく、丁寧に、彼女が僕を感じてくれる箇所を先端でくすぐる。
「ん……あ……」
「は、ぁ……すごい……」
「これ、好き……ん……」
「僕も……」
どれくらい繰り返しただろう。
ふいに、アイラが紅潮した様子で顔を背けた。
「大丈夫? もしかして、痛い?」
動きを止めようとした僕に、アイラはイヤイヤと首を横に振った。
「やっ、だめ……やめちゃやだ」
心配になって顔を覗き込むと、アイラは恥ずかしそうに顔を両手で覆ってしまった。
「あぁ、どうしよう……」
指の隙間から見えるアイラの瞳は、羞恥と快楽でとろんと歪んでいた。
「圭のお……ち……ち……気持ちいい」
その仕草と表情は、あまりに愛らしかった。
そして、そんな彼女の一番大切なところに自分がいるという事実が、僕の欲望を加速させた。
——う……あ……!
そんなつもりはまったくなかった。
初めての夜、僕は必死だった。だから、今日はアイラをやさしくリードするつもりだったのだ。
なのに、気づいた時にはもう、僕は激しくアイラを求めていた。
「あっ! 圭!」
「アイラ……!」
もともと我慢していたのだ。長く保つはずもない。
「キス、ほしい……!」
「うん!」
獣のように荒く唇を合わせ、互いの口内を舌でまさぐり合った後、さらに激しさを増す僕に、アイラはしがみついた。
「圭! 圭ッ!」
「はぁ……はぁ……!」
「なにか、くる! きちゃう!」
「僕も、もう……!」
一緒に——。
深く。
深く、結びついた瞬間。
僕らの情熱は同時に弾けた。
僕の腕の中から顔を出して、アイラが小さなキスを繰り返している。
「ふふ……」と、僕は思わず笑ってしまった。
「くすぐったいよ、アイラ」
「もぅ」と、彼女は少し不満そうだ。
「これでも、跡が残らないように気を使ってるんですよ?」
「キス、好き?」
「うん。圭とのキスが好き」
負けじと僕もくちづけを返す。
唇から頬。それから首筋。鎖骨へは舌を這わせる。
「ん……」
右手はすでに、アイラの豊かな双丘をなで回していた。
「ぁ……」
僕のソレに気づいたアイラは、いたずらが見つかった子供のような表情で僕を見上げた。
「リアは……まだ帰ってこないと思う」
「うん……」
僕は思わず唾を飲み込んだ。
四つん這いになったアイラが、僕の前に可愛らしいお尻を突き出していた。
「あ……圭……」
欲望が僕の体を前にせり出し、アイラの体がしなやかにそり返った。
なんて甘い幸福だろう。
心と体を同時に重ねながら、僕は彼女の中で、溺れてしまいそうだった。




