第3話狩場
斧を両手で持つ2人が大引や根太を渡った。丸鋸の男はそのような事が出来ず、跨ぎながら鬼を追う。全裸の男は必死に戦場となる骨組みの内部から抜け出す。
中央の鬼が逃げず、2人を待つように留まる。接近した彼らは左右へ分かれ、まず左側の男から跳びながら斧を斜めに振り下ろす。鬼が後ろへ跳んで避けた。
そして前に戻り、体勢を崩しながら片足だけ大引きに乗せている、男の斧へ前蹴りを繰り出す。両手から離れ、斧の刃元は彼の鳩尾へ刺さった。右側の男が片手持ちに変えながら跳ぶ直後だ。
血を吐き出し左側の男は倒れる。それに気を取られ、右側の彼が斧を振れなかった。基礎へ着地し、鬼に顎を蹴り上げられる。斧は大引きに落ちて、敵の手へ渡った。
鬼が両手持ちで見上げる彼の顔面に叩き付け、引き抜く。裂け目から血飛沫を飛び散らせ、鬼の顔へ掛かる。見物していた男達は丸鋸の男に敵討ちを頼んだ。
移動速度が圧倒的に劣る彼は中央へ着き、鬼の攻撃を防御する為、無我夢中で振り回す。鬼が丸鋸の側面を斧で軽く叩き、軌道を逸らすと根太へ刃を食い込ませる。
その反動を受け、男は前屈みとなって額が切り刻まれた。叫ぶ彼の後頭部を鬼は踏み付け、それを足場に跳んだ。男達が騒ぐだけで、行動を起こさない。
「俺の家を事故物件にしやがって絶対ぶっ殺す!」
リーダー格の男の声を雑音程度にしか思っていない鬼は、大引きを通り、骨組みの側面から出る。3人の損害を出した今、有利な状態で無ければ、彼らが戦おうとしない。
死人を出しているにも拘らず、一児の母親と、女性は鬼の活躍を期待していた。人体欠損が多く含まれる映画を多く観ていた彼女らは、それを楽しめる程度の耐性を持つ。
男達の不幸を望む点だけ彰は共通している。スマートフォンが手元に無い彼は緊急通報出来ず、ただ誰かの助けを待つ。
人数と武器の数で有利な男達がその機を逃さず、騒ぎながら鬼を襲う。先頭の男は金属バットを振り下ろす。正面の鬼が左へ避けながら、彼の片脚を切り落とした。
続けて、予備動作を取る男の片腕へ斬撃を入れて落とす。その勢いで横腹に突き刺さり、彼の斧は折れる。そこへ萩宮の奇襲に遭った男が斧を斜めへ振り、相手の頭を狙う。
鬼はすかさず片腕を落とした男を押し飛ばす。斧が彼の背中に刺さる。そして、距離を詰め、肩越しに尖った柄で萩宮と同じ部分を貫く。そのまま2人の男は悲鳴を上げながら倒れた。
「釘付き椅子の脚のアート、斧の兄様ですわ!」
狩られる人間の様相を萩宮が喜んだ。切断面から血飛沫を上げながら悶え苦しむ分、死体より惨たらしい。死を目前とする男達の悲痛な叫びに、彰は両耳を塞いでしゃがんだ。
男が走りながらナイフで刺そうとして、鬼に外側から手首を掴まれる。右の手刀でナイフを飛ばされ、彼は左肩を押さえられた。そして、左腕を間に差し込まれ、そのまま投げられる。
金属バットを持つ男は後ろへ避け、力任せに振った。鬼が彼の背面へ回り込みながら避けて、襟首を掴んでしゃがむ。足首を持つと立ち上がって、腰を捻りながら放り投げる。
空中で回転し、ナイフを持つリーダー格の男へ直撃した。地面のナイフを拾い上げ、丸鋸を持ちながら走る男に飛ばす。腹へ刺さり、彼は丸鋸を落として倒れ込む。
鬼が笑みを浮かべて、丸鋸を手にした。男の背中を踏み、躊躇無く首を切断する。そして、サッカーボールのように頭部を蹴り飛ばす。ふざけて萩宮はパスを要求する。
人間だったそれが血を噴き出すだけの物体と成り果ててしまう。鬼は這って逃げようと男の両脚を切り落とし、遊ぶ。丸鋸のエンジンが停まり、落胆する声を上げて彼の頭へ目掛け投げた。
「おう、やっちゃれやっちゃれ! こいつら、畜生じゃけぇ、何をしても良えじゃぁ!」
「チャーハンの具にするぞ!」
女性観客2人の声援も鬼に負けず劣らず非道だった。ミナカの行為を叱る女性を誘拐していれば、男達の何人かは命や手足を失っていない。鬼も人間性を取り戻せているかもしれなかった。
国産ミニバンの1台が急に動き出し、鬼達の方へ行く。時速100キロメートル近い速度で、助けを求めて駆け寄る男を撥ねた。そして、鬼も巻き添えにしようとするが、骨組みの中へ逃げ込まれてしまう。
地面の重傷者を轢きながら車両は土台にぶつかる。筋交いと間柱を折って動きが止まった。リーダー格の男1人だけとなり、優位性を完全に無くす。
すると、悲惨な状況に合わない、女性歌手の曲を流しながらスクーターの男はやって来た。好きな相手との未来を切望する、女性の心情を歌う歌詞だ。
「取り合えずウザいから死のうか」
骨組みから出て、近くに落ちていた腕を鬼は拾う。スクーターの男が国産ミニバンと同じ事をした。それに対し、相手は腕を顔へ投げ付け、ハンドルを横へ切らせる。
ブレーキが効かず、運転手の男は投げ出された。鬼が倒れたスクーターを持ち上げて、彼の元へ近付く。普段のミナカから想像出来ない怪力ぶりだ。足の骨折を訴える彼の頭部へ叩き付けた。
リーダー格の男は背後から無謀にも走りながら刺そうとする。それを察知し、鬼が振り向いて避けながら彼の背後へ回った。襟首と足首を掴んで持ち上げ、投げる。宙で回転を描き、男は地面へ落下した。
ナイフを手離し、彼が苛立つ表情で起き上がったと同時に、鬼は腕を交差させながら突進する。転倒させられ、リーダー格の男が素早く立ち、横腹へ回し蹴りを入れる。
鬼は両膝を曲げ、胸の前に両腕を出して受け止めた。そこから後ろへ勢い良く半回転して男の顔へ裏拳を入れる。リーダー格の男がよろけてしまい、反撃をしなかった。
地面のナイフを拾い、彼は構える。しかし、鬼が背を向けて、スクーターの方に走り出した。それを頭上へ挙げ、前傾姿勢でリーダー格の男に再び猛進する。
彼は吹き飛ばされて倒れた。鬼がスクーターを両脚へ投げる。リーダー格の男は緊急通報を何度も大声で頼み、すっかり戦意喪失した。男達の怪物退治が失敗する。
萩宮は彼の元へ駆け寄り、玩具で遊ぶ猫のように何度も横腹を蹴った。弱っている姿が動物の狩猟本能を刺激してしまう。10発程蹴り、彼女は誘拐の動機を訊いた。
「高校時代に、鶴飛が俺をフッたからその仕返しをしたかっただけだ!」
「お前ら狂ってんだろ! この正義の無い〇チガイ共が!」
「おう狂うちょる。じゃあ、訊くがのう、正義ったぁ何じゃ?」
特に考えず罵っている彼がその答えを出せない。似非広島弁を使う濁声の萩宮はスクーターの下敷きとなっている両脚を眺め、合掌した。
ベビーカーを押しながらミナカの嫁も来て、男の顔を蹴る。高校生から精神が成長していない幼稚な彼へ侮蔑の視線を向け、彼女は怒りを鎮めた。
近隣住人が外の様子を不審に思っていないのか、パトカーや救急車の到着する兆しは見えない。
宣言通り、男達の未来を絶った鬼が物足りなさを漏らし、スクーターの上へ座る。彼の酔いはまだ醒めないようだ。
理解が難しい部分や細かい部分の解説を載せておきます。
〇釘付き椅子の脚のアート
映画「テリファー」シリーズのアート・ザ・クラウンを指しています。2作目で釘を多く刺した椅子の脚を殺人の道具に使っていました。
〇背後から投げる技
〇腕を交差させて疾走する技
〇攻撃を受け止めてから反撃の裏拳
〇スクーターを持ちながら突進
「龍が如く0 誓いの場所」、壊し屋スタイルと「ロストジャッジメントDLC 海藤正治の事件簿」の、テッパンスタイルの技を参考にしています。
〇ナイフ攻撃に対するカウンター技
「メタルギアソリッドⅤファントム・ペイン」のCQCをオマージュしています。
〇萩宮の似非広島弁
映画「孤狼の血」の大上刑事から影響を受けています。彼女の正義は兄様の隣でいられる日々です。
〇チャーハンの具にするぞ!
「アドレナリン:ハイ・ボルテージ」で主人公が中国マフィアに言った台詞です(うろ覚え)
〇女性歌手の曲
〇野カナの「if」です。余命僅かの恋人の危篤を知り、病院へ向かう時に合いそうな歌詞です。
〇ミナカの行為を叱る女性
彼の従姉です。もし、彼女を誘拐した場合、ミナカ以外に死神のような老人の怒りを買います。
共依存している関係性です。




