第2話笑う赤い鬼
まだ映倫基準でPG12程度の描写しかありません。
2年前の夜、彼は珍しくミナカに誘われ、食事会へ参加する。庭の左側で折り畳みの机と椅子を用意し、ちりとり鍋を食べた。シマチョウ、ハチノス、センマイだけ何度投入しても、すぐ赤い鍋から無くなってしまう。
普通の鍋と同じくシメにうどんを入れ、それが無くなった後、料理は変わる。ミナカが白飯、キムチ、もやしを使い、左右のヘラで調理した。四角の鍋は鉄板焼きの調理器具となる。
参加者の大人達がハイボールを飲んだせいか、すっかり酔っていた。特にミナカは内側から破裂しそうな程、顔が赤くなる。皆無に等しい眉毛も相まって、怪物だった。
フラメンコを踊りそうな赤いドレスを着ている。灰色のリボンで後ろ髪を纏め、上品さを演出していた。しかし、深海魚のような不気味の顔が台無しにしている。
すっかり客となっていた2人の女性は青い患者衣を着ており、厄介な女が訪れないようにする為のようだ。その女は職場に関連する服を嫌う。
背丈の低い男子が誰かと食事を楽しむ事は無かった。必要最低限の挨拶をして、傍観者に徹している。彼と関わりを持つ人間がミナカしかいない。都合良く利用していた。
「お粗末様でした」
「お粗末なのは、ほとんどのお肉を食べた誰かさんです」
前髪を切り揃えているミナカの妻が無礼を働く。扱いに慣れていた彼は軽く聞き流し、片付けを始める。黒い肉球の簪で髪を纏めていた女性が、ミナカの名前を呼ぶも無視されてしまう。
彼女は彼の注意を引こうと、介助を必要とする入院患者の演技をした。元看護師の女性ヴァーチャルライバーが、鬱陶しい老人入院患者の真似を配信中にして、注目の的となっている。
「すみません、係の兄様。お部屋に戻して下さい」
「萩宮さん、私さっき、お部屋に戻らないのですか? って何度も確認しましたよね?」
勤務年数の長い看護師と同じ対応をして、ミナカは牽制した。彼が食器やガスコンロを家の中へ運んでいる間、萩宮は離れた椅子に座っている、オランウータンのぬいぐるみへ絡みに行く。
ワイシャツの上から、黒いスーツを着ていた。黒いネクタイも巻いており、会社員のようだ。しかし、その正体が伝説の殺し屋、『アパ・ヤガ』の設定だった。
隣のベビーカーで寝ている幼児の警護をしていた最中だ。バレリーナの格好をした、赤ちゃんオランウータンのぬいぐるみは、69年式〇スタングの置物と共に、ミナカが厄介な女へ貸し出している。
不良品の着せ替え人形や、酔っていても面白くないなど萩宮は彼の陰口を叩く。その時、3台の白い国産ミニバンが庭へ入って来た。食事会は既に終わっている。
停車し、3台の中から覆面を被った男が3人ずつ出て、こちらへ近付く。そのうち2人はナイフを握っており、下手に刺激すると命の危険があった。
「騒ぐとぶっ殺すぞ。真ん中の〇ルファードに乗れ」
「すみません、係の人。お部屋に戻して下さい」
ナイフを持つ1人は命令したが、萩宮は再度入院患者の演技を行う。だが、それで見逃して貰えず、3人は大人しく指示に従った。幼児が寝ているベビーカーも仲間の1人が運ぶ。
「お前ら、何やってんだ!」
家から飛び出したミナカは、平凡な台詞を出す。酔っている状態の彼が期待出来ない事は、低い背丈の男子、比良町彰すら分かっていた。2人の男がミナカを足止めし、案の定、まともな勝負になっていない。
家族を守ろうとした女装男は地面へ倒れ、前後から何度も蹴りを浴びせられる。2台の車両が庭を出て、どこかに向かう。残りの1台はその場で留まる。
覆面の男達に囲まれながら到着した場所が、足場を組んでいる住宅工事現場だ。降りた3人は足場の近くまで歩かされる。遊び疲れていたのか、押されているベビーカー内の幼児が起きない。
「全員集まったら乱〇大会開始な。人妻は俺が先だぞ」
リーダー格の覆面を被った男は、人妻の身体を舐め回すように見る。巻き添えを食らった彰が萩宮の背後へ隠れてしゃがむ。もし、素面のミナカだった場合、彼らは誘拐されずに済んだかもしれない。
萩宮が今日の予定をSNSで発信したミナカの嫁を責める。息子を危険に晒していた彼女は、言い返さず謝罪して、俯く。曲がり形にも一児の母親だ。
20分後、ようやく3台目の車両が現れると、左側の車両へ後ろからぶつけて停車した。運転手の思考は理解出来ない。
盗難防止アラームは男達の悪事を周りへ告発するように鳴り響く。数百万円もする車の傷が険悪な雰囲気を作った。
「おい! テメェふざけんなよ! 弁償しろよなぁ!」
車の所有者らしき男が怒鳴り、車から全裸の男は降りる。左顔面を押さえながらこちらへ来て、手を離す。眉から頬へ掛けて皮膚が焼き爛れていた。
「あ、後の奴らはか、顔を潰された。ひ、人なんかじゃ無い、お、鬼だ」
その男へ周りの注目が向く隙に、萩宮は簪を引き抜き、ベビーカーの傍でいる男の左瞼を突き刺す。ミナカの嫁がすぐその隣へ行き、幼児を守った。彼女は流血しながら叫んで倒れる男の顔を蹴り飛ばす。
「お生憎様、私のつがいは兄様で間に合っていますわ」
萩宮が簪を向けながらゆっくりと後ろへ下がる。ミナカの嫁はベビーカーの持ち手を掴み、それに合わせた。急いで彰が彼女達の方へ移動する。
予想していなかった出来事の発生により、男達は動揺して怒声を上げるだけだ。新たな彼女の餌食に誰もなりたくなかった。
前方で車両のスライドドアが開かれ、何者かが車外へ正体不明の物体を数個落とす。そして、それを踏みながら愉快な声を出して降りた。
「君達の顔は粗大ゴミシールがお似合いだね」
赤いドレスを着ている、赤黒い顔の鬼は満面の笑みを浮かべながら歩く。妻子を奪われた獣、人間を破壊する妖怪、人間が狩猟対象となっていた。
地面に転がっている仲間を犠牲者扱いし、リーダー格の男は怪物退治を促す。正義を好む単純な男達が騒ぎ出し、木造骨組みの内部へ入った。
基礎に隠している武器を取って、次々と出て来た彼らは過剰な備えをしている。丸鋸、金属バット、斧、ナイフなど素手の相手と思えない対抗手段だ。
「ちなみに、更生なんて甘い考えは捨てた方が良いよ? 今日で君達の輝かしい物語はFINです」
酔い状態に適応してしまった赤い鬼は、恐怖や怒りを捨て去っている。破壊し、人を絶望の淵へ突き落す事に喜びを感じていた。萩宮が彼の様子を見て、スコッチの持参を悔いる。
「あの兄様は完全にヤる気満々ですわ。間違い無く何人か、いえ、下手したら全員惨い死に方を」
彼女の奇襲に遭った男も斧を持つ。傷害罪に該当する行為を萩宮は記憶から消去していた。夫が棺桶へ片足を入れている彼の妻は見守りながら呟く。
「今ある物を大事にするわ」
赤い鬼の容赦無い暴力を受けた全裸の男だけ、骨組みの内部で避難する。武器を持った男達が一斉に走り出し、赤い鬼は半円を描きながら逃げる。向かった先が骨組みの内部だ。
四方から追い詰められる絶好の機会にも拘らず、リーダー格の男は仲間達へ指示を出して制止させる。この場所が建築中の彼の家だった。そして、赤い鬼へ交渉を持ち掛ける。
「おい、今なら全裸土下座と慰謝料3000万で許してやる」
「武器持ってイキリ散らかしていたけどもう終わり? 根性無しだから君達、モテないよね?」
丸鋸と、斧を持つ3人の男は、挑発に乗って骨組みの内部へ入った。リーダー格の男が呼び戻そうとするも、彼らは鬼を殺す事しか考えていない。
理解が難しい部分や細かい部分の解説を載せておきます。
〇ちりとり鍋
掃除用具のちりとりと似た鍋を使う料理です。積み上げたもやしの上に、ニラを載せている見た目は良く見られます。味噌やコチュジャンなどを入れたスープが赤いです。
基本、ホルモンや豚バラ肉を入れます。ハチノスやセンマイはミナカの妻が好みで入れさせています。
〇ハイボール
スコッチ「〇ィーコン」を炭酸水で割って作っています。スモーキーな香りを楽しみつつ、薬品のような味を大人達は堪能しました。
〇ミナカの格好
1話の解説で少し触れた「MaXXXine マキシーン」の前作、映画「Pearl パール」のコスプレです。
アイブロウで眉毛を描かないと、勤務中にケーキ屋の客が怖がります。
ミナカの内面を好む女子以外は寄り付かない、不気味な顔になっています。
〇厄介な女の正体
名前は倉持久遠です。職場のストレスでミナカに会うと幼児退行する面倒な26歳女性です。もし食事会へ参加した場合、彼を独占してしまいます。
クラシック・バレエを嗜み、鍛えている脚でミナカを蹴って遊びます。
わざと怒らせる事ばかりしており彼に苦手意識を持たれています。しかし、気に掛けて貰っています
愛車が中古のBM〇 F30 320iセダンです。
〇ミナカの嫁
人を虐めて楽しむサディスト女性です。名前は三中染子です。ネットリテラシーが低いお馬鹿な26歳児です。
〇萩宮
ミナカに懐いている雌のピューマです。兄様の愛にいつも飢えており、用事が無くとも彼を呼びます。本名は萩宮巡です。薙刀を振り回す危険な一面もあります。
愛車は白い〇ヨタ・カローラX(2WD)です。
〇元看護師の女性ヴァーチャルライバー
架空人物ですが、炎上商法を用いる配信者を参考にしています。一過性のコンテンツとして、若者達に消費されています。
〇アパ・ヤガ
映画「ジョン・ウィック」シリーズのババ・ヤガのパロディです。スーツは防弾仕様の設定が付いています。ババ・ヤガ(ジョナサン・ウィック)と同じく、突然、日常が破壊されるミナカの未来を暗示しています。
〇69年式〇スタング
上記のババ・ヤガの愛車、B〇SS 429です。これの盗難と、愛犬の殺害で殺し屋を引退していたババ・ヤガの復讐劇が始まります。
〇バレリーナのコスプレ
映画「ジョン・ウィック パラベラム」に登場したバレリーナ暗殺組織、ルスカ・ロマのバレリーナ(後の外伝作品の主人公)をモチーフにしています。
映画「ブラック・ウィドウ」の旧ソ連スパイ養成機関兼秘密集団、レッドルームも訓練生はクラシック・バレエをさせられていました。基礎体力を付けさせる訓練に適していたようです。
赤ちゃんオランウータンのぬいぐるみは、厄介な女から仕事の愚痴を散々聞かされます。
〇白い国産ミニバン
〇ヨタ・3代目アルフォードX後期型です。残価設定ローン(所謂残クレ)で購入しています。ミナカの愛車、約2台分の価格です。
〇ベビーカーの中で寝ている幼児
ミナカ夫妻の息子です。名前は三中慈染です。まだほとんど喋りません。
〇食事会の場所
ミナカの叔父宅の敷地です。ちょうど秋田犬が1匹だけで留守番している状態の為、貸して貰っています。
〇比良町彰
PCゲームとアニメを好む、対人能力の低い男子高校生です。友人だった男子はケーキ屋の強盗を成功しましたが、ミナカの妨害に遭い、現金を失います。
次の強盗で、包丁を使ったにも拘らず、家主との戦闘に敗北します。
彰はその事件の影響を受け、以前より教室の居場所が無くなりました。
〇車両の物損事故
シュールギャグを演出しています。
〇正体不明の物体
顔を潰された覆面男達の仲間です。まだ生きていますが、数時間後の生存率は極めて低いです。
〇赤黒い顔
返り血で染まっている状態です。「メタルギアソリッドⅤ ファントムペイン」のヴェノム・スネークをモチーフにしています。彼と違い、復讐に囚われていません。
〇今ある物を大事にするわ
映画「MaXXXine マキシーン」から引用しています。ミナカの嫁は息子の事を指しています。




