聖女としての使命
「目を覚ませ、聖女様。」
冷たい石の床に膝をつけた奈緒は、ゆっくりと目を開けた。目の前には、深紅の衣装を纏ったシアリア王女が立っていた。彼女の存在は、まるで一筋の光のようで、その輝きは奈緒の心を奮い立たせた。
「あなたが聖女であることは、運命の力に導かれたもの。逃れることなどできない。」シアリアの声は冷静だったが、その中には深い哀しみと覚悟が込められていた。「私はあなたに、この王国を守る力を授けるために選ばれた。」
その言葉に、奈緒の胸は痛んだ。自分が聖女として、ただ一人の救世主としての役目を果たさなければならないという現実が、じわりじわりと重くのしかかってきた。
「私はただの普通のOLで、異世界に来たばかりだなんて…」奈緒は言葉を飲み込んだ。そんなことを考える暇もなく、次の瞬間、シアリアは一歩踏み出し、彼女の肩を優しく叩いた。
「あなたが普通だと思っているかもしれない。しかし、この世界では、あなたの持つ力が必然的に必要とされている。すでに魔物が王国を脅かし、そして破壊の兆しが見え始めている。王国を守るために、あなたはその力を使うべきだ。」シアリアはまっすぐに奈緒を見つめ、言った。
その言葉を聞いた奈緒は、自分の役目について改めて考え直した。自分がなぜこの世界に転生し、聖女として力を与えられたのか。それが、まだ見えない。しかし、王国のために戦わなければならないという思いが、彼女の中に強く芽生えていた。
「私は、あなたの力を授けることができる。でも、その力を使いこなすためには、まず自分を信じることが大切だ。」シアリアは静かに奈緒に告げた。「この力を使うためには、あなたがこの世界を受け入れ、心を開かなければならない。それが最初の試練だ。」
奈緒はその言葉にうなずき、深く息を吐いた。自分が聖女として、世界を救う力を持っているとすれば、その力をどう使うべきかを学ばなければならないのだ。
「まずは、その力をどう使うのかを学びましょう。」シアリアは少し笑みを浮かべながら言った。「そのためには、王宮での訓練が必要です。あなたが持っている力は、単に癒しの力だけではありません。戦闘の力や、魔法の力も秘められています。」
その言葉に、奈緒は驚きを隠せなかった。癒しの力に関しては、異世界でよく聞いていたが、戦闘や魔法まで使えるというのは予想外だった。自分がそのような力を使うなんて、まったく想像もつかなかった。
「では、私が教えることを受け入れてくれるのですね?」シアリアは真剣な眼差しで奈緒を見つめ、続けた。「今、私たちの王国は魔物の脅威に晒されています。あなたがその力を学べば、私たちは共に戦い、この国を守ることができるでしょう。」
奈緒はしばらく考えた後、しっかりと頷いた。王国を守るためには、自分の力を使いこなさなければならない。それが自分に課せられた使命であり、逃げることはできない。
「私は、必ずその力を使いこなします。」奈緒は決意を込めて言った。「王国を守るために。」
シアリアは満足そうに微笑み、ゆっくりとその背を背けた。「では、訓練が始まります。私と共に、まずはその力を覚醒させるために、あなたが心を開くことが最初の課題です。信じること。それが全ての始まりです。」
その言葉を受けて、奈緒は再び深く息を吸い、気を引き締めた。聖女としての使命、そして自分に課せられた役目。それは重いものではあったが、彼女はその重みを引き受ける覚悟を決めた。これから、自分の力をどのように使うべきか、その答えを見つけていくことになるのだ。
訓練が始まり、奈緒はシアリア王女と共に、王宮内の広間へ向かって歩き始めた。王国を守るため、聖女としての力を覚醒させるために。
そして、その先に待つ戦いが、彼女を待ち受けていることを、まだ奈緒は知る由もなかった。