異世界で目覚める
目を開けると、見知らぬ天井が広がっていた。周りを見渡すと、豪華な調度品が並ぶ部屋、金色に輝くカーテンが窓からの光を反射している。心臓が跳ねる。いつもの通勤電車を降りたはずが、まったく見覚えのない空間にいる自分がいた。
「あれ…?」
ぼんやりとした頭で周囲を見回しながら、ようやく意識が戻ってくる。あの激務から解放されて倒れたはずだったのに、どうしてこんなところに?
「どうして…?」
唐突に、何かが身体の中から弾けるような感覚が走った。その瞬間、目の前に現れたのは、金髪で冷たい瞳をした若い男だった。彼の顔立ちは完璧で、王子様のような美しさを持っていたが、その表情は硬く、冷徹である。
「目を覚ましたか、君。」
声のトーンが低く、冷たさを感じさせるその言葉に、私は思わず体を引いてしまう。
「え…あ、あなたは…?」
質問を発するのも億劫なくらいの威圧感を放つその男性。その高貴な雰囲気に、私はどうしてこんなに恐れを感じるのか、わからなかった。
「私は――この国の王だ。」
その言葉に、頭が一瞬で整理される。王?まさか…この異世界に転生した?目を覚ました瞬間に、この現実に飲み込まれてしまったのだろうか。
「お前、私の王妃になることが決まった。」
その言葉に、私は一瞬耳を疑った。王妃?私が?
「何を言っているのか…よくわからないんですけど…」
思わず口にした言葉を後悔した。恐怖と困惑が入り混じった気持ちが押し寄せ、頭の中がグチャグチャになっていく。
「君には聖女としての力がある。この国を救うために、私と結婚し、王妃としての役目を果たしてもらう。」
王の言葉が耳に届くたびに、私は混乱を隠せなかった。聖女?聖女と言われても、私はただのOLだ。それに、王妃なんて一体どういうことなのか。どうして、私が?
「聖女としての力…?私がそんな…?」
言葉が続かない。心の中で、私の頭は早くも疑問と混乱でいっぱいだった。冷徹そうな王の目が、静かに私を見つめている。だが、その目の奥にはどこか深い孤独が感じられ、無意識に私はその視線に引き寄せられていった。
「私には、君が必要だ。」
王の声は、どこか固く、決意を感じさせるものだった。私はただその言葉を呆然と聞くことしかできなかった。
「私は一介のOLですし、聖女や王妃になるような人物ではありません。そんなこと、あり得ません!」
思わず叫ぶように反論してしまったが、その言葉が王にどう受け取られたのか、私はわからなかった。しかし、王は冷静に口を開いた。
「あり得る。君は選ばれたんだ。」
その言葉に、私はさらに驚きの表情を浮かべた。選ばれた?私が?
「私は君の力を試すつもりだ。君には、この国を救うための使命がある。無論、王妃としての務めも果たさねばならない。」
その瞬間、王の目の奥に閃く何かを感じた。私の心にひときわ強い疑念がわき上がる。
「私…そんな力なんて持ってない。聖女なんて…」
私は自分の体を見下ろした。何も変わっていないし、何の力も感じられない。ただ、異世界にいるという現実が私の全てだった。
「力は目に見えないものだ。君には、ただ自分の信じる道を歩んでほしい。私は、君を支えることを誓う。」
その言葉を受けて、私は思わず息を呑んだ。冷徹な王が、こんなにも穏やかな言葉をかけるなんて。王妃として、どうして私が選ばれたのか理解できない私は、ただその場で黙り込んだ。
「だが、この国は危機に瀕している。聖女としての力を発揮するには、まずは貴族としてのしっかりとした教養が必要だ。」
「え…?」
王が口にした言葉に、私は再び驚愕した。貴族としての教養?そんなもの、私は全く持っていない。OLだった私が、そんな高度な知識や礼儀作法を覚えるなんて無理だろう。
「まずはそのために、王妃教育を受けてもらう。」
王の冷徹な表情が、私を試すように見つめている。私は唇をかみしめ、覚悟を決めた。
「わかりました。でも、私には無理かもしれません。それでもやらなくてはいけないのであれば、何とか頑張ります。」
その言葉が、私の心に決意を生んだ。どうしてここに来てしまったのか、どうして私は選ばれたのか、全く理解できない。でも、今の私は、この王のためにも頑張らなくてはならないと思った。
その瞬間、私は心の中で一つの誓いを立てた。どんな困難が待っていようとも、私はこの世界で必ず自分の力を証明してみせる、と。
その思いが、私の胸に湧き上がった。