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観覧車

作者: 无知乃

観覧車に乗るのが好きなあのひとは、行く先々で遊園地に寄りたがる。今日も地方の遊園地に立ち寄った。


絶叫系アトラクションやテーマパークの流行の波に置いていかれたらしいこの施設は、元号が変わるたびに寂れていったのだろうが、さすがに週末の今日、小さな子供を連れた家族連れでそれなりの賑わいを見せている。


園内の地図で、観覧車が今いる場所から少し離れた場所にあることを確認すると、あのひとは行くよねと笑顔だけで問いかけてくる。にこりと返してゆるゆると向かう。


子どもたちのはしゃぐ声を遠くに聞きながら、舗装されていない砂利道にヒールが沈む感覚に没頭する。少し前を行くあのひとの息遣いが少し荒くなる頃、ふと視界が明るくなって空が高くなったのがわかった。

足元の砂利がいつの間にか舗装された地面に変わって、顔を上げると観覧車がそびえていた。思ったより高さがあって、色とりどりのゴンドラがゆっくりと回っている。


あの人がまた笑顔で問いかけてくる。穏やかな笑顔に瞳だけがやけに煌めいている。口の端を上げて見せてチケットを買う。


賑わいから距離を置いているせいか客はまばら、年配の係員は少し退屈そうだ。係員にチケットを渡すとタイミングを見てゴンドラのドアを開けてくれた。


少し揺れながら上っていく。下界に目をやる横顔を静かに眺める。上がるに連れ窓に近づくあのひとの顔。

遠くまで見渡せる高さまで来て、少しこちらを見て微笑んだ。視線を戻したあのひとと同じ方角を指差す。

瞳は遠くを見つめたまま横顔が綻んだ。


だんだん高度を下げて行くゴンドラの中、正面にすわるあのひとの肩越しに見える風景をぼんやり眺める。あのひとも同じように後ろの風景を見ていた。

と、視線を感じてあのひとの顔を見た。また穏やかな笑顔。穏やかな瞳に映っているのは風景ではなく。


ガチャンと音がしてゴンドラのドアが開いた。係員が揺れを抑えるように手を添えている。あのひとがさっと降り手を差し出した。促されるまま手をとって降りる。係員に会釈して観覧車から少し離れると、あのひとは立ち止まって観覧車を見上げた。名残惜しそうというでもなく、ただ穏やかな笑顔。


来た道を並んで帰る。子どもたちの嬌声が少しずつ近くなって来る。どこの観覧車に乗ってもいつもこんな風ね。あのひとの方をふと見やるとあのひともまたあの穏やかな笑顔を向けていた。

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