ベランダの怪事件――犯人はお前だ!
「なろうラジオ大賞6」参加作品。「ベランダ」のお題で超短編を書いてみました。1,000字。
吉岡がぼくのアパートを突然訪ねてきたのは、大学二年の春のことだった。
故郷の高校で同級生だった彼とはたまに遊んでいたが、卒業以来連絡を取っていない。そんな彼の来訪に、僕は心あたりがないわけでもなかった。
「ところでな、鈴木。俺がやって来たのは、妹の有希子のことなんだ」
やはりそうだったか。彼の妹は、一浪して大学に入った僕の同期生なのである。
「この窓から通りの向こうの学生マンションに住んでる、妹の部屋のベランダが見えるだろう」
「ああ、あの右手の二階だよね。帰り道がいっしょになって、教えてもらってる」
吉岡はちょっと眉をしかめて、
「変な話だが、あのベランダから洗濯物が盗まれたんだ」
「えっ、下着泥棒のうわさは聞いてたけど」
「いや、Tシャツだったらしい。……それで頼みがあるんだが、二、三日でいいから、夜の間、あのベランダをここから見張って欲しいんだ。妹も怖くて眠れないって言ってる」
「わかった。完璧にやってみせるよ。目を離している時間は録画するようにするから」
……と、約束をしたのが二日前のこと。今、吉岡は、ふたたび僕の部屋を訪れている。
「結果報告だよ。誰も現れなかった。スマホの録画もチェックしたけど、不審人物は写っていない」
うつむいて聞いていた吉岡は、不意に顔を上げて、
「残念だが、鈴木、お前が犯人じゃないのか。じつは妹からは、お前が部屋を覗いてるって相談もあったんだ。今朝起きたら、ベランダに掛けていたハンガーが二本、なくなっていたらしい。お前がここから見ていないのになくなったのなら、盗んだのはお前しかいないことになる」
「どういう超理論だよ。そもそもなぜハンガーなんか……あっ!」
僕が指さした先では、ハンガーをくわえたカラスがベランダから飛び立ったところだった。