File:007 大長編ドラえもん のび太の魔界大冒険
今回は、藤子・F・不二雄先生の作品である『大長編
ドラえもん』シリーズの一つ、【のび太の魔界大冒険】に
ついて語ります。
この作品は映画化もされており、更にそれのリメイク版
である【新のび太の魔界大冒険】も公開されましたが、
映画版、リメイク版ともにしっかりと拝見したことはなく、
漫画版のみを拝読しての感想、評価となりますので、
その点はご了承ください。
大長編ドラえもんシリーズの中でも、個人的に大好きな
作品で、今まで読んだ作品の中でも、歴代1位の座を
常にキープし続けています。
ワクワク、ドキドキーーシンプルにそんな感情に浸りたい
と思うとき、ついつい手に取ってしまうような作品で――
自信を持ってオススメ出来る、良作だと思います。
①『魔法世界』を舞台に巻き起こる、ザ・ファンタジーな冒険譚
物語の舞台は、ひみつ道具【もしもボックス】によって創られた
『魔法』が当たり前に存在する世界。 『原型』はのび太たちが
普段暮らしている世界のため、のび太とドラえもん以外の
馴染みのキャラクター達は、『魔法世界の住人』として登場する、
ちょっと変わった設定となっています。
作者の藤子先生の言葉を借りるのであれば、通常の
【ドラえもん】がSF(すこし不思議)なのに対し、本作はMF(もっと不思議)
といった雰囲気が漂う作品なのですが――その中でも、”魔法は
ちゃんと学校に通って修得するもの”であったり、そんな中で
のび太はやっぱり落ちこぼれだったり…『魔法の絨毯』は
高額なうえ、運転免許が必要なために、野比家では手が出ないもの
であったり…と、やけに現実味を感じさせる部分が設定に
組み込まれているのが、藤子先生らしさという気がします。
②物語は、現実世界での『違和感』から始まり…
物語の序盤、まだ現実世界にいるのび太達の前に唐突に現れる、
のび太とドラえもんの姿をした石像。 ――これがまず、怖い。
まぁ勘の良い人というか、【ドラえもん】をよく知る人であれば、
こういったものが『未来の彼らが遭遇する出来事』を暗示している
ものであることは、容易に予想が付くかと思います。
――が、それならそれで、”一体この先、どんな未来が
待ち受けているのか?”という疑問が生じ…それもまた、怖い。
【ドラえもん】をよく知る人も、そうでない人も惹き込まれる、
巧みな演出だな――と感じました。
冒頭の部分での個人的なツボは、野球に誘われたのび太が
”こんな時に魔法が使えたらな…”と妄想する場面。
のび太の手にしているバットが、なんと自ら意思を持って、
向かってくるボールを打ち返す――という妄想が描かれた
場面なのですが…。 ”バットがバットを振ってボールを打ち返す”
というあの絵面には、後から妙にジワるような面白さがありました。
③訪れた魔法世界、迫り来るものたち
【もしもボックス】によって創られた魔法世界にやって来た
のび太とドラえもん。 ひょんなことから、彼らは魔法世界の
権威である【満月博士】の屋敷を訪れ、そこで彼が提唱する
『魔界接近説』にまつわる話を聞きます。
超大型の台風、頻繁に発生する地震――異変を察知した
のび太とドラえもんは、翌朝再び、満月博士の家を訪れます。
しかし、そこにあったはずの屋敷は跡形もなく消え去り、
奇妙な野良猫が一匹いるだけでした。
その日の夜、カーテンを開けてみると、部屋にいた野良猫が
少女の姿に変わります。 彼女――満月博士の娘である
【美代子】の話によると、魔法で姿を猫に変えられてしまったが、
月の光を浴びることで、一時的に魔法が解ける…とのこと。
彼女の”一緒に魔界へ行ってほしい”という頼みに、
一度は返事をためらったドラえもん達ではあったが、
迫り来る脅威に目を背けることはできず――ついに彼らは、
美代子と共に魔界へ向かうことを決意する。
夜の満月博士の邸宅にて、迫り来る脅威に対抗するための
一筋の光明を見い出した博士たちと、そこに忍び寄る
悪魔たちのシーンは、”事の顛末が詳細には描かれていない”
故の不気味さが漂っていて、思わず息を呑むような
感覚に襲われました。
④ひみつ道具 VS 魔法世界の脅威
本作では、のび太やドラえもん達に特別な力はありません。
静香やスネ夫、ジャイアンは『魔法世界の住人』のため、一応
それなりに魔法は使えるようですが…”助っ人キャラ”のポジション
にあたる美代子をはじめ、【魔王デマオン】やその配下の悪魔
たちが使う魔法とは、明らかにレベルが違います。
そんなわけで、敵が使う魔法――あるいは冒険の中で遭遇する
様々な障害については、最終的に、ドラえもんのひみつ道具が
頼みの綱となるパターンが多くなってきます。
美代子を襲う悪魔が放った魔法攻撃に対し、【ひらりマント】で
対応するドラえもんのシーンは普通にかっこいいし、
『帰らずの原』で遭遇する難関に対し、【道路光線】で突破口を
開く場面も、爽快感があって好きです。
しかし、個人的にはほぼ無敵というか、現代風に言うと
『チート的』とも思える【石ころ帽子】の効果が役に立たなかったり、
【タイムマシン】で元の世界に戻ることが出来たのび太達に、
”別世界の敵”であるはずの【メデューサ】が干渉してきたり――と、
ひみつ道具にそれまであった『絶対的な優位性』みたいなものが
覆される展開は、恐ろしくもありながら、グっと惹き込まれずには
いられないものでした。