じいさんよ、俺がそんなに美少女が好きそうに見えたのか?
真横にいる少女の存在に驚きを隠せない俺は、ひとまず少女との距離をおく。
スッと、一歩下がると少女も同じように一歩こちらへ近づく。
それを数回繰り返したところで、明らかにおかしいことを頭が理解した。
「なんでついてくるんだ!?」
「ご主人様こそ私から離れるのをやめてください」
さっきから何なんだよ、この子は。滅茶苦茶可愛いけど、状況が状況だし、不気味さが勝って普通に怖いんだけど。俺は異世界へ転生したんだよな? いきなり女の子が横にいるっておかしいだろ。それも俺をご主人様だって? 意味がわからない。
「そのご主人様って言うのは何なんだ? 誰かと勘違いしてないか? 俺は今この世界に来たばっかりなんだけどさ」
「はっ、私としたことが自己紹介がまだでした。私は万能メイドロボットのシャルリア・ポリュスムス、どうぞ気軽にシャルとお呼びください。これからご主人様のためにバシバシ働くのでよろしくお願いいたします」
うん? 万能型メイドロボット? え? この子ロボットなのか。人間にしか見えないけどすさまじい技術だな……いやいや感心している場合じゃないぞ……あれ? ロボット? おい、ってことはもしかしてこの子がじいさんが最初の一体を特別にくれるって言ったロボットじゃないのか? マジかよ。全然俺の希望なんて理解してないじゃないか。
せっかく巨大ロボットに搭乗できると思っていた俺のテンションは真っ逆さまに落ちていく。
「ご主人様!? 大丈夫ですか? 顔色が優れませんが、もしや異世界の空気が体に合わないのでは?」
「そういうわけじゃないから安心してくれ。ちょっと想定外のことに打ちのめされていただけだから」
心配してくれていい子だってのはわかるし、顔も正直メッチャ好みだけど、そうじゃないんだよ。俺が求めていたロボットは可愛い女の子のロボットじゃなくて、男のロマンの巨大ロボットなんだよぉ……。じいさんを信用した俺が馬鹿だったぁ。喋れて自我があるって言ったときに少しでもおかしいと思うべきだったんだ。巨大ロボットが喋るのは解釈不一致だ。
そうだ。一回能力を確認してみよう。もしかしたら巨大ロボットもすぐに買えるかもしれない。
縋るように能力のウィンドウを表示させる。
「スキルオープン」
ひゅっと、目の前に画面が現れた。
能力名 ロボクリエイト(買い切りVer)
ひとまず、能力がこちらの世界へ持ち込めていることに安堵する。
これで能力は持ってこれずにこの子だけで魔王と戦うことになるって言う最悪の展開は免れた。それにしてもロボクリエイトか。後ろについてる買い切りって言うのがすごいダサいな。でもこれを付けなかったら持ってこれたかわからないししょうがないか。買い切りって言う表記の仕方を見ると、レンタルとかもありそうだな。
能力名のしたに、俺が前世でノートに書き溜めていた巨大ロボット、マカロフシリーズの名前が乗っていた。どうやら、既に買えるようになっているようだな。
どれどれ、値段はいかほどか?
マカロフ1号 100億ゴールド
マカロフ2号 80億ゴールド
マカロフ3号 130億ゴールド
は? 桁を間違えてないか? なんだよこれ。いや焦るな。この世界の金が日本と同じような価値かはまだわからない。日本でいう1円がこちらの世界の1万ゴールドになるならこのロボットは実質10万円くらいになる……そんなわけないよな。俺が考えたとんでも性能の巨大ロボットなんだ、製作費100億でも安いくらいだろう。
無慈悲にも左下に現在の所持金が0ゴールドと表示されている。
「残酷だ、こんなのあんまりにも残酷だよ。くそぉ、これじゃあ、俺はずっと巨大ロボットに乗れないじゃないか……」
「ご主人様、元気を出してください。私は巨大ロボットではありませんが、乗りたいおっしゃっていただければ今すぐ肩車して差し上げますよ。どうぞこちらへ。こう見えて私は力持ちですからご主人様の一人や二人、簡単に持ち上げてしまいますよ」
「俺は肩車をしてほしいわけじゃなーーい!! ロボットに乗って操縦したいんだよ」
ああ、ロボットに当たるなんて最低だ。俺のロボット道も地に落ちたな。この子も見た目は完全に人間だがロボットだ。すべてのロボットは平等に尊い存在だ。俺はなんてことを……。
「……そうでしたか。わかりました。いますぐ、ご主人様の意図を汲み取れなかった無能な創造主を亡き者にしてまいります。そして、私も自爆プログラムを作動させます。短い間でしたがお世話になりました。私はご主人様と出会えて本当に幸運でした。さようなら」
「ちょっと待ってくれ!! 俺が間違っていた。シャルも立派なロボットだ。俺のロボットへの愛情は無限だ。俺はシャルとこの世界を生きていきたい。そんな、自爆するなんて言わないでくれ」
振り返って歩き出そうとするシャルの右手を掴み叫ぶ。
このまま行かせるわけにはいかない。どうやってあのじいさんをやるのかはわからないが、この子はもう俺のロボットだ。大切な家族なんだ。死なせるようなことは絶対にあってはならない。