異世界に降り立つ
俺とじいさんの間に沈黙が流れる。
じいさんは目を閉じて、ぶつぶつと何かを言っているのだが、もしかすると俺のロボットを想像してくれているんじゃ!! 早速だなじいさん。
「こっちの方が可愛いかの……いやこっちも捨てがたい……」
よく聞こえないが、あそこまで真剣に考えてくれているんだとてもいいものになることは間違いないだろうな。神様が直々に考えてくれるなんて俺のロボット道の歴史に残る一日になりそうだ。
「うむ、こんなもんじゃろう。おぬしが望んでおるであろうものをそのまま想像しているから期待しておくのじゃぞ」
「最高だよ。ありがとうじいさん。早く見せてくれよ」
「まあ、そう焦るでない。ここで見せたところで意味はないじゃろう。異世界へついてからのお楽しみとして取っておくんじゃ。おぬしの能力に所有しているロボットを異空間に保有することができる力も付けておいてやろう。これで大量のロボットを持ち運ぶことができるじゃろう」
なんて気の利くじいさんなんだろうか。本当に俺のことを考えてくれているんだな。俺もじいさんの期待に答えて魔王を倒してこなくちゃな。俺のロボット一号機は楽しみだが、俺の手で作るロボットたちも楽しみだ。それ相応の対価を支払うことになるんだろうけど、できるだけ安いといいなぁ。安くても性能が低いんじゃ意味がないし、難しいか。
「これで能力については準備完了じゃな。異世界で自分の能力が見たいときはスキルオープンと唱えれば半透明のウィンドウが表示されるからうまく活用するんじゃぞ。あちらの世界のものは皆同じ確認方法を使用するから、変に思われることもない。存分に確認するんじゃ」
「今はまだ確認できないってことだよな? はぁー、今から楽しみになってきたぁぁーー!! じいさん早く残りの説明を終わらせてくれ」
「そう急くな、どうせすぐに転生することになるんじゃからの。わしの話は最後までしっかり聞いておかんと後々後悔することになるぞ」
自分の心の高まりがセーブできそうもない。俺の人生16年間ずっと待ち望んでいてロボットにもうすぐ乗れるんだ。そして、広大な異世界を飛び回って、モンスターを倒していく。くぅ、ワクワクが止まらない。
「聞いておるのか? すぐに死んでしまっても知らんぞ?」
俺が完全に自分の世界に入ってしまっているところを、じいさんの声で呼び戻される。
「ごめん、ちょっと今からの自分を想像してたら、そっちに夢中になってた。続きの説明を頼むよ」
「まったく、わしの話に集中してもらわねば困るぞい。次は細かいところの説明じゃな。おぬしは不安に思っておるかわからんが、言語はわしのほうで通じるようにしておるからの。読み書きも問題なしじゃ」
言われてみれば、日本語が異世界で通じるのは違和感でしかないな。そのあたりはうまく調整してくれるということだな。既に何人も異世界へ送っているじいさんは配慮が違うな。
「言語なんて気にもしてなかった。ありがとう」
「礼はよい。わしのこれは仕事のようなものじゃ。それと当然のことじゃが、一応釘を指しておくが、魔王にはくれぐれも気を付けるのじゃぞ。すぐに戦いを挑むなんぞもってのほかじゃ。来る時のために戦力を蓄えるんじゃぞ。今までも自身の能力の万能感に支配されてしまったものが、魔王に挑んで帰らぬものになったことは多々ある。おぬしはそうならんことを祈っておるぞ」
「俺はそこまで無謀じゃないよ。それに、ロボットを無限に作れるのに、それを待たずして魔王に挑んだりはしない。魔王に挑むのは俺がロボットの想像に満足したときだ」
実際には満足することなんて絶対にありえないので、様子を見計らって戦いを挑むようにしないとな。いつまでもロボット作りばかりしていては転生させてくれたじいさんに申し訳にない。
「ほかにわからぬことがあったらわしが授けたロボットに聞くがよい。わしの知識のほとんどを覚えさせておるからの。戦闘でも生活でも役に立つこと間違いなしじゃ」
「ロボットが喋れるのか? 俺はそんなハイテクなものを貰っていいのかよ」
「喋るだけではないぞ。自我を持たせておるから人間と遜色ないものに仕上がっておる。もちろん、力は折り紙つきじゃ。最高峰の戦闘力を有しておるからの。しかし、いくらロボットが強いとはいえ、おぬし自身はそのままでよかったのじゃろうか? 大抵のものは自分自身を強化する能力を選んでいくんじゃがな」
「ふっ、俺はロボットと一心同体だ。俺だけが強くなる必要はない」
ロボットに登場してしまえば、俺も無敵の存在へ進化する。俺とロボットの相乗効果は計り知れないものになるだろうな。
「それでは、説明は終わりじゃ。早速転生の儀式に入るぞい。こっちへ来るのじゃ」
じいさんが俺に手招きをし、地面に魔方陣が書かれた場所へ誘導する。
「おぬしの人生がいいものになることを祈っておるぞい。魔王の討伐も成し遂げると信じておる。行くのじゃ」
「ありがとうじいさん。この恩はずっと忘れないからな。俺がロボットに乗って魔王を倒してくるよ」
地面に描かれた魔方陣が発光し、周囲へ光が集まる。
次の瞬間――世界が一変した。
「うわ、眩しい。もうちょっと光は控えめにできないもんなのかよ」
「ご主人様のおっしゃる通りです。私の創造主も爪が甘いですね。レーザーで焼いておきましょうか?」
え? 真横から女の子の声がした。ものすごいアニメ声なんだけど……。
光がおさまり、視界が戻ってくると横には、金髪碧眼の美少女がメイド服のような装甲のような服を着て立っていた。
「えーと、誰だ?」