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春夏秋冬の公式企画集

星に願いを。あるいはある願う人達の話し合い

作者: 大野 錦

 ちょっと童話から離れてるな、と思いましたが、こんなのもたまにはいいでしょう。

Wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein.

もし汝がずっとある深淵の中を覗き込めば、その深淵もまた汝の中を深く覗き込む。 -- フリードリッヒ・ニーチェ --




 むかしのどこかのある国のある村の伝承です。

 その村では古くから、冬の夜空で流れ星を見つけ、願いを託すと、それが叶う、と長く伝えられていました。

 ですが、それはとても難しいのです。

 なぜなら、その村は冬になると、朝も夜も厚い雲に覆われ、ほぼ一日中雪がしんしんと降るからでした。

 だから、この難しい流れ星を見つける事が、幸運のしるしとされ、願いを言えば叶う、と伝えられて来たのです。



 この村にある少女が住んでいました。彼女はこの伝承を知っていました。

 ある冬の日、めずらしく夜空が晴れ、満天の星々が輝いていたので、もしかしたら、流れ星が見つけられるかな、と寒い中に村の一番の見晴らしのよいところへ行きました。

 すると、どうでしょう。流れ星が落ちて来たではありませんか。

 少女は願いを言います。


「流れ星様。どうか、私たちの一家が幸福で豊かに過ごせる様にして下さい」


 少女の家は貧しかったので、こう願ったのです。

 この願いは次の日より叶って行きます。

 少女の家は徐々に豊かになり、生まれつき体が弱かった弟は元気になり、一家は幸福に過ごし、少女も大人になると、心優しいお金持ちの青年と恋に落ち、暖かな家庭を築き、幸せな一生を送りました。


 

 それから数十年後。この村にある少女が住んでいました。彼女は数十年前に願いを叶えた少女の事を知っていました。

 偶然にも彼女も生まれつき体の弱い弟がいて、同じく貧しい家庭でした。

 ある冬の日、めずらしく夜空が晴れ、満天の星々輝いていたので、もしかしたら、流れ星が見つけられるかな、と寒い中に村の一番の見晴らしのよいところへ行きました。

 すると、どうでしょう。流れ星が落ちて来たではありませんか。

 少女は願いを言います。


「流れ星様。私や私の家族はどうでもいいです。どうかこの世界で私たち以上に困っている人たちを助けて下さい。私たちは自力で幸福になります。そして、これから流れ星様が、自分だけの幸福を叶えたい人に現れる事がありません様に」


 こうして、世界から貧しさや苦しみに困る人々はいなくなり、この少女は努力して、医師になり、弟の病気を治し、また多くの病人を無料で診てやり、お金持ちにはなりませんでしたが、大いに尊敬されました。


 

 さらに数十年後。この村にある少女が住んでいました。彼女は数十年前に願いを叶えた少女たち二人の事を知っていました。

 偶然にも彼女も生まれつき体の弱い弟がいて、同じく貧しい家庭でした。

 ある冬の日、めずらしく夜空が晴れ、満天の星々が輝いていたので、もしかしたら、流れ星が見つけられるかな、と寒い中に村の一番の見晴らしのよいところへ行きました。

 すると、どうでしょう。流れ星が落ちて来たではありませんか。

 少女は願いを言います。


「流れ星様。私や私の家族や、世界中の人々はどうでもいいです。人は何かに願いを託して生きていくのではなく、自分の努力で生きて行かなければなりません。私の願いは流れ星様。あなたが二度と現れない事です」


 二番目の少女の願いから、数十年がたち、世界にはまた貧しい人々、困っている人々が増えています。

 ですが、この少女の願いで、流れ星は一切この村に現れなくなりました。

 結果、世界はこの少女の家族を含め、困窮する人々はますます増えて行きました。



 さらに数十年がたち、三人の少女たちが話し合いをしています。

 場所はこの世のものでない場所と思って下さい。

 彼女たちが生きた時代は異なりますが、この場所では三人は同世代の、あの流れ星に願いを託した時の姿です。

 二人目の子が三人目の子に文句を言っています。


「何で流れ星様を来ない様に頼んだの?これじゃ誰も苦しみから救う事が出来ないじゃない!」


 三人目の子が反論します。


「人は誰かに頼ったり、何かにすがるのがよくないからよ。あなたの様な人を『偽善者』って言うの」


 最初の子が言います。


「私はただ自分と家族だけが幸福ならよかった。幸福を運でつかむのは悪い事なの?努力しても報われない事だってあるでしょう。努力や正しさが絶対だ、とする点では、あなたたちは私からしたら同じにしか見えない…」


 二人目の少女と三人目の少女は、最初の少女を軽蔑していましたが、この最初の少女の言葉で、お互いを見合わせた後、下を向きうつむいたままになりました。


 何が正しいのか、そもそもこの様な事は、正しさを基準にして判断すべき物なのか。

 この世のあらゆる事の全てに対して、明確な定規があり、それを元にして解明できうる物なのでしょうか。

 ただし、一人目の少女が言った様に、二人目と三人目の少女たちが、流れ星に価値を見出していない点では、同類の様です。


おしまい



Wovon man nicht sprechen kann, darüber muss man schweigen.

語る事ができない物、それについて人は沈黙しなければならない。 -- ルートヴィッヒ・ウィトゲンシュタイン --

 一応、参考、というか、トレース元です。


 ◆ルサンチマンの哲学

 ・永井均/河出書房新社


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 下記のリンクで架空歴史物をやってますが、第24章で、少し哲学的というか宗教的な話をしています。

 興味のある方は、是非とも第1章から読んで、評価と感想をお願い致します!(必死)


 Also sprache Watholax. ヴァトラックスはこう語った。


【読んで下さった方へ】

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・感想もどしどしお願いします(なるべく返信するよう努力はします)。

・誤字脱字や表現のおかしなところの指摘も歓迎です。

・下のリンクには今まで書いたものをシリーズとしてまとめていますので、お時間がある方はご一読よろしくお願いいたします。

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【短編、その他】

【春夏秋冬の公式企画集】

【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

【江戸怪奇譚集】
― 新着の感想 ―
[良い点] 現代の子供に聞かせるには良い話ですね。今は声の大きな人間の意見が幅を利かせる時代だから。現実世界では3人とも最後まで自分が正しいと主張して相手を攻撃し続けるのだろうけど(そういう終わり方も…
[一言] 哲学的ですね。 色々と考えさせられました!
2021/12/20 19:52 退会済み
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