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Dancer  作者: K
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街灯と建物から漏れる明かりが照らすアスファルトに降り立った。ライカンスロープと女も隣にいた。人通りの多い場所だというのに、唯たちに目を向ける者は誰一人としていなかった。

上を見上げると、高いビルが目に付いた。そして、そのビルが先程ライカンスロープと落下した建物であるということに気がついた。

ライカンスロープがにやつきながら唯の背中を叩く。

「これからだよ、面白くなんのは。明日ニュースとかちゃんと見とけよ?」

女は黙ったままだった。怒っているような、どこか憂いを帯びたような目で行き交う人々を見つめている。声をかけるのはためらわれたが、訊かずにはいられなかった。

「何が起こるんですか?これから」

寸分の間を置いて、女がこちらを向いた。一瞬、哀れみを含んだような目を向けられた気がした。

「人を裁く機構が失われたのだ。死ぬべき者が死ぬ世界ではなくなった」

何を言われているのかわからなかった。元々そんな都合のいい世界ではなかったのではないだろうか。

そんな表情を浮かべている唯を見て、女は今度こそ悲しみを抑えられないといった風にため息をついた。

人が死ななくなる(・・・・・・・・)。この狼の言う通り、明日にでも騒ぎになるだろう」

人が死なない世界になる――確かに女はそう言った。にわかには信じ難い事実を突きつけられ、唯は言葉が出なくなった。ライカンスロープは浮ついたようににやにやと笑みを隠さない。女が続ける。

「こうなってしまっては私の力ではどうしようもない。他の機構を訪ねて、なるたけ迅速に秩序を回復させるしかないだろう」

「ごめんなさい、私、」

こんなことになるとは思っていなかったとはいえ、ごめんなさいの一言で済む問題ではないだろう。しかし、唯はこの時ほど自分を無力だと思ったことはなかった。結局自分は手駒だったのだ。無法な狼の復讐欲を満たすだけの。せめて自分のした事に対して、なにか償いをせずにはいられなかった。

しかし女の表情からは、唯に対しての怒りは読み取れなかった。

「君は私の主を人殺しだと思ったのだろう。すまなかった、こうなる前に説明するべきだったな。私の落ち度だ」

そして女は語った。あの機械はランダムな規則に則って人の幸不幸や死期を定めていたこと、それは人間社会の平穏を維持するためだったこと、機械が壊れたことによって人の死ぬ要因が無くなったこと――最後に女は、真面目な顔で唯の手を握った。

「君は私と一緒に来た方がいい。近いうちに異常に気がついた人間達によってこの社会は崩壊していくだろう。それと、」

ライカンスロープに向けられた女の目は、明確に怒りを示していた。

「貴様だ、貴様は今すぐに刑を受けろ。その面を二度と見せるな」

「もうあれぶっ壊れたんだから強制力ないだろ、受けねぇよ」

「なら一緒に来い。目を離すと何をしでかすかわからん」

「顔見たくなかったんじゃないの?まあいいや、面白そうだしついてってやるよ」

ダチもいるしな!と狼に肩を組まれた唯は、ただ俯くしかなかった。段々と人通りが怪訝な目を投げかけてきた。もしかすると、狼と女のことは周囲には見えていないのだろうか。

女が再び空中に線を描こうとして、ふと唯に声をかけた。

「自己紹介がまだだったな。私に決まった名はないが、同僚からは人の信仰する天使の名をとって『ガブリエル』と呼ばれている。ガブと呼んでくれればいい」

「あ……唯です。これからはよろしくお願いします」

「ガブちゃんよろしく〜」

「お前は一刻も早く手段を見つけて死ね」

「え〜?」

ガブリエルと名乗った彼女は、再び宙に指を滑らせた。いつもと変わらない大通りにはいつものように人が行き交っている。これからこの風景が変わるなんて想像もできない。

空には高く月が昇っていた。欠け一つない満月の夜、1人の少女と不可視の2人が崩壊前夜の世界から消えていった。

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