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独りの男

 人間とは、昨日まで酒を飲み交わす仲であっても、翌日には背後から刃を突き立てるような愚かな存在だ。

 そのことは十分理解していたはずだった――


「あ、あ、あんたはやり過ぎたんだよっ!」

「もうこれ以上はついていけねえ!」

「ごめんなさい……どうか私たちのために死んでください」


「てめぇら……。まさか政府側になびいたのかよ。今まで誰のおかげで、ここまで生き延びられたと思ってやがる」


 野望を達成するまで、あともう一歩だった。なのに、俺は自らの部下達に追い詰められていた。

 どうやら祝いの酒に一腹盛られたようで、情けないことに体は言うことをきかなかった。


「お前ら……誰になにを吹き込まれたんだ……。金か?いくら金を積まれたんだ」


 どいつもこいつも覚悟のねえ顔してやがって。きっと政府の犬にでも唆されたんだろう。


「リーダー……あんたは血を流しすぎたんだ……革命が成功したところで、この国は傾くに違いない。だから――あんたの死で幕を閉じるんだよ」


 右腕として使っていた男が正面に立つと、銃口を俺の額に向けた。

 だが、それがどうしたというんだ。その程度の修羅場なら、何度も乗り越えてきている。


「は……甘いな。生娘のように甘い。お前らは何もわかっちゃいない。政府の犬になったところで、お前らを待ってるのは、がはっ」


 レオンが引き金を弾いたらしく、深々と穿たれた銃弾の痕からは、鮮血が吹き出していた。長年見てきたからわかる――これは、致命傷だ。


「もういい……俺達もタダで済まないのはわかっている。後であんたの後を追うさ」


「ガハッ……」


 二発の銃弾は胸を貫いた。


 けっ……最後の最後で芋引きやがって……あと……もう少しだったって……言うのによ――




 いてて……なんだここは……


 目を覚ますと、やけに真っ白な場所に立っていた。ただ、俺の街にこんな地区は存在しない。いつも死臭で満ちていた、あの貧民区に、こんな小綺麗で殺風景な場所はなかったはずだ。

 そこで自らの違和感に気がつき、身体中を手で探ると、あるはずの銃創が嘘のように消えていた。


 嘘だろ……どうなってんだ……


 しかも、目の前にはやけにデカい扉がそびえ立っている。俺の前を塞ぐとは不遜な扉だと、反射的に手をかける――






『いらっしゃいませ☆』


「うおっ、なんだよお前らは!」


「え、えっと、うおっ、なんだよお前らは! と聞かれたら」


「答えてあげるが世の情け!」


「はい。天界唯一の相談窓口アフターケア事業部部長の卑弥呼と愉快な仲間達です」


「っておいおい。打ち合わせ通りやってくれよ」


「何故貴方に合わせてロケット団の口上を述べないといけないのですか。しかも配役的に私がニャースとは納得できません。断固抗議します」


「いやー可愛いからピッタリかと思って。なあ?」


「は、はい。ぴったりだと思います」


「ええ~そうですかぁ~? それなら致し方ありませんね~」


「いいか? ああいうバカを、ちょろインと言うのだ。覚えておけよ」


「は、はい……。卑弥呼様はちょろインですね」


「おい待て。ちょろインとは私の事をいってるのか」


「おいっ! シカトしてんじゃねぇぞ。ここはどこで、お前らは誰なんだよ」


「あぁーまた五月蝿いのが来やがったなー。おい卑弥呼様よ。ここって確か誰かを救ったような奴が来るんだよな?」


「ええ、一応そういう方を選んではいますね。ただし、個人を救ったと言うことではなく、この方は《《不特定多数》》を救ったという形になるんですよ。名前は……バーソロミューですか」


「不特定多数だあ? ジャンヌダルクとかそういう類いか」


「英雄のような方なんですか?」


「いえ、悪党です。それも飛びっきりのぶっちぎりの悪の親玉的なヤツです」


「おい、それじゃあ誰かを救ったような話には繋がらないだろ」


「僕もそう思います……」


「そう思われるのも無理はありませんよ。私だって稀にみるタイプなんですから。なんせ、《《テロ》》で民衆を救おうとした救世主なんですから」


「おい! いい加減にしろよ。お前らは俺の事を知ってるようだが、俺の質問には一切答えていないよな。とっとと俺を解放しろ。あいつらをブッ殺さなきゃならねぇんだからよ」


「残念ながらそれは叶いません」


「どう言うことだよ。まさかアイツらに監禁でも依頼されたか?」


「違いますよ。貴方は死んだのです。文字通り死に果てたのです。そして貴方には異世界に転生する権利があります」


「ちょっ、待てよ!」


「おっと天界でまさかのキムタクの物真似が見れるとは。いささかクオリティーが低いのが残念だが」


「ちょっと茶々を入れないで下さいよ。久しぶりのシリアル海なんですから」


「シリアスな。それと海じゃねえからな。なだよシリアルな海って。どこのグルメ界だよ」


「失礼。噛みました」


「ふざけんなよ。俺が死んだだって? じゃあなんで俺はこんなピンピンしてるんだよ」


「では逆にお聞きしますけど、どうしてピンピンされてるんでしょうか? 貴方は先程まで部下に裏切られて、銃で撃たれてましたよね。それなのに傷一つないというのは、生きてたら有り得ない現象ですが」

 

「……それは、確かにあり得ないな。だが……お前達が治療を施したうえで詐欺を目論んでるって可能性もある」


「そんなことしても私達に何の益も有りません。いい加減死んだと自覚してください。しつこい男は嫌われますよ」


「……ちっ、本当に死んじまったのか。それじゃあ、もう戦わなくていいんだな」


「そうです。貴方はもう休んでいいんですよ。次の世界に生まれ変わることもできますし、天国で慎ましく暮らすことも出来ます」


「残念だが、俺は不平等を許さない。虐げられる者がいる限り、どんな手を使っても救ってやりたい。天国なんてまっぴらごめんだ。さっさと転生とやらをさせろ」


「ならほどね、わかりました。転生の扉はあちらです。それでは不平等と貧困が蔓延る世界に逝ってらっしゃいませ☆良き人生たびを」




「なんだか聞いてるぶんには極悪人って訳でもなさそうだったが」


「僕もそう思います……」


「正義も悪も表裏一体ですし、物の見方でどうとでも取れますがね。どんなに崇高な目的を抱えていたとしても、そこに到達するまでには多くの犠牲が付き物です。彼は腹心の部下に殺されてしまいましたが、人間なんて所詮そんなものですよ」


「必死に働いた挙げ句、部下に殺されるとはな……俺なら祟り神になる自信があるね。そもそも幼女以外の為に働く気にもならないが」


「結局、この世界に平等なんて有りはしない事を自覚しない限り、また似たような事になると思いますけどね。そういう意味で無知は罪なのですよ」


「ほんと神様なんて信じらんねえな」


「生きてる間は神なんて信じるもんじゃありませんよ。自分の人生くらい責任持って欲しいものです」


「卑弥呼様は……信じていなかったんですか?」


「まあ生前は占いもしてましたしね。思うところはありますよ」


「さあて、一仕事終えたしゆっくり休もうぜー。お兄さん疲れたぜ」


「貴方は何もしてないので給料ゼロです」


「神はいないのか」


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