桃園の誓い
居酒屋に神も含めた女四人が集まれば、そこは酒の勢いに任せて普段積もりに積もった負の感情の吐露が起こるのは、至極当然の流れだった。
「ていうかさ……いつも横暴なのよね。監査部の連中はさ」
テーブルに大ジョッキを叩きつけるのはジャンヌダルク。
聖女として名高い彼女の本性は、喪女の腐女子だった。上司から容赦なく受けるパワハラのストレスを、今回のテーマでもある監査部に向けて闘犬ばりに吠えている。
「ダーリンを無断で拉致するなんて……監査部許すまじ、ですわ」
口からゲソをはみ出しながらモシャモシャ文句を垂れてるのは、太陽神であるアマテラス。その眼は曇りきっているが。
「僕は……これまで通りに三人で楽しく働きたいです」
オレンジジュースしか飲んでないのに、場の空気に当てられたルナは頬を紅く染めて口を開く。
やっと人生ゲームの後遺症が抜けたことで、もとのホワイトルナへと戻ったようだ。
「そもそもアマテラス様が上に密告したのが原因でしょうが。時代が時代なら極刑もいいところですよ。市中引き回しの上、趣味垢晒しの刑に処します」
盛大なゲップと共に胡乱な目付きでアマテラスを睨んでいるのは、ただビールを消費し続ける存在になった卑弥呼。
自分の目の前で部下である男を、ぽっと出の女にかっ攫われたことは屈辱以外の何物でもなく、こうしてあの女狐に対抗せんと会合兼飲み会を開いたのだが――
「趣味垢を晒される? そんなことされたら死んじゃうじゃない」
闇を抱えている聖女のジャンヌダルクは、十字を切って神に祈りを捧げた。まるでこれから火焙りにさらされるかのように。
現代の聖女のプライベートは、決して晒されていいものではないようだ。
しかし、会議は踊る、されど進まず――
「でもさ~実際監査部に引き抜かれちゃったら、私達に出来ることなんてないよ。下手したら職も失うかもしれないし……」
そうなると次回のコミケがどうこうと、ジャンヌは指折り数えてなにやら計算している。
どうせ薄い本のことしか頭にないのだろう。
「確かにお上に楯突いたついたところで、玉砕も良いところでしょうしね」
今時万歳アタックなんて流行らないですよ。と涼しい顔で語るアマテラス。
「せっかくダーリンに幽閉の危機から救ってもらったというのに、お礼の一つも告げないままま、罰としてまた幽閉されました。なんてことになったら眼も当てられないわよ」
「卑弥呼様も素直じゃないです」
「あなたたちね、いい加減しつこいですよ。お礼を言うとか言われるとか、そんな間柄じゃないんですよ私達は」
「へー随分と信頼してそうなギャ!!」
「五月蠅いコバエですね、まったく」
ギャーギャーと騒ぐジャンヌの両目からは血涙が流れ落ちていた。
「躊躇なく割り箸を両目に突っ込んでくるとかあり得なくない!?直訴だ! 次は法廷で会おう」
「まあまあ……。あの、僕思ったんですけど、あのアスカさんって方は命を救われたことで運命を感じてるんですよね?」
ルナの質問に卑弥呼は苦々しく頷く。
「ええ……。まったく前世の縁というのは厄介なものですよ。あんな男のことでさえ、あの女狐には白馬の王子様にでも見えてるのでしょうから」
私には考えられませんけどね、と漏らす卑弥呼にルナは提案を持ちかける。
「なら、アスカさんに憧れの男性は白馬の王子様じゃなくて、三角木馬の変態王子だという事実を嫌ってほど理解して幻滅してもらえればいいんじゃないですか? そうすればゴミを捨てるように卑弥呼様のもとに戻ってきますよ」
若干後遺症が心配されるルナの一言に、卑弥呼の眉はピクリと動く。
「……それよ。あの女はまだあの男の本性を知らないはず! その正体が世の幼女をあまねくその手中に収めようとせんと企んでる幼女王だと知った日には……くく」
「はぁ、卑弥呼が考えてることは想像にかたくはありませんが、あまりダーリンを貶めるのはやめてほしいですね」
「わたしは別にどうでもいいかな。蚊帳の外から眺めさせてもらうとするよ」
アマテラスは溜め息を吐き、ジャンヌは無関係を装う。
「これ見ても、まだそんなこと言えますか?」
「そ、それは!?」
卑弥呼が懐からそっと出した写真には、十八禁コーナーでBL漫画を涎を垂らしながら物色しているジャンヌの姿が克明に写っていた。
「アババババ……」
「手伝ってくれますよね☆」
「オオセノママニ……」
「アマテラスはそもそもの原因を作った張本人だから、もちろん手伝ってくれますよね」
「う……バレてましたか。しょうがないから手伝いますわよ。ダーリンがいないと張り合いが無いですし」
「ルナも手伝ってくれますか?」
「勿論です! 早く元通りになるといいですね」
そんな感じで、アスカ・ラングラーから標的を奪還する作戦を、ここに四人は計画した。
後に、この会議は桃園の誓いと名付けられる。※諸説あり




