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ショートショート8月2回目

いじり癖

作者: たかさば

僕の手のひらの上には、醜くひしゃげたおっさんが一人。


……あーあー、つぶれちまった。

しまったなあ、ちょっといじりすぎたわ。


わりとお気に入りだったのになあ。

……ま、仕方なかんべ。


なんか飽きちゃったし、そろそろ見捨てるか。

僕は、くたびれたおっさんをつまみ上げると、ポイとなげた。


さあて、次はどの人間をいじろうかな?


デカいの細いの堅いのチャラいの派手なの地味なのみすぼらしいのに見栄っ張りなの、…迷うな。


ああ、このくたびれきったババアにしようかな。


なかなかのスリリングな生き方をしているじゃないか。

見所は、多そう?


老後の蓄えもしないで毎日生きているとか、マジヤバい。

適当なことしてるなあ、きちんと人生設計しろよ!

こんなん野垂れ死にパターンじゃん!


ふぅん、毎日生きるのに精一杯、ね。


他に仕事が有るのに、何で見返りのない仕事を続けているんだか。

何一つ義理を返さない会社に義理立てとか、頭悪すぎんじゃねーの?


真面目に生きていたって、そんな仕事してたら金は貯まらんわなあ。

いつか報われると信じていたって、そんな働き方してたら体は壊れる一方だわなあ。

ひとりで生きていけると強がっていたって、そんなに人を拒絶してたら心は冷えていくばかりだわなあ。


……実につまらんわ!


良い感じにいじったろ!


大金持たして、弾けさせたろ!

モテモテにして、勘違いさしたろ!

やることなすことうまくいかせて、調子にのせたろ!


……。


なんや、この、ババア。


大金持たしても、全然弾けやへん。

モテモテにしても、地味なまんま。

トントン拍子で勝ち組の仲間入りしたのに、変わらず真面目に働き続けとるやん。


……気づいたらブラック企業の役員になっとるやん。

……まさかの内部改革進めとるやん。

……おいおい会社いつの間にかホワイト企業になっとるやん。


知らんうちにたくさんの人の信頼得とるやんけ!

知らんうちに愛してくれる人が現れとるやんけ!

知らんうちに老後の蓄え充分貯まっとるやんけ!


……なんや、これ。


信じられないくらい、つまんねぇな。


努力と誠実と真面目と一途、実につまらんわ!


どこにも蔑んだ目がない。

どこにも恨みがましい声がない。

どこにも誰かを呪う気持ちがない。


平凡な、幸せそうな笑顔なんざ、僕は求めてないんだよ!


……こんないじりがいのないババアは初めてだ。


…ふん、息子に娘に孫たち、賑やかな家庭で穏やかにほほえんでやがる。

…けっ!勝手にのほほんと、暮らしやがれ!


僕はババアをポイと投げ捨てた。


ババアはゴミ捨て場の荒波に流されることなく、まっすぐ進んで、何処かへ消えてしまった。


……ああ、むしゃくしゃする。


やっぱりいじるなら、とことんクズに限るな。


ちょっといじれば、すぐにこっちの期待に応えてくれるからな。


ちょっとつつくだけで、面白いように転落していくんだ。


…思えば、お気に入りのおっさんは、実に良い転落っぷりだった。


自分に才能あると思って暴走して面白かった。

自分が運が良いと思って調子に乗って面白かった。

自分はモテると思ってやりたい放題して面白かった。


ちょっと才能奪い取ったら落ち込んじゃってさ。

ちょっと運奪い取ったらふさぎこんじゃってさ。

ちょっと太らせたらどん底まで堕ちちゃってさ。


……捨てたけど、もう一回拾うか。


僕はゴミ捨て場から、ひしゃげたおっさんをつまみ上げた。


ずいぶんこぢんまりとしとるやんけ!

ずいぶん黙り込んどるやんけ!

ずいぶん下向いとるやんけ!


こりゃあいじりがいがありそうだ!


くくくく!


必死になって学んでてウケる!

必死になって拝んでてウケる!

必死になって歩いててウケる!


アハハハハ!


やっぱりすぐに調子乗ってウケる!

やっぱりすぐに大口叩いてウケる!

やっぱりすぐに勘違いしてウケる!


フフフ…。


そうそう、もっと傲慢になれ!

そうそう、もっと批判しろ!

そうそう、もっと図に乗れ!


よーし、周りは全員敵になったな。


転げ落ちて行かせるなら、今!

誰も手を差し伸べなくなった、今!

誰もが不幸を願うようになった、今!


「ちょっと!また遊んでる!」

「え!いや、その、ええとー!」


ヤバい!


(なかま)だ!


「その弄りグセ、やめなさいよ!…なにこのゴミ捨て場のカオスっぷりは!」

「いや、これは、そのぅー!」


まずいなあ、一番の真面目な(うるさいやつ)に見つかっちまったぞ。


「またムダに人の運命に介入して!見守ることできないの!?」

「は、はひ、スンマセン……。」


僕はおっさんを背中にそっと隠して…ああ、取り上げられた!


「あんたの仕事はここの整理整頓でしょ?!ゴミで遊んでどうすんのさ!あーあー、こんなに潰しちゃってもう……」

「いや、これから仕分けをね?」


ああ、しくったなあ、せっかくの見物が全部パアだ……。


「嘘つけ!もうあんたにはゴミ捨て場を任せられない!…部所移動ね!こっちに来なさい!」

「ちょ!いた、イテテ!耳、耳、引っ張らないで!」


やだなあ、成仏課とかだったらどうしよう。

僕は平穏無事な人間なんかじゃ、つまんないと常々……!


「じゃ、お迎え役がんばれ!」


人生終えて、天に昇るだけの…見所ナッシング担当!?か、勘弁してくれ!!


「ハア!?やだよ!僕は人間の堕落を


僕は、ゴミ捨て場から追い出され。

背中にでっかい羽根と、頭にわっかをのせられて。


「…いいからとっとと迎えに行ってこい!」


どかっ!


天国のはじっこから、蹴り落とされて。


……ぐしゃ!


地上に叩きつけられて。


「あーあー、つぶれちまって…どしたん?」

「いえね、部所移動がね、あったんだよね…イテテ!」


醜くひしゃげた僕をみて、情けをかけてくれたのは…。


僕が、いじり倒した、おっさんじゃないか……。


あーあー、まだいろいろやらかすはずだったのにイイイイイ!


「お迎えに、来ましたよ……。」


僕は、半泣きになりながら、おっさんを引き連れて、天に、昇った。


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― 新着の感想 ―
[一言] むしろ成仏課の方が楽。 お迎えするだけの簡単なお仕事。 まぁ、狂ってる人生を傍観するのも楽しそうっちゃあ楽しそうですが。
[一言] >>>他に仕事が有るのに、何で見返りのない仕事。 >>>真面目に生きていたって、そんな仕事してたら金は貯まらん。 >>>いつか報われると信じていたって、そんな働き方してたら体は壊れる一方。 …
[良い点] クソみてーなリアリティw [気になる点] 強いのが来ると調子に乗れないの。
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