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第4話 逃げ出した!

 あー、状況を整理しよう。

 まず、『チュートリアル』をやっていたら『アイテム使用』についてあったので使ってみた。

 使ったのは【ユニーク称号:造形愛の塊】獲得時にあった『造形愛の卵』ってのだな。

 これを使ったら光が出るわ、みんなこっちに注目するわと散々注目を集めてしまったわけで…

 で、光が収まったときにいたのが、


「―――」


 こらそこ、無言で微笑まない。



※※※※※※※※※※



 周囲が呆然とする中、俺も呆然としていた。

 だって、まだゲーム開始から数分、チュートリアルやってただけだぞ?

 『アイテム』の使い方ってどうやるんだろうと思って使ってみたらこれだ。


 周囲の目を気にすることないキャラクターができたことで、自由に旅ができると思った矢先だ。

 俺の頭上からゆっくりと降りてきて、地面からわずかのところで止まった、俺が孵化したであろう卵から出てきた女性。

 宙に浮いている彼女は、俺に一声かけた後柔らかく微笑んで佇んでいる。その姿はまさに、西洋画にあるような女神の姿だ。

 身長は俺より少し背が低いくらいで、女性としては高めだろうか。体型はスラっとしているが、目を引くのは太陽に反射するほどの白い肌にそれを際立たせる長くウェーブした金髪、透き通った青い瞳、整った顔立ち。そんな絵画から出てきたような存在は、神話にあるような布、キトンだったか、それを何層にも纏って漂わせている。

 が、それらを超えて印象的なのがその背中だろう。


 白い翼。


 人間には決してない、鳥のような翼がその背中にあった。 


「―――?」


 目の前の存在が、首を傾げながら呆然としていた俺の手を取ったことで、


「…はっ!?」


 現実逃避、終了。

 次から次へと人がこの広場に集まってきているのがわかるほど、喧騒が激しくなってきた。

 広場でいち早く気を取り直した俺は、周囲を見渡す。

 人垣が薄いところがあったので、とりあえずその女神っぽいやつを連れて抜け出すことに。


「と、とりあえずこっちにっ!!」


 取られた手を引っ張って、急いでその広場を抜け出すことに。

 ちょっと驚いたような表情を浮かべた彼女は、すぐに微笑み「あらあら」と言いながら手を引かれて俺の後ろをついてきた。

 ひとまず、逃げるが勝ちだ。



 と思ったが…


 逃げ場がないのですが?


「こっちだ!こっちにいるぞ!!」


「アレのこと聞き出せ!!」


 どうも注目を集めてしまったのは伊達ではなく、全く不慣れな町の中、見つけた小道をどんどん進んでいくが、プレイヤーと思わしき人がどんどん追っかけてきた。

 右へ左へと逃げ続けても、いつまで経っても追いかけられる。

 その間も俺がテイムしたであろう女性の手を引いて走っているが、彼女はこの状況も楽しんでいるようで、笑顔を常に絶やさず楽しそうに俺についてきてくれた。


 が、流石にこのまま逃げるのも限界だ。


「ごめん、ちょっとだけ抜け出すわ…」


 ゲームを始めて彼是1時間。やったことと言えばプレイヤーとの追いかけっこなんて散々である。

 いったん休憩の意味も込めてここで一度ゲームを止めるのもいいだろう。

 そう思って、この追いかけられた状態中ではあるが、悪いと思い彼女に声をかけたが、彼女は嫌がる素振りを見せず、


「―――」


 むしろ微笑みながら頷いてくれた。

 呼んで早々、こんな主で本当に申し訳ない。


 ということで、『メニュー』から『ログアウト』を選択して、ゲームを中断することに。



※※※※※※※※※※



「ふぅ…」


 1時間ゲームをしていただけだが、意外に疲れたようだ。

 ベッドに寝ていた身体を起こして背筋を伸ばすと、体がほぐれて血が巡ったのか、なかなかに気持ちいい。


「さて、なんか対策はないかなぁ」


 流石にあれだけ人に追われていちゃ、ゲームの中を楽しむことができん。

 というか、まだ『メニュー』開いて『アイテム』使ってひたすら走っただけである。

 …全然ゲームしてないな。


「おし、ちょっと調べてみるか」


 公式サイトのFAQを見てみると、やはりオンラインゲームだからだろう、迷惑行為をかけられたときのために『プライバシー設定』があるようだった。

 これを設定していると、一定距離に近づけなくすることや、設定を高く設定すれば周囲のプレイヤーの声も聞こえなくなるらしい。


「なるほど、個別に設定できるならなんとかなりそうだな」


 周囲の声が全然聞こえなくなってもいいが、それはそれでオンラインゲームという、様々な人と会うという醍醐味がなくなってしまうしな。

 何かあって声をかけられたときにそれを無視するってのもどうかと思うし。

 それに、もしかしたらプレイヤーだけが知っている楽しみ方というものもあるかもしれないのだ。

 そこらへんは直接プレイヤーに尋ねてみたほうがいいものもあるだろう。

 あくまで地味なキャラで目立たないっていうことが重要であって、人との交流ってのは嫌いではない。


 まあ、今のところそういう頼りになるプレイヤーってのがいないが。

 幸い、変なプレイヤーがいれば


「『プライバシー設定』をちょっと高めにして、周囲に近づけないってくらいにしておくか」


 そうしておけば、あの呼び出したモンスターを連れても動いても問題ないだろう。

 ただ、この設定も人が混雑するところだと範囲が狭まってしまうらしいが、先ほどみたいに人にたかられるよりはいい。

 たぶん、この騒動は一過性だと思いたいが。


「じゃあ、その設定をしますか』


 改めて、ログイン。



※※※※※※※※※※



 ―――ログインしました。


 恐る恐る目を開けてみると、さっきほどログアウトした路地裏ではなく、あの中世の街並みを再現した広場であった。

 どうやらセーブポイントとして設定されたってことだろうか。

 人ごみに囲まれたところで再スタートとはならず一安心。


 ただ、そこの様子は先ほどまでの昼間で人の生活感で賑わっていたものとは裏腹に、太陽が落ちかけて夕闇になり、仕事終わりの人が帰宅したり、食事をしに行ったりする風景に思える。


 ゲームからログアウトして10分程度だったのだが、ゲーム内での時間は進み具合が早いようだ。

 たしか、精神状態がどうとか、大変難しい理論があって、そのためVR世界内の時間の進み具合は現実よりも早く進むとかどうとか…

 ま、そこらへんもまとめて確認しておこう。


「で、えっと…」


 一度ログアウトせざるをえなかった存在はどこにいったのだろうか。

 俺の周囲にいないが…


「おっと」


 と思ったら、俺の正面、目の前に豆電球ほどの淡い光が発生した。

 それも一瞬で、収まるとそこにはさっき俺が手を取っていた存在が。


「―――」


「あー、さっきはごめん。ちょっと人に追っかけられてな」


 相も変わらずにっこりと微笑む彼女に、なんとなく頭を下げる。

 急とはいえ、突然消え去るような真似をしてしまったのが申し訳なかったからなのだが、こちらの意図を読み取ったのか、彼女は微笑んだまま頷いていた。

 人の感情を読み取ってモンスターがそこまで振舞えるってことは、相当優秀なAIが積まれているのだろう。


「ちょっと待っててくれ、一旦準備をするから」


 幸い、人の流れは昼間の時よりも少なかったようで、昼間ほどは注目を集めていないように思える。

 が、遠目からこちらを伺うような人がちらほら見える。

 さっさと設定をしてしまったほうがいいだろう。出てきてくれた彼女のことを放ってしまって申し訳ないが、『プライバシー設定』で周囲に見知らぬプレイヤーが近づけないようにしておく。


「よし、ひとまずこれでいい」


 突然人に詰め寄られるってことはこれでなくなっただろう。

 さて、落ち着いたところでチュートリアルをさっさと終わらせて、ゲームのこと、俺のこと、彼女のことを確認しておこう。

お読みいただきありがとうございました。


書き溜めについてはここまでとなりますので、次回以降の投稿は毎週土曜日の22時を基準にしていきます。


次回はゲームの説明も交えながら物語が進んでいく予定です。


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