第2話 キャラクター を 作ろう!
目の前の『プレイ開始』をタッチすると、VR機器を起動したように視界が真っ暗に。
が、それもすぐに反転し、白い空間が突如として現れた。
先ほど作成したアバターを操れるようで、周りを見渡していると、急に目の前にウィンドウが現れた。
「えっと、まずは『種族』を設定してください、か」
目の前のウィンドウを見てみると、種族一覧が表示された。
それを目で追っていくと、自動でスクロールされるようで、いろんな種族名が表示されるとともに、そのウィンドウの横には種族のサンプルキャラクターが等身大で表示された。
「『人間』に近いのはまだいいが、『昆虫』とかもいるのかよ。って、『魔物』ってのもすげぇな…」
『人間』やそれに近い『獣人』や、ファンタジーでおなじみの『エルフ』やらの他、『昆虫』なんかも結構な数あるようだ。
まあ、それの大きさが人間大ってのが気持ち悪さを増長させているが…
表示されるサンプルキャラクターを一通りみていたが、これじゃあキリがないので、ここはさっさと『人間』にしておこう。
『種族』を『人間』にすると、確認画面が出たので『はい』を選択すると、次はキャラクターの外見作成に移った。
それにあたり、どうやら現在作成しているアバターを基にゲームキャラクター作成ができるということらしく、『アバターからキャラクターを作成しますか?』というウィンドウが表示された。
あまりこだわることもなかったので、とりあえず自動で作成してもらってみよう。
『はい』を選択すると、そこには
「随分美形になったな」
アバターの俺をアニメやゲームの世界に溶け込むよう世界観に合わせるために作り出されたのだろうが、その顔はアイドルですと言わんばかりに美化されたキャラクターだった。
『Free Adventure ONLINE』は中世から近世の欧州が部隊の世界観ということだったので、作り出されたキャラクターはそこにそぐわぬよう髪は明るい金髪で鼻は高く、頬はほっそり目はぱっちり、加えて瞳は青色と、俺の日本人的要素を違和感なく外国人にしましたというキャラクターが出来上がっていた。
作り出されたそれを、前から後ろから、下から上から、右から左からと様々な角度から見てみるが、
「うーん…なんかなぁ…」
何か、よくわからない何かが、俺の中で引っかかった。
俗にいう『不気味の谷』現象だろうか。
身長や体重なんかは、アバターを参照しているから別に問題はない。
が、どうしてもその顔の造形だけは気になった。
傍から見たらカッコいいキャラだなと思うし、10人中10人がカッコいいと声をそろえるだろう。
でも、ゲーム内だから当然、他のプレイヤーも似たようなものになっているんじゃないだろうか。まあ、種族が人間じゃない奴はどうなのかわからんが。
ともあれ、それを操作するのは誰でもなく俺だ。
どうもこの顔と付き合ってゲームをするという気にならなかったのだ。
「うーん、どうするかなぁ…」
あくまで現実じゃ体験できないことを体験しにいくのだ。
ならキャラクターくらいどうでもいいじゃないかと思うが、それを体験する俺がこの顔に違和感を覚えてしまった。
ほんのちょっとの違和感だが、それをずっと引きずりながらゲームをするってのもちょっと嫌だな。
「たしか、手動で作るってこともできるんじゃなかったか?」
『このキャラクターにしますか?』というウィンドウが表示されているが、そこには『はい』『いいえ』『手動で調整』という選択肢があった。
キャラクター作成時に手を加えたい人がいるだろうことを考慮してか、どうやらキャラクター作成を手動でできる機能もあるようだ。
キャラクター作成エリアであったが、どうやら外部の機能を活用することができるらしく、多重起動で公式サイトのキャラクター作成の項目を立ち上げてみると、どうやら手動で作成する機能では、細部にこだわって作ることができるようで、結構作り込んだという報告がちらほらある。
「すぐにゲームをやってみたいけど、ここで妥協するのもなぁ」
自動でサクッとゲームをプレイするか、それとも手動でちょいといじってみるか。
少し悩んでみたが、
「…よし、手動で作ってみよう」
これからたっぷりゲームの中に浸るのだ、ちょっと手を加えれば違和感はなくなるだろう。
ということで、早速『手動で調整』をタッチして、キャラクターに手を加えていくことに。
※※※※※※※※※※
今日も公式サイトを見てみる。最近あったアップデートの情報、特に実施されているイベントの事がそこかしこに表示されていた。ゲームは次々アップデートが入り、どんどんプレイヤーが行ける地域が増え、そこでいろんなモンスターやら町やらが見つかり、プレイヤーを歓喜させているらしい。
プレイヤーもプレイヤーのほうで、どうやら職業の進化やスキルの追加なんかで沸き立っているようだ。最前線のプレイヤーなんかは職業レベルがカンストするのではないかという話題も目に入る。
と、随分客観的にゲームの情報を見ている俺はと言えば
「よし、じゃあ今日もキャラクターいじっていくか」
まだゲームの世界に飛び込む前、スタートラインにすら立っていない段階であった。
ゲームを起動し、キャラクター作成を自動で行ってから早4か月。
当初、手動でちょちょいとやったら違和感なんてすぐになくなるだろうと思ったが、どうもこの造形は一筋縄ではいかないようで、一部をいじるとそれにひっぱられて別の部分まで影響がでているようだ。
最初はこれでいいと思って、満足したものを上下左右から見てみたのだが、前からみたら出来が良かったが、横や下から見ると変に見えたりすることが多々あった。
そこからは顔の造形ってどうなってるんだと思ってネットで画像検索したり、美術系のサイトで昔の石膏像やらを参考にして、いろいろといじっていた。
そうしたらなんというか、キャラクター作成にドはまりしてしまったのだ。
少しずつ少しずつ、口を変えつつ鼻を微修正し、それに併せて目元をいじったり。
かと思いきや、頬骨を削って輪郭を整えて、そうなると頬に連動して目元が下がりと、手を出したらきりがなかったのだ。
このゲーム、どうやらキャラクター作成はゲームを中断しても続行できるということなので、満足するまでやれる環境であったのもある。
そのことが、変な所で凝り性になる俺にハマって、なかなか面白いと思ってしまった。
自分で1つの作品を作っているという感覚が近いのだろう。
4か月もかけて携わった作品に、いろんなことを試しては失敗し、新しいことに挑戦して満足してと、失敗と成功を繰り返して一喜一憂していた。
が、それも今日までだろう。
「…できた。できてしまった」
作成期間約4か月。仕事もあったしいろいろな付き合いで手を入れれない日もあったが、それらと並行して作っていたキャラクターがいよいよ完成した。
約4か月かけた集大成、さぞかし美形になるのだろうと当初思った。
よくある、造形の黄金比なんかも参考にしたし、嫌になるほどいろいろな芸能人なんかの顔写真も見たりした。
だから、この傑作はいい顔になるはず。
と、思った時期があったんだが…
「…すっごい、なんというかすっごい地味」
見た目、地味。
地味オブ地味。
パッと見ても、モブキャラじゃないかと思えるくらい地味。
『あれ、NPCじゃね?』って思われてもおかしくない、黒髪黒目の日本人。
それが、俺の4か月の集大成だった。
現実の一般市民が紛れ込みましたっていうくらいの造形であり、現実世界にいてもおかしくない見た目になるほどの違和感のない見た目。
だが、あまりにも地味すぎた。
鼻はそれほど高くなく、目も最初の大きく見開かれたものではない。顔も瘦せすぎず太すぎず。口も大きくもなく小さくもなく。
たぶん、一度目にしただけでは地味すぎて印象が薄くて覚えてもらえないんじゃなかろうかというキャラクター。
それが、俺の4か月かけて作った力作だった。
4か月間キャラクター作成の空間に籠り、ここまで丹精込めて作ったのだ。
なんというか、地味で印象の薄いモブキャラっぽい見た目のキャラクターではあるが、愛着が湧いてしまった。
「これこそが満足いく出来ってことだな。でも、これで完成ってなると、ちょっと寂しいな…」
完成した、ということは、このキャラクター作成の世界から抜け出すということだ。
長い時間、実に4か月近く過ごした空間ではあったが、こことも今日でお別れとなるとちょっと寂しさがある。
が、本来の目的を忘れてはいけない。
あくまで、現実でできない体験をするためにゲームを買ったのだ。
ここにいつまでも籠って、顔をいじっているだけってのもおかしな話だろう。
「さて、それじゃあいよいよ次の設定にいってみますか」
ついぞ押すことがなかった『キャラクター作成完了』ボタンを押下し、俺はキャラクターの設定を終わらせることとなった。
お読みいただきありがとうございました。
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