うちのおねぇが言うことは
「もう、アタシ死んでやるー!」
「はいはい。もう、それ何回目?」
「だって、一生の恋だと思ったんだもん! 彼だけは、絶対アタシのこと捨てないって信じてたのにィ」
うちのおねぇちゃんは、すぐに男を好きになる。そして、毎回秒殺。そりゃそうだよね。こんなすね毛ぼうぼうが突進してくるんだもん。家族の私だって怖い。
「おねぇちゃんに足りないのは、我慢する心。そして身だしなみ」
「ええ! こんなにお化粧して、きちんと流行りを抑えて、美容院だって行って、何が気に入らないのよう? マコちゃんたら」
「……すね毛、じゃない?」
おねぇちゃんがその言葉に固まってから、くすんくすんと今どきない擬音で泣き出した。毎日剃ってるのに……って後ろでぽつんと呟いている。
まったく。
「私は今、本を読んでるの。うるさくするなら自分の部屋に行ってよ! もう」
そう言って怒ると、おねぇは渋々と部屋ですね毛剃ってくるわ、と言って部屋に戻っていった。
それからしばらくのことだった。私の彼氏が家に来たいというので親のいない日に招待した。彼氏はこれがマコちゃんの部屋かあなんて嬉しそうにしている。
「マコちゃんて、兄妹いるの?」
「うん。おねぇが一人」
「へえ、お姉さんいるんだ」
「……ん、まあ」
「じゃあ、姉妹なんだー! 美人姉妹かあ、いいなあ!」
美、美人姉妹――その言葉にくらっとした。
「うん、誤解されたくないから言っておくよ。姉妹じゃないんだ。きょうだいなんだよ、うち」
「ただいまー!」
玄関から声がする。
「ヤバい! おねぇ、帰ってきた!」
「え? おねぇさん? お兄さん?」
「見ればわかるよ」
ベッドに座っていた私は、彼にゆっくりとそう言った。
「ただいまー! 疲れちゃったあ」
ガチャっとドアを開けたのは、すね毛ぼうぼうのおねぇだった。
彼の顔色がさあっと変わる。
「お、俺、帰るね……」
「え? マコちゃんのお友達? もう帰っちゃうの?」
おねぇの言葉を無視して、彼は帰っていった。
「今回もおねぇのせいで、上手くいかなかった」
「ええ!? 私のせいなの?」
「おねぇが男だからいけないんでしょ?」
「そんなあ……ひどいわあ、マコちゃんったら!」
おねぇが科を作る。
「あーあ、何で私たちきょうだいなんだろうね。おねぇ」
「しょうがないわよ。生まれたときの性別は選べないもの」
おねぇが屈託なく笑う。
「私も、誠ちゃんくらい可愛かったら、もうちょっとモテたかしら?」
「無理じゃない?」
私たちは、兄弟だ。
ごめんなさい。男の人のすね毛事情を知りません。そんなに生えてこねえよ!って思われた方、本当にすみません。