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サプライズはコインロッカーに

作者: 黒宮杳騏

眠る彼女の頬へ羽のように軽いキスをすると、静かにリビングへ戻り身支度を整える。

そして、時計の針が午前零時五十五分を指した瞬間、

そっと音を立てずに玄関を出た。

夜風が少し冷たい。

そろそろ厚手のコートを引っ張り出してきた方が良さそうだ。

宵闇の中、ぽつりと寂しげに光る自動販売機の灯りに自然と目が引き寄せられる。

何か温かい飲み物でも買おうかと思ったが、それよりも先に用事を済ませてしまうべきだとポケットに入れかけた手を戻して歩調を早めた。


駅に着くと、タクシー乗り場に二台、タクシープールに三台タクシーが停まっていて、タクシー乗り場に並んでいるのは見るからに疲れ切った中年のサラリーマンと、飲み会帰りらしい若い男性三人組だった。

それぞれが流れるようにタクシーに乗り込んでいき、自分もタクシープールから回ってきたタクシーに乗車し行き先を告げる。


ここから少し離れた駅に設置されているコインロッカー。

そこに大切な物を保管しているので、それを取りに行くのだ。


目的地に着くと、料金を言われる前に「すみません、すぐ戻って来るので待ってて貰えますか?あそこのロッカーの荷物取って来るだけなんで」とロッカーを指差してタクシーの運転手に告げる。

すると、いかにも温厚そうな白髪混じりのタクシー運転手は「いいですよ、ここで待ってますから」と微笑んで送り出してくれた。


ロッカーまで走り、財布に入れていた鍵を取り出すと鍵穴に突っ込んでぐるりと回した。

がちゃ、という古く安っぽい解錠音を立てて鍵が開くと、扉の中の物を確認し、急いでタクシーへ戻る。

小さな水色の紙袋を見てタクシーの運転手はこれが「サプライズ」の品である事を悟ったのか、「喜んで貰えるといいですねぇ」とだけ優しく笑った。


家に着くと、彼女はまだ夢の中だった。

起こさないようにそっとベッドに潜り込むと、少し甘い、けれど嗅ぎ慣れた彼女の匂いがする。

そっと掬うように彼女の左手を持ち上げても、身じろぎひとつしない。

水色の小さな紙袋から指輪を取り出すと、途中で彼女が目覚めない事を祈りながら、慎重にゆっくりと、華奢な左手の薬指にはめていく。

無事、彼女を起こす事なく指輪をはめる事ができて、思わず細い溜息がこぼれた。


改めて彼女の額にそっと口付けながら、このサプライズが成功する事を確信し、昨日とは違う朝が来るまで眠ろうとしたものの、緊張して目が冴えてしまい、結局明け方近くまで眠れなかった。

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