09 「キツネ、名推理する」
僕は犯行現場たる僕たちのベッドに家族全員を集合させる。お母さんに妹にサリー、そして最近我が家のペットとなったヒヨコ。
皆の前で僕はシャーロックハットを被り、隣に座る妹へと問いかける。あ、もちろん、テレパシーでね。
「さて、犯人は重大なミスを犯しています。それが何かわかるかな、ワトソン君?」
お母さん作のお揃いの帽子を被った妹がキョトンとした顔で僕のことを見てくる。うん、まぁ、君、ワトソン君じゃないもんね。
何言ってんだコイツって顔も相変わらずキャワワですな。帽子から飛び出した耳がグッドだね。
よし、とりあえず話を進めよう。
「そう、この陰惨極まる殺人現場に犯人は慌てたのでしょう。見てください。この黄色い羽を」
僕ははげちらかした尻尾でベッドの一点を静かに指す。
そこには僕の金毛に交じって、確かに黄色い羽が。
「これこそ犯人を示す証拠。そうだね、ヒヨコ!」
僕はヒヨコを尻尾で指し示す。全員の視線がヒヨコに注がれる。
慌てたようにヒヨコが弁明の言葉を紡ぐ。
「待って! アタシじゃないよ! こ、これは誰かの陰謀だ!」
あ、ちなみにヒヨコは普通に喋ってるよ。テレパシーじゃなく。声帯どうなっとんねん、という僕の疑問に答えてくれる人は誰もいない。
妹がヒヨコを飼おうと言い出し、お母さんが許可し、サリーは大きくなったら食べると言ってる。
僕も今はサリーの案に同意だ。
いやまぁ、流石にそれは冗談だけどね。
それにしてもさすが僕。なんたる観察眼、そして名推理。
真実はいつも一つ!
はっ!?
どうやら僕は前世のことを思い出したようだ。ふっ、食レポアナウンサーはとんだ誤り。
前世の僕は名探偵だったんだ。ふととあるフレーズとともに名前も思い出す。
見た目は子供、頭脳は大人、その名も!
でででででででん!
金田一二三!
そうだったそうだった。前世で僕は天才高校生探偵としてブイブイ言わせていたのだ。さすが僕。また何かしちゃいましたか?
ん、将棋だったかな?
「まぁ、ヒヨコも反省しているみたいですし、尻尾の毛もすぐに生えてきますから、今回は許してあげてはどうかしら?」
サリーが僕の頭を撫でながら仲裁してくる。サリーに撫でられるの気持ちよす。
うむ、そうだね。どうせ毛なんてすぐ生えてくるしね。僕は寛大な心でヒヨコを許す。
「今回は特別に許してあげる」
「だからぁ! アタシはやってないって!」
「はい、それじゃあ、朝食にしましょう」
「やったぁ!」
「今日はなぁに?」
今日も楽しい一日の始まりだ。
僕は喜び、自然と尻尾がブンブン左右に揺れる。当然とばかりに、その尻尾にパクっと食いつく我が妹さん。
いつもの条件反射である。が、今の僕の尻尾には毛がない。もろに皮膚に歯が突き立つ。
「いっ~~!!」
僕は飛び上がって悲鳴を上げる。
マジ痛い。てか、ハムハム止めてー。
僕は涙目で決意する。
毛が生え揃うまで、妹から逃げねば、と。
※※※※
二匹と一羽が仲良く食事を食べている。
私はアレンの尻尾を見てから、隣にいるエリスへ問う。
「アレンの毛をなぜ切ったんですか?」
私の問いにエリスは笑いながら聞いてくる。
「あら、なぜ私が犯人だってわかったのかしら?」
「あんなに綺麗に刈り取るにはハサミを使うしかありません。そしてハサミを使えるのは私とあなたしかいないんですから、当然わかります」
私の呆れ顔に、エリスはなるほど名推理ね、と一つ頷き、微笑みながら言う。
「私たち一族に昔から伝わる教え、というか、おまじないかしら? まぁ、そういうのがあるのだけれど。その中の一つに、話が出来ぬ子の毛を切れ、特に尻尾、っていうのがあるの。アレンがテレパシーを上手くできなくて困ってたみたいだから、じゃあ物は試しってことでやってみたの」
「はぁ、本当ですか、それ」
「ふふ、さぁ、どうかしら。でも喋れるようになったんだから、結果的に大成功ね」
楽しそうに笑う真犯人に私は苦笑する。まぁ、ヒヨコには気の毒だが、結果オーライか、と私も納得する。
それにしても、あのヒヨコは何者なのか、注意せねばと私は気を引き締める。