07 「キツネ、寝ぼける」
今日も1日よく遊んだ。ふわぁ、とあくびを一つ。その1秒後には夢の世界へ。
おやすみなさい。
僕は夢を見る。それは前世の記憶。
夢の中でしか思い出せない僕の名前は楠木葉。
そしてここは病院の一室。
僕の目の前には幼馴染の少女、坂本柚葉がベッドに眠っている。
柚葉はもうすぐ死ぬ。それを僕は受け入れられずにいた。
赤ちゃんの頃から、ずっと一緒だった。お互いまだ17年しか生きていない。
これからもずっと一緒だと思っていたのに。
柚葉の手にそっと己の手を添える。手の温もりを確認し安堵する。
あまりに細い指、その小指に己の小指を絡め、僕は誓う。
柚葉の病は僕が治す。
医者になる。何もかも捨てる。己のすべてを賭けて柚葉を助ける。
だからお願いだ。死なないで柚葉。
ミラステック社製のスマートグラスが着信を告げる。僕は柚葉の手の甲にキスをし、病室を後にする。
休憩スペースまで向かい、未だ明滅を繰り返す着信マークに触れる。若い女性の興奮した声が耳を打つ。
「ついにやったぞ! グレートマザーズ計画が承認されたんだ! これから忙しくなるぞ! スカイフォックス! 君の頭脳に期待しているぞ!」
ああ、なぜ今なのか。捨てると覚悟したばかりなのに。
世界はあまりに残酷だ。
※※※
僕は眩しさに目を瞬かせる。ふわぁっ! とあくびを一つ。
ここどこだっけ? と、一瞬自分が誰でどこにいるのかわからなくなる。
ベッドの上だ。隣で気持ち良さそうに眠る金色のフワフワした物体は妹のミラン。
それから己の金毛を確認し、思い出す。
そうだ、僕はアレン。キツネに生まれ変わった元食レポアナウンサー(推定)だ。
あれ、なんで、僕泣いてるんだろう。
前足で涙を拭い、僕は笑う。
怖い夢でも見たのかな?
そこで、ふと己の尻尾に目がいく。
尻尾の先っちょが禿げていた。
なんじゃこりゃぁ!!
僕は絶叫する。あっ、今、上手くテレパシーできた。そうか、テレパシーの基本は強い感情なんだな。って違うから!
そんなことよりどういうことだ!
自慢のふっさふさ金毛が無残にも抜け落ち、ベッドに散らばっている。
え? まさか、若ハゲ? え? まじ?
確かに、妹に毎日ガブガブされてめっちゃ劣悪な環境だったけれども。だからって、まだ0歳だよ! この年でハゲ散らかしてしまうなんて!
嘘だと言ってくれぇ!
僕の悲痛な叫びが全世界に響き渡った。
隣でスヤスヤ気持ちよさそうに寝ている妹の尻尾が僕の頭を叩く。
あ、うるさかったですね、すみません。
僕はとりあえず、現実逃避して、もう一度眠ることにした。おやすみなさい。