05 「キツネ、テレパシれない」
僕の一日。基本寝る。起きたら妹と追いかけっこをして、お腹が減ったらご飯を食べ、疲れたら眠る。
うん、充実した毎日だ。とはいえ、僕はそこらのキツネとは違う化け狐だ。それ以外のことだってするんだよ。
今はお勉強タイム。
「これはー?」
「これはリンゴよ」
「りんごー、あかいのー、みどりはー?」
「ふふ、こっちもりんごよ」
「りんごー?」
色違いのリンゴに首をかしげる妹。
うむ、めがっさカワイイ!
お母さんが妹と僕に言葉を優しく教えてくれる。その教え方がいいのもあるのだろうけど、うちの妹、あっという間に言葉をマスターしていくんだ。
まじ妹天才!
僕も言葉をほぼマスターしたよ。何たって転生者だからね。もともと言葉を知っているから、後はそれが何と対比するか覚えるだけだしね。
簡単なんだけど、それにしても簡単過ぎてちょっと違和感が。何て言ったらいいのだろうか、お母さんの知識が勝手に流れ込んでくる感じ?
いや、気のせいか。
というわけで、僕たちはあっという間に言葉に不自由しなくなった。
うむ、僕も妹も天才だね!
緑のりんごにがぶりと噛みつく妹にお母さんは微笑みながら、美味しいかしら? と、聞く。おいしー、と妹がりんごをモグモグしながら答える。
ちなみに、この間、誰もしゃべっていない。なんと会話はすべてテレパシーなのである。
頭の中に直接言葉が響いてくる不思議感覚。動物はテレパシーで会話してたんだね。
うん、知らなかった。
……なん……だと。
ゴクリ。
ま、まぁ、いい、これで僕も妹とキャッキャウフフできるのだ。万々歳だね。
妹とお母さんが楽しそうにテレパシってる。僕はそれを静かに聞く。
僕も必死にテレパシってるんだけどさ。なぜかまったく通じないんだよ。
「…………! …っ! …………!!! ……!!!!」
うぅぅ、まったくテレパシれないぞぉ!
「アレンは無口なのね」
「むくちー? って、なぁに?」
「おしゃべりがあんまり好きじゃない子ってことよ」
「そうなんだぁ」
無邪気に頷く妹。絶対に何も分かっていないアホ顔、うむ、かわゆす。
いやいやいや、ちょっと待って。
僕は慌てて違うよ、と何度もテレパシる。けどやっぱりまったく通じない。
このままでは無口キャラになってしまう。
うぉおおおおおおお、そんなのイヤだぁ!!
「ご飯できましたよ」
サリーの言葉に妹がテレパシーで答える。
「……お腹いっぱい」
うん、リンゴ食べてたもんね。仕方ないね。
サリーの緑色の目が、妹を優しく見つめた後、それから、お母さんに向けられる。
じぃーと無言でお母さんを見つめるサリー。
その視線を受け止めるお母さん。そして、数十秒のち、お母さんがギブアップし、ごめんなさいと、サリーに謝る。
今後は食事前に間食させないよう気を付けると約束して一件落着。
お母さんとサリーがおかしそうに笑い合う。それにつられたのか妹も楽しそうに笑う。
それを無言で見つめる僕。
そ、疎外感半端ないっすよぉ!
うぅぅ……テレパシーの練習だ!!
「くぉおおお~ん!」
僕の魂の叫びが辺り一面に響いた。