02 「キツネ、漏らす」
目が見えるようになった僕は恐るべき事実を知ることになった。
なんと、僕は犬ではなく狐だったのだ。お母さん狐と妹狐の顔を交互に見つめる。
……なん、だと!?
バカな! と、クワッと大口を開けて驚く僕をお母さんが心配そうに、妹は楽し気に見つめてくる。
「くぅ~ん」
「くぅぅ」
妹と黒い鼻をこすり合わせて言葉を交わす。
うむ、何言ってるかわかんないけど、とりあえず。
きゃわわ!
何ですかこの可愛い生物は。ちょー可愛いぞ。
金色のフワフワな毛に丸っこいフォルム。綺麗なブルーの瞳が僕を見つめてくる。
まさに天使!
チンコついてないのはさっき確認した。どっちが先に産まれたか知らないけど、僕がお兄ちゃんだと決める。
兄としてしっかり妹の面倒を見よう。そう固く誓い、僕は妹と一緒に眠りにつく。
お母さんのモフモフの毛に包まれ、妹とくっついて一緒に丸くなる。
「くぅん」
「くぅ」
幸せである。
※※※※
あ、あり得ない事態が発生した。なんとお母さんが人間に変身したのだ。
お母さんがポンっという音と煙に包まれたと思ったら、いきなり人間の美女が現れたんだ。
ゴージャスな赤い服を着た、どこからどう見ても人間さん。
金髪の西洋人で、もうとにかく綺麗で、ちょっと声が掛けづらいきつめな感じ。なんだけど、狐耳とモフモフしっぽがアクセントになって、その怖さが中和されて、逆にめっちゃ可愛く見える狐っ子美女。
ギャップ萌えですね、わかります。
だけどさ、ツン清楚系キツネコス金髪美女(子持ち)とか属性盛り過ぎ案件では。
……あざとすぎやろ!
「くぅぅんっん!」
僕は義務として突っ込みを入れ、ちょっと満足する。
で、なんだけど、僕はその美女をよく知ってたんだ。だって、いつも僕たちのお世話をしてくれる飼い主さんのうちの一人だったんだから。
とにかく、めちゃくちゃ驚いた。目が飛び出てそのまま転がってったもん。
まぁ、それは嘘だけど。びっくりしすぎておしっこ漏らしてしまった。
ちょうど、おしっこタイムを終えた直後だったから、トイレマットが敷いてないベッドにやっちまったよ。最悪だ。
隣の妹に、鼻を擦り合わせながら、ふ、不可効力だから。こんなんノーカウントだし、と必死の弁明。
「きゅぅ、きゅぅぅ、きゅっ、くぅぅん」
「くぅん?」
うん、全然通じないね。てか、近づくな、このお漏らし野郎って具合に距離を取られたよ……お兄ちゃん泣いていいですか?
男の子なのでグッと涙を我慢する。
僕たちは普通の部屋のベッドで寝起きしている。それで、毎日人間に抱っこされたり身体を洗われたりとお世話されているんだ。何不自由ない快適生活。
いい飼い主さんだなぁと思っていたんだけど、それがお母さんであったとは!
いつもケモ耳に、モフモフのしっぽをプラプラさせて、かいがいしくお世話してくれるので、よっぽど狐好きの飼い主さんなんだなと思っていたんだ。
そう言えば確かに、お母さん(狐)がいる時は飼い主Aさん(人間)は現れてなかったな、と、今更ながら思い至る。
だからと言って、お母さん(狐)=飼い主Aさん(人間)とは気付けないよ。
お母さんは化け狐。うん、びっくりだ。
僕と妹は人間形態のお母さんに抱っこされ、お風呂場へ直行する。おしっこめっちゃちびったからね。
ぬるま湯の入った桶の中に妹と一緒に入る。
毛が水を吸ってペタッとなる。妹はそれを嫌がり、ぶるぶるぶるっと身体を振って水を飛ばす。その水滴が僕に全弾ヒットするが、僕は何も言えない。
お漏らししたの僕だからね。あぁ、お兄ちゃんの威厳がぁ~と絶賛落ち込み中の僕。
「きゅぅぅ」
妹が黒い鼻をくっつけて心配そうに見つめてくる。
うん、妹テラかわゆす。
お兄ちゃん、ちょっと元気出たよ。
お母さんがバスタオルで優しく身体を拭いてくれる。
あ、お母さん、いつもご迷惑をおかけしてます。
僕は妹と同じバスタオルに包まりながら、お母さんに向かってペコリと頭を下げる。