19 「キツネ、TOTO」
最近、妹の視線が冷たい。
こいつもしかして、まだ自力で変身できないんじゃね。うっそー、まじー、ありえないんですけどー。
って、思われている気がする。
いや、実際に上手く変身できないんだけどさ。
妹にさげすまれるとか……ご褒美です。
なんて思えるか! ダメだ、死のう。
うう、お兄ちゃんの威厳を回復せねば。
そ、そうだ!
勉強系だ! 僕は転生者なのだ。あんまりというか、まったく過去のことは思い出せないけれど、僕には義務教育程度の知識が備わっているのだ……備わってるよね?
身体はコギツネ、頭脳は大人。その名も!(以下自粛)
すっごぉ~い! お兄ちゃんって何でも知ってるんだね!
題して、転生お兄ちゃんチートでおおすごい作戦だ!
ふはははは、完璧すぎる!
TOTO作戦の完璧さに我ながら身震いするぜ!
よし、作戦を実行すべく僕はお母さんへ意気揚々とテレパシる。
「お母さん、文字を教えてくれる?」
まずは文字をあっさりと覚えてやるぜ!
僕は前世で日本語と英語とドイツ語はすでに覚えているのだ。ここがどこかは知らないが、英語圏のどこかであれば、勉強の必要すらない。ドヤリまくりだ!
例え中東やアフリカあたりの知らない文字であっても、文字を覚えるのは僕の方に大きなアドヴァンテージがある。
文字の規則性を理解しうる知性。子供にはつまらないだろう、反復練習も僕には無問題。
そしてお母さんの共鳴という補助ブーストさえある。
勝ったな。
TOTO作戦が失敗する可能性はゼロだ。
ってあれ、お母さん。どうしたの?
なんで、そんな全力で顔を逸らすの?
ん、お母さんの独り言が聞こえてくる。
「なぜ、私はリロイから文字を習わなかったんだ。散々ロザリアに脳筋呼ばわりされていたのに。ふっ、子供に文字も教えられない母親など、母親失格ではないか。ああ、神獣と称えられる天弧族でありながら私は……もはや死ぬしか道は……」
……おい、やべーよ! お母さんにクリティカルヒットしてるよ!
うちのお母さん、文字の読み書きできなかったのか。それは想定外だ。
いや、そういえば、僕たち狐だったね。狐の識字率って普通に考えるとゼロだもんね。
だから、お母さん。その刀仕舞おうね。
ほんと、大丈夫だから。
文字なんて知らなくても生きていけるからね。
僕は一生懸命お母さんを慰める。そんな僕に、
「お兄ちゃんがお母さんを泣かせたぁ。お兄ちゃん最低だよぉ」
妹のクリティカルヒットが僕に直撃した。
お母さんの隣で僕も刀を抜いた。