18 「キツネ、錬金術」
最近のマイブームは素振りである。人間形態になって木の棒をブンブン振り回すのだ。
自慢じゃないが、僕の剣の腕前は相当だよ。
何せ、お母さんの技術丸パクリしたからね。といっても実は上段からの打ち下ろししかパクれなかったんだけどね。
というのも、僕はお母さんの経験を丸っとパクったんだけど、その情報量を制御できなくて、死にかけたんだ。
本当にヤバいってところまで追い詰められて、仕方なく奥の手を使ったんだ。
人間の脳って使ってない部分がいっぱいあるんだ。というか、使いこなせない部分と言った方が正確だね。
僕はその使ってない部分にお母さんの情報をすべて移し替え、封鎖したんだ。
さすがに、他人の死亡フラグで自分が死ぬなんてヤダからね。危なかったよ。
でもね、本当にあとちょっとで、強いよね。上段、中段、下段、すべて隙がない。でも負けないよってなれたんだよ!
惜しいぃ!
まぁ、いいか。共鳴はお母さんから固く使用を禁じられてしまったけど、解除されて上手く使えるようになったら、封鎖してある領域から情報を取得すればいいんだ。
焦ることはない。
そんなこんなで僕はブンブン剣を振って練習を頑張っているんだ。
そうしたら、この剣をアレンに上げるわ、とお母さんから超カッコいい西洋剣をもらったんだ。
超カッコいい!
けど、くっそ重い。手渡された瞬間、剣に押しつぶされて死にかけたよ。
直刀というんだっけ、真っすぐで片側だけが切れるようになっている奴。鞘は武骨な鋼色。ズリズリ、床を擦りながら引き抜いた刀身は鏡かってくらいピカピカの銀色。柄のところに金色の薔薇の刺繍があって厨二感が実によく出ていてグッドだね。長さは140センチくらいかな。
うん、鑑賞用として大事にしよう。
「ありがとう、お母さん!」
僕は剣を持つのを諦め、お母さんにお礼をする。お母さんが笑いながら、厨二解説をしてくれる。
「この剣は私たちの一族に代々伝わる聖剣なの。柄の部分を持って念じてごらんなさい。あなたにぴったりの長さと重さに剣が変わるから」
やべー! 厨二感満載設定の剣じゃないですか! うん、厨二剣と命名しよう!
僕は喜び勇んで柄の部分を持って念じる。そして何も起こらない沈黙時間。
…………。
ちくしょうめぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇええええ!! 騙しやがったなぁ!!!!!
と、あっさり騙された恥ずかしさに悶絶する。
「あら、変ね? ちゃんと念じた?」
くぅ、お母さんはどこまでもその設定で押し通すつもりか! お母さんは僕の念じ方が足りないという言い訳を武器にとことんまで押してくるはず。どうすれば!
そんな僕の危機を颯爽と救ってくれるのはやはり妹だ。無邪気に僕の手の横から剣を掴んでくれる。
一緒に念じて、念は足りてるアピールしてくれるのか! ありがとう妹よ!
お母さん、やっぱり剣は伸び縮みしないよ、とテレパシる寸前、あろうことか、剣が見る見る縮んでいくではあーりませんか。
ふぁぁ!?
まじで?
僕たち子供でも持てるくらい縮み、剣はさっきの三分の一くらいになった。
「うわぁ! お母さん、この剣わたしにちょうだい!」
さすがの厨二力0の妹といえど、この厨二剣には心惹かれるものがあったらしい。うんうん、その心を大事に育てよう。
「ミラン、この剣はアレンにあげましょう? ミランには他の剣を上げるからね」
「わたし、この剣がいい!」
「お願い、ね、他にもミランの欲しいものあげるから、この剣はアレンに譲ってあげて」
「いやぁぁ!!」
お母さん! 妹が泣いちゃったよ!
僕は慌てて仲裁に入る。
「この剣はミランに上げるから、ね、だから、泣かないで」
「うぅぅ、ほんと?」
「もちろん!」
「わぁ! ありがとう、お兄ちゃん!」
ふぅ、よかったよかった。まぁ、ちょっと残念だけど、お兄ちゃんだからね。我慢我慢。
「ミラン、あなたは剣の稽古をしてないでしょう? アレンは一生懸命剣の稽古してたのよ。ね、だからアレンにこの剣を譲ってあげなさい」
「うぅぅ、うぇぇっ、だってぇ……わたしらってぇ、おにぃちゃんとおんなじ剣がいぃのぉ」
おいぃ! せっかく泣き止んだのに何やってくれてるの、お母さん!?
お母さんはどうしても僕にこの厨二剣を渡したいらしく、妹もどうしてもこの剣が欲しいのだ。
お母さんの気持ちはよくわからんが、妹の気持ちはよくわかる。僕が嬉しそうにしてたら、そりゃあ、同じものが欲しくなるのは当然だ。
それにしてもお母さんって結構頑固なのかな? あれこれミランに提案し続けている。
さて、困った、と見せかけてすでに解決法を思いついてる僕まじ天才!
「二人とも、落ち着いて! 僕に言い案があるから!」
妹の涙を拭いてやりながら、妹に剣を最大サイズまで大きくするようにお願いする。
見る見る伸びてゆく剣。実に不思議だ。まぁいいかと、僕は金づちを取りに物置へ走る。
「それじゃあ、いくね」
僕は剣の根本からちょっと上らへんを思い切り金づちで叩く。キィィンと綺麗な音を立てながら真っ二つに折れる剣。
「また、剣よ伸びろって念じてごらん。そうしたら元通りになるでしょ。あ、僕はこっちの上の部分を使うね。お揃いの剣だよ」
我ながら完璧なアイデア。伸びる剣の特性を利用し、複製を作るなど思いつけば簡単だが、なかなか気づけることではないだろう。さす僕!
よっしゃ、この刀身にカッコいい鞘を付けて僕のオリジナル剣を作るぞぉ!
「お兄ちゃん、剣伸びないよ?」
「アレン、あなた、なんてことを……」
へ?
「剣、壊れちゃった、わたしこんなのいらない」
ポイっと投げ捨てられる厨二剣。お母さんは悲壮な顔で、我が一族の家宝が、と項垂れている。
……あ、あれ、また僕何かしちゃいました?
い、いや、ちょっと待って、ほら、ガムテープでくっつければ元通りだから! てか、おい、剣! いや剣さん、剣様! お願いだから返事をして!
ノオー!!!