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お狐様が異世界を征服するそうです@わひっ!?  作者: 大南
1章 「幼少期は幼馴染フラグを作る重要な時期」
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17 「オヤキツネ、後悔」



 アレンが本当に楽しそうに素振りを繰り返す。尻尾がずっと左右にブンブンと振れ、耳もピクピクしっぱなしだ。


 我が子ながら本当に可愛い。


 母の贔屓目を抜きにしてもアレンとミランは本当にいい子だ。二人とサリエリルとの生活は毎日が幸福に包まれている。


 私がこのような生活を手に入れられるとは思ってもいなかった。


 幸せ過ぎて怖くなる。


 まだ生まれて間もない子に剣術など早いと思う。だが、二人は強くならねばならないのだ。その宿命をはねのける為に。


 天狐族には神柱(ヘクサ)を守る使命がある。かつて100柱あった神柱もいまや9つまで減った。そして、天狐族の生き残りも9匹となった。


 やがて私が死に、10匹になるのだろうか。それともアレンとミランのうちどちらかは死んでしまうのか。


 神柱が壊れれば天狐族は死ぬ。では、天狐族が増えれば神柱も増えるや?


 そんな取るに足らぬ疑問とも言えぬ願望が、いつの間にか一族の悲願となり、生きる縁となっていた。そして、愚かにも神柱1つと天狐族1匹、そして多くの人魔を犠牲にして生まれた我が子たち。


 あまりに愚かな選択を繰り返し、その結果、愛する夫まで犠牲になった。


 しかし、賽は投げられたのだ。私は残された時間で愛する我が子たちを強く育てねばならない。



 ※※※

  


 それはあまりに一瞬であった。


 アレンが飽きることなく素振りをする。アレンはちょっと不器用なところもあるが、とても集中力がある。


 それに可愛い。アレンの前で共鳴を使いながら素振りをする私も笑顔になる。


 油断はあっただろうか。あったのだろう。


 アレンが共鳴を発動し、私との既に繋がっていたラインを辿ってくる。


 僅かに驚いたが、落ち着いて共鳴の送信を止め、共鳴を使ってアレンとの間に不可侵の膜を形成する。


 まだ上手く変身も出来ないのに共鳴の力を使えるようになっちゃうなんて、と苦笑する余裕がその時にはまだあった。


 だが、それはすぐ驚愕に塗りつぶされる。


 私の防御を突き破りアレンがラインを再び繋げてくる。あまりに太く頑強に形成されたラインに恐怖する時間は私に許されていなかった。


 私の記憶がラインを通って全てアレンの中へと流れ込んでゆく。


 膜の再形成、失敗。ラインの迂回路を形成。失敗。ラインの接続を切断。失敗。


 他に? 他に手立ては? 一瞬が永遠のように感じられる中、アレンの中へ私の記憶が流れ込み続ける。


 何か止める手立てはないのか? 


 何も思い浮かばなかった。最後の手段として、私はアレンの頭を剣の柄で殴る。


 吹き飛び、そのまま動かなくなるアレン。


 なんということだ。

 

「サリー! サリー! 早く来て!」


 狼狽し、泣き叫ぶようにサリエリルを呼ぶ。


 サリエリルの癒し(ヒール)でアレンの身体を治す。


 それでは治らないということは分かっている。だが、他に手立てはない。


 共鳴で相手の記憶を無分別に飲み込めばどうなるか。


 心が壊れ、生きる屍になってしまう。共鳴を使う最初の段階で何度も注意されることだ。


 共鳴して、アレンの心を再構築出来ないか。いや、そんなこと出来るわけがない。


 ああ、何かないか。何か。


「エリス様どうかしましたか? ……アレン!?」

「出来るだけ強く癒し(ヒール)を掛け続けて! お願い!」

「はい! 患部はどこですか? どんなことがあったんですか?」


 慌てながらも冷静にアレンの状態を把握しようとするサリエリルに、私は事態を伝える。


 サリエリルは分かりました、と告げ、癒し(ヒール)を発動する。


 何か、何か手立ては。幼い我が子の顔を見つめながら、懸命に考え続ける。


「ん? あれ、僕どうして寝てるんだっけ?」 

「アレン! よかった」


 私はサリエリルに抱き締めらるアレンを呆然と見つめる。なぜ無事なのか。それがわからない。私は恐怖しながら聞く。


「アレン、何かおかしなところはない?」

「えーとね、って頭にすっごいコブがあるよ! 痛い!」

「それは私が殴ったから! 他には?」

「へ? ひどくないそれ? って何でもありません、すみません。う~んとね、大丈夫……あっ、それよりお母さん!」


 アレンが嬉しそうに立ち上がり、木の棒を手に持つ。


「見ててね!」


 上段に構えた棒を無造作に振る。中空に舞っていた木葉が真っ二つに割れ、風に流されてゆく。


「えへへ、またつまらぬものを切ってしまった!」


 実に楽しそうにそれだけを言い、そして倒れ込むアレン。ポンっという音とともに狐形態へ。サリエリルが慌ててアレンを抱きあげる。


「気を失ったみたいですね。熱はありますが、ただ寝ているだけですよ」

「本当に?」

「はい」


 分からないことだらけだが、今はアレンが無事であることだけで十分だと己に言い聞かせる。


 それにしても、


「見事に私の技を盗んだみたいね」


 この子なら、なんやかんやで生き残りそうだと思い、不謹慎にもちょっとだけ笑みが浮かんでくる。

 

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