13 「キツネ、スパルタ」
僕たち天狐族は人と狐、どちらにも成れる種族である。
ただ狐から人へ、人から狐へ変身するにはコツがいるらしい。今、僕と妹はお母さんからそのコツを教えてもらっている。
「そう、リラックスしながら魔力を全身に行き渡らせる感じ。上手いわね、ミラン」
「うん! アハハ、お母さん、これ楽しいねぇ」
ポンポンポンポン煙を立てながらおおはしゃぎで変身しまくる妹。素っ裸になることに対する羞恥心はまったくないようだ。
まぁ、幼女だからね。
なるほどね、リラックスして魔力をね。仕組みさえわかりゃあこっちのもんですよ。
見てよ。妹なんて三秒でマスターしちゃったからね。簡単すぎワロタ。
よし。じゃあいっちょやりますかね。
……………………。
できないね。うん、知ってた。だってさ、魔力って何?
え? お兄ちゃんはやらないのかって?
違うよ。お兄ちゃんは人間形態が気に入ったから元に戻らないんだよ。ほ、ホントだよ。
ふぬぬ、と力んでみる。危なくおしっこが漏れるとこだった。
うん、リ~ム~!
変身しすぎて疲れたのか、狐形態でスヤスヤ眠る妹。呆然と立ち尽くす僕。
お母さんが苦笑しながら、一緒に練習しましょう、と言ってくれる。
ありがとう、お母さん! こんな、ダメ息子だけど、僕頑張るよ!
そう思った次の瞬間、お母さんに腹を思いっきりグーパンされた。
ごはぁっ!! と空気と胃液を吐き出しながら、僕はベッドに吹っ飛ぶ。
そしてベッドの上でバウンドしながら煙を立てて狐形態へ戻る。
「まずは、狐に戻る感覚を繰り返し身体に覚えこませましょうね」
薄れゆく意思の中、お母さんの平坦な声が頭に響く。
これが練習?
もしかして、何度も殴られる感じ?
え? まじ?
スパルタすぎじゃね? という僕の声が出ることはなかった。
僕はお母さんの一撃で気絶した。
「きゅうぅ」