11 「キツネ、厨二る」
「そして、魔王軍第三師団長へ私は否と答えたの」
僕と妹を寝かしつける為にお母さんがお話をしてくれる。
それがハッキリ言って……ちょーかっこいいんです!
今は人魔大戦で人間側についたお母さんが、幼馴染の狼人族、魔王軍二十魔将、切裂きダーニッツと激突するシーンだ。
「私は人間とともにあろう。たとえ、最後に裏切られ、たった一人になろうとも、この刃が折れるその時まで」
しばしの溜め。
そしてお母さんがクールに決め台詞を言う。
――さあ、かかってこい、下郎ども!
うおおぉおおおおおおおおっ!! かっけぇええぇええええーー!!
お母さんが淡々と紡ぐ物語はもうすべてが面白すぎる。
人間の勇者パーティーと一緒に龍の鱗を採取した話や、ローハン国の姫を悪のサガニア帝国から救出する話。
神柱を求め巨大ダンジョンに挑戦し迷子になる話。エルフの国で巨大な花を作る話。魔王軍一万の強兵に、三千の人間たちで時間稼ぎするお話。
毎夜、寝物語として語られるお母さんの創作話に僕は興奮しっぱなしで眠るどころではない。しっぽぶんぶん、耳ピクピクの大興奮だ。
お母さんが、見た目は大人びた物凄い美女だけど、中身は厨二病な残念さんであると知って、少し、ほんの少しだけお母さんを見る目は変わった。
それでも僕はお母さん、瞬斬のエリス(笑)のことが大好きだ。
認めねばなるまい。僕も厨二病であると。
妹のミランなどお母さんの話が始まった瞬間には寝てるからね。妹にはまだ厨二チックなお話は早いのだ。
正直僕も寝つきは超いいんで、子守歌的なものがなくても3秒で即落ちする自信があるんだけど、そんなの関係ねー!
妹がすやすや眠っている横で僕はテレパシーで続きを聞かせてとお母さんにお願いする。
お母さんは微笑み、続きはまた明日ね、と僕の頭を優しく撫でる。
続きがぁ~、と思うも瞼がゆっくりと閉じてくる。
ガキには眠い時間なのだ。
「アレンはお母さんみたいに強くなりたい?」
「うん、もちろん!」
最強になって大冒険、それから勇者ごっことか、もろ漢の憧れでしょう! 夢現に僕の脳内ではお姫様を救出し、キスされるシーンが再生される。あ、あと強くなれたら、
「……妹とお母さん、サリーは僕が守るんだ……」
本当の夢の中へ僕は落ちてゆく。
「――っ!? そう! わかったわ! お母さんがアレンを最強の剣士に育ててあげる。辛い修行になるでしょうけど、その強い気持ちで必死についてくるのよ!」
お母さんが普段と違って、すっごい興奮した様子で何か言ってる気がしたけど、僕は夢の中でサリーのご飯を食べるのに忙しんで、ちょっと無視する。
うまうま。
お母さんお休みなさい。明日も楽しみだ。