10 「キツネ、アンドロイド派」
我が家はちょっと辺鄙なとこにある。山の中腹って感じのとこに一軒だけポツンとあるんだ。
なので、ご近所さんとかいないんだ。
今日は雨。ちょっと肌寒い感じ。
妹は外に出れないので不満げにしている。
僕? 僕は外も好きだけど、基本的にインドア派だからね。
窓辺で丸くなって、雨音を聞きながらのんびりですよ。
ぴっちょんぴっちょんぴっちょん、ふわぁぁ、ねむねむ。
僕は大あくびをしながら、窓の外にある花壇を見る。
実は僕、農業始めたんだ。ほら、僕って前世の知識あるじゃん。
ここは一つ、前世の知識で農業チートするべ、ってね。
庭の隅っこに花壇を作って、ご飯の度に出てくる果物の種を集めてそれを花壇にポイポイっと投げ入れてるんだ。
そうしたら、何かはわからないけど、いっぱい芽が出てきて、それはもう順調に育ってるんだよ。
さすが僕。また何かしちゃいましたか?
妹はまだそれに興味なしだけど、花が咲いて実を付けたらどうなるか。
ふっふっふ、食いしん坊の妹が、お兄ちゃん凄いって言う様が目に浮かぶね。
いやぁ、楽しみだ。
前足の上に頭を乗っけて大あくび。後ろ足で耳のチョイ後ろを掻く。
まさに晴耕雨読の生活。悪くないね。
いやまぁ、我が家に本はないんだけどね。
というか、うちには本もなければテレビもラジオもない。
というか、電気もガスも水道も我が家にはない。
ビバ恐ろしすぎる田舎ケモノ原始人ライフ。
と思うでしょ?
でも、不便じゃないんだ。むしろめっちゃ快適なんですよ。
なぜかわかるかな? ふ、愚問だったね。
なにせ、それを使えば、水も火もパパっと生み出せちゃんだから。掃除だって、洗濯だって、発声するだけで即完了。
もう、この生活を体験したら、他の生活なんて絶対に無理だろうってくらい便利。
そう、iPhoneならね。
あ、間違えた。
iPhoneはさすがにないんだ。iPhoneには負けるけど、魔法っていう不可思議パワーをお母さんとサリーは持ってるんだ。
なので、我が家のトイレからはいつだってフローラルの香りが漂ってくるんだよ。
iPhoneには負けるけど超便利。
そんなわけで、僕んちはいつでも快適なんだ。
窓辺でウトウトしていると、いきなり目の前が真っ白になって、それから衝撃が来た。遅れてどががが~んっていう音。
「わひっ!?」
雷がちょー近くで落ちた。窓がまだ振動してるよ。びびったぁ。危なく漏らすとこだった。
まだ耳がじぃぃぃんって変な感じだ。そんな僕の耳に実に楽しそうな声が聞こえてくる。
「次はあっちに落とすよ!」
「早く! 早く!」
「待って待って、ほら行くよ!」
妹とヒヨコの会話を聞きながら、僕は二人が見つめる先を何気なく見る。
閃光が走り、それから、ずどどどーん! と、地面を抉るように雷が地上を這う。
目が、目がぁ~!
僕は前足で両目を押さえる。
うん、満足。
「よし、次来たよ」
「早く早く!」
「待って、待って、もうちょっと!」
再びのヒヨコと妹の会話。
え? 何? ヒヨコって雷操作出来るの? まじ? 超凄くね?
会話から推測するに、ヒヨコは雷の発生が分かり、それをある程度自由にずらせるのだろう。楽しそうにカウントダウンしている。
やべぇ、そんなの楽しすぎてテンションマックスやで。
「ねぇ、今度はここに落として!」
僕はうっきうきでテレパシり、目の前を指し示す。
「8、7……オッケー! 任せな!」
「早く!」
「うわぁ、楽しみ!」
妹とヒヨコが僕の隣に移動し、三人仲良く窓の外を覗く。そして、一緒にカウントダウン。
「3、2、1」
「どっかーん!」
「わぁああぁ!!」
「バルス!」
目の前が真っ白になり、それから轟音。
目も耳もバカになって、何もわからなくなる。でも、とにかくハイテンションで笑い合っているのだけは伝わる。
目が、目がぁ~!
いやぁ、楽しいなぁ。
妹のブンブン振られるしっぽがぺしぺし当たる。うんうん、こういう非日常感っていいよね。
しばらくして、復活した僕は窓の外を見る。そこには無残にも抉られ、大きな穴を開けた花壇の姿があった。
「あっ……」
「あっ……」
ヒヨコが気まずそうに僕を見てくる。僕は無言でヒヨコを見つめ返す。
「早く早く!」
妹の催促を聞きながら、僕は滅びの言葉の恐ろしさを知った。