お前の胸はおっぱいではない。胸筋だ
「あー、えっとミーシャ、ウィンさんは森を抜けてきた人族の男性の方ですよ。
魔物に追われて遭難してしまったとのことなので、家に誘ったんですよ。」
「男?人族?ウィン?ふーん・・・男なのね。まぁ、それならいいわ。じゃ、はい薬」
ミーシャと呼ばれた女は納得したというか、俺が男であることで何故かどうでもよくなったようだ。
そして薬と言いつつ何も持っていない右の手のひらをアインに突き出す。
「ウィンさん、この人はミーシャで、僕の幼馴染なんですよ。ミーシャちょっと待ってね」
「へぇ、幼馴染ねぇ」
このミーシャとのやり取りも含め、俺はどうでもいいような感じで返事をした。が、内心非常に焦っていた
何故ならこのミーシャとやらは名前的にも性別上女だと思われるが、体格が全く獣人女性のそれではない
今日見てきた獣人の男よりガタイがいいのだ。胸はおっぱいではなく、筋肉で盛り上がっていた
きっと軽く殴られただけでも俺は死ぬ
・・・あ、腕輪があるから大丈夫か。まぁ、それでも怖いものは怖い
「はい、これ。ミーシャはもう族長になるんだから気を付けてよね」
と言いつつ塗り薬っぽいなにかを渡すアイン。多分傷薬なんだろう。
「分かってるわよ。そ、それとさっきゴミみたいなの捕っちゃったから捨てといて」
「ミーシャ、いつも言ってるけど僕にそんな気を使ってもらわなくても・・・」
「ご、ゴミだって言ってるでしょ!アインが捨てておいて!!」
とかなんとかガチムチ女が口答えをしたアインにブチ切れて、ゴミと言って何か押し付けていた。
見た感じニワトリっぽいやつの死体のようだ。
ミーシャはゴミとやらを無理やり押し付けるようにして早々と家から出て行った。
少ししてから外を見ると、居住エリアに超スピードで走り去るミーシャが見えた。っていうかあいつ本当に怪我人か?
めちゃくちゃ元気に走ってるじゃねーか。・・・ふっ、逃げ足だけは早いようだな。ビビってないよ?ほんとだよ?
「で、アイン。さっき渡されたそいつだが」
「うん、ミーシャはああやって僕に定期的に渡してくれるんです。そんなに余裕がないはずなのに・・・」
「お前はいいのか?それでいいと思っているのか?」
「勿論僕もいいとは思っていません、何か返せたらと思っているんですが」
だよな、男たるものそこは返してやりたいところだよな。
「アイン、よく言った。家まで来てゴミを押し付けに来るような陰険なデカ女見返してやろうぜ!」
「え?いや、これはゴミではなくて・・・」
「アイン、俺にいい考えがある!お前にとっても」
頭のいい俺はアインのためにもなる良い方法がもうすでに頭の中に浮かんでいた。
「そんな、ウィンさんに迷惑をかけてしまうわけには。それにミーシャはこの鳥は食べものとして・・・」
「アインは一人で彷徨い心細かったところを助けてくれただろ?頼む、俺に恩を返させてくれ」
頭を下げる。疑う余地もなく、アインはいい奴だ。こうして頭を下げれば
「あの、その、ですから・・・わ、分かりましたから。だから、頭を上げてください」
こうやってアインは断れない。悪いな、優しさにつけこんで。だが、悪いようにはしないから許してくれ
「ありがとう。とりあえず飯を食おう、今日は俺がお礼に食えるもの出すよ」
ミーシャを見返すための準備として食べれるのか確認したいものがあるのだ。それを食べてもらおう。
腕輪を魔道具に見立てて腕輪から出すふりをしながら干し芋を二つ創造して、一つを渡した。
犬は玉ねぎがダメだと聞いたことがある。他にも食べてはいけない植物はあると思うがよく知らない。
しかしペットショップに犬のおやつに芋があったはずだ。だから芋なら大丈夫だと思ったためだ
「これを食ってみてくれ。アインでも食べれるようであればいいんだが」
「これはなんですか?甘い香りがします。いただきます・・・あ、甘くて美味しいです!」
「だろぉ。干し芋って言って芋って植物を蒸かして干した食べ物だ。たくさんあるからたくさん食ってくれ!」
そう言って俺は大皿を創造し、そこに二人では食べきれないほどの干し芋を出す。
気に入ってくれたようだ。芋が食べれると分かったので、ミーシャ見返し作戦は固まった。
最初は少し遠慮がちだったが、大量にあることとお腹が空いていたことで途中からすごい勢いで食べてくれた。
後から聞いたら5日くらいまともに食事をしてなかったらしい
食後に確認をしたが風呂もなければシャワーもないと言っていたので、
ボタン一つでお湯の噴出をオンオフできるシャワーノズルを創造した。
家の中では流石に浴びれないので、夜の荒野でシャワーを浴びた。
石鹸とかシャンプーは環境にいいのかよく分からないので無しだ。
露出狂癖は無いはずだが、満点の星の下で浴びるシャワーはちょっと興奮した。
タオルとシャワーノズルをやると言ったが、アインは獣人にシャワーを浴びる習慣は無いようで遠慮された。
だが水は飲むこともできると言ったら飲料用には使いたいとのことで申し訳なさそうに受け取ってくれた。
近くの泉は魔物がいることもあり、水汲みも結構危険らしいのでとても助かるらしい。
寝袋を二つ創造して、それぞれ寝ることにした。
自分のためだけにチートを使って俺の常勝伝説が始まる予定だったが、急ぐ必要もない。
最初に出来た友人に花を持たせることから始まっても良いだろう。
こうして異世界生活の1日目は思ったよりゆっくりとしたものとなったのである