軟弱であることは罪である
獣人はアインに似て、みんな細くて温厚そうで、いい人たちだらけなんだろうなんて思っていた時期が俺にもありました
20分ほど歩いてアインの村に着いたのだが、村の男は全員デカイしガチムチだった。
俺とか簡単に真っ二つ出来そうな武器持ってる人もいて、恐怖で漏らしそうになった。
それに対して女は獣耳の付いた体格は日本人女性って感じである。アインと同じくらいの体格の人も多い
で、アインと同じかそれより年下の子供たちは珍しいものを見る目を向ける人が多いが、
推定30歳以上は睨んできてる人ばかりだ。明らかに歓迎されてないようだ
「な、なぁアイン。もしかして俺みたいな奴は珍しいのか?と言うか、もしかしてアインは女だった?」
服装的には男だが、体格的には女なので一応ついでに確認しておく
「いえ、私は正真正銘男ですよ。それと人族は珍しいと言うか、僕は初めて人族を見ました。」
女では?と聞かれたせいか苦笑しながら答えてくれた。
で、人族は長年ここにはいないのか。そしてあの感じだとよく思われていないようにも感じる
「そんな珍しいはずの人族と何か確執があったりするのか?」
「昔は人族の方と森の中で一緒に暮らしていたらしく、とても器用で道具などを作っていたそうです。
ですが、30年前の魔物の襲撃があったとき、獣人は魔物に立ち向かい、人族はどこかに逃げてしまったと。
私は生まれていなかったので聞いた話ではありますが、それであまり良いイメージがないのだと思います」
なるほど、人族は臆病で裏切者って感じなのか。そりゃ変な目で見られるな
「ってことは、あれ?アインはどうして村に案内してくれたんだ?」
それなら俺を村に案内しない理由はあれど、する理由なんてどこにもない
「僕たちの年齢になるとその事件を知らないですし。それに困ってる人を助けないわけにはいきませんから」
「はー、いい奴だな、アインは」
こいつマジで良い奴すぎるだろ。この世界で初めて出会えたのがアインでよかった。
アインは村と言ったがとても小さい集落のようだった。彼らの家は木や草でできた簡素なもので、数は11戸のみ・・・
多分一つの家に10人から20人くらい住んでいそうだが、一戸20人としても200人程度しかいないようだ。
この家のどれかがアインの家なんだろうか。って、ことはアインも誰かと住んでるはずだよな?
嫌われ者の人族である俺は泊めてもらえるのだろうか?とかなんとか思っていたら、住宅街?をさらに抜けた何もない荒野に案内された。
森が隣にあるのに荒野がすぐ隣にあることにも驚いたが、もしかしてこの荒野で俺は野宿って言いたいのか?
アインに目線を向けると「もう少し先なんです」と申し訳なさそうに言ってきた。
ああ、荒野の先に別の居住エリアがあるのか、なんて思って前をよく見ると100メートルくらい先に小さい家が一つだけ見えた
「あれが僕の家です。小さくて貧相な家ですみません」
完全に村八分状態じゃないか。何やったんだ?アインはめちゃくちゃいい奴なのに
いや、もしかしてアインの家族が何かやっちまったのかもしれない。それでアインが見捨てられなくて一緒に住んでるのかも
「お、おう。そういえば家族に許可は貰えるのか?なんなら外で寝ようか?」
「大丈夫です。ここは僕しか住んでいないので。どうぞ適当に座ってください」
「え・・・?そうなのか?ああ、ならいいんだが」
つまりアインは個人でのけ者にされているということか
荒野を数分歩き、案内されるがままに家の中に入る。アインは硬そうな床の上に座ったので、それに倣って何もない硬い地面に座った。
うーん、しかしなんでアインは一人で住んでいるんだろうか?
「・・・僕は小さいころから見た目通り弱く、魔物どころか獣を狩ることすらできませんでした」
疑問が顔に出ていたのか、アインは話し始めた。
「獣を狩るのは男の仕事です。普通は何組かの家族が一緒に住み、協力して獣を狩り、寝食を共にします。
でも僕はこの体の通り弱く、獣もまともに狩れないので誰の家にも誘われなかったんです」
使い物にならない、か。確かにアインがあいつらが持っていたような武器を振り回せるとは到底思えない
「アインはずっと一人だったのか?そんなのでよく今まで生きてこれたな。」
飯がなければファンタジーとは言え、獣人も死ぬだろう
「去年までは親からどうにか恵んでもらえていたので・・・。今年も木の実も豊富だったのでどうにか繋いでいました。」
なるほどな。出会ったときにアインが探していたのは探し物ではなくて食べ物だったのか。
「それで、冬は大丈夫なのかよ?どこかに飯食わせてもらうとか出来ないのか?」
「駄目です。冬は毎年餓死者が出るほどどこの家も余裕はありません。少なくとも僕はこの冬を越せないでしょう」
駄目だと即答された。マジか。そこまで厳しい環境なのかよ。自然の摂理だし仕方ないな、と見捨てられるほど俺も非道になれない。
「なぁ、一緒に行かないか?食べ物は二人分くらい全然あるからさ」
なんでも無限に創造できるのだ。それくらい問題ない
「なるほど、ウィンさんが何も持っていないので逃げるときに落としたのかと思っていましたが、収納できる魔道具をお持ちなのですね」
マドウグ?ああ、魔道具か。なるほど、それなら俺の能力を見られても魔道具だってことでごまかせるな
「おう、そうだ。魔道具にたくさん食料はあるんだよ。だから案内ついでに一緒に行かないか?俺も二人のほうが安心できる」
この世界の常識とか分からないし、来てくれたら本当に助かる
「いえ、お心遣いは非常にありがたいのですが、この村に死ぬまで離れないつもりです。
僕は・・・いえ、僕は外の世界に行けない臆病者なので」
アインは少し困ったような顔つきでそう言ったが、臆病ではない何かの理由がありそうだ。
言いたくなさそうな顔してるし、無理に聞き出す必要もないな
仕方ない、今日くらいは日本の食べ物を色々と振舞ってやろう
「そうか、まぁ、今日は泊めてもらったお礼に・・・」
「アイン、今日も怪我したから薬を・・・って誰よ!」
食べ物やるから一緒に食おうぜ、と提案をしようとしたら女の声が割り込んできた
「かてな・・・ウィンだ!」
「そういうのは聞いてない!女なんて連れ込んで、どういうこと!?」
聞かれたから答えたと言うのに。そして俺は女じゃねえ。
入り口の方に振り向くとそこには獣人が立っていた。