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3.エクメアファッシアータ姫の華麗なる一日(後半)

 夕刻、陽が落ちてすぐカルノーサ王はやってきた。

「カルノーサ王が到着いたしました」

「おお、早かったな」

 アフェランドラ王は城に戻って着替えたところだった。

 正装をゆったりとまとい職務室から出て広間に向かった。

 伝令は台所にも向かった。

「カルノーサ王が到着いたしました」

「ええっ」

「もう?」

「時間に正確な方なのね」

 のんびりした姫に泣きつくパキアとマコヤナ。

「どうしましょう? 私が作っているの、まだ途中なんですよ~」

「私も~。凝りすぎちゃった~」

 そこにロベレニーがやってきた。

「まあまあ、パキア! マコヤナ! いそいで姫の用意を! 私が仕上げておきますから、三人とも着替えていらっしゃい」

「はい!」

 あわてて部屋に戻る三人を見送ると、ロベレニーはパキアとマコヤナの作りかけの料理を見た。

「まぁ。ちゃんとやればできるのねぇ。……味も大丈夫。出してもいいわね」

 そして姫の焼き菓子を見て、どこか誇らしげにつぶやいた。

「きれいにできたわね」

 ロベレニーは料理を運ぶ手順を指示しながら、パキアとマコヤナの料理の仕上げにかかった。


 その頃、カルノーサ王は広間に通されていた。

 現れたアフェランドラ王に気づき、カルノーサ王は立ち上がると両手を交差させ頭を下げた。

「まぁ、座って座って。遠路はるばるよう来たのう」

「近いものですよ」

「普段の夜遊びに比べれば、かな?」

「ははは。かないませんね」

 腰を下ろしたカルノーサ王の正面に座ると、アフェランドラ王はまじまじと見つめた。

「しかし……会議の時も思うたのじゃが、よう先代に似てきた。亡きカルノーサの雛形を見るようじゃ」

「そうですか?」

 現カルノーサ王はかなりの長身で、巻布から覗く髪や瞳はこの大陸の民の特徴である黒髪黒目とは少し違った色をしていた。

しかし少しつり上がり気味の眉と目は、まさしく先代そっくりで、結ばれた唇からも意志の強さが感じられる。

「先代が亡くなって、もう何年になるかのう?」

「今年で八年目になります」

「そうか……もうそんなになるか……。わしも歳をとるはずじゃな。あの時は本当に驚いたわい。我が妃についで、まさか二人ともいっぺんに、とは、な。誰も思わんかっただろうて」

「………」

「わしよりも若かったのじゃ。わしの方が先に逝くと思っておったのに、おいていかれるとはのう。先代とは仲がよかったんじゃが、覚えておるか?」

「何度かこちらにお邪魔していたと、話には聞いております」

「そうじゃ。先代は流浪の民だったと聞いてな。その旅の話を聞きたくて来てもらったのじゃ。どの話もおもしろかった。……だからかわしは、先代がもういないと聞いて、また旅に出たのだと思ったものじゃ。正直、今もそう思っておる」

「………」

 カルノーサ王は穏やかな微笑で老王の話を聞いている。

「一番好きだった話は、高い山で出会ったという魚の話じゃ。あれはおもしろかった。酔った時に聞くと、三倍にも四倍にも派手になっておって、よく笑ったものじゃ」

「それは私も聞いたことがあります。魚を助けるかわりに約束をした、と」

「そうそう、それじゃ。懐かしいのう」

 目を細くして微笑むアフェランドラ王。

 しかし王は次の瞬間、声を落として言った。

「ところでカルノーサの、魔法の話じゃが」

「はい。どの魔法でございますか?」

「願いを叶える魔法じゃ。そなたは『豊かな水』を望んだとか」

「アフェランドラ様は何をお望みなのです?」

「うむ……。実は………」

 部屋の向こうから伝令が叫んだ。

「エクメアファッシアータ姫のおなりです!」

 ぱっと表情が明るくなるアフェランドラ王。

「おうおう。待ちかねたぞ」

 扉がわりの布がすぅっと開いた。

「失礼いたします」

 鈴をころがすような声は、その場にきらきらと輝きながら消えていくようだ。

 しゅるしゅると豪奢な布が姫の足元ですれる。

 姫はゆっくりと王達に向かって歩を進めた。その度に、薄紅色の幾重にも重なった布がゆらゆらと揺れる。

 その上には見事に編み込まれた髪の房が、飾り紐のように垂れていた。

 後ろでパキアとマコヤナが、姫の服の一部をうやうやしくからげている。

 漆黒の髪は、姫の白い顔を飾る豪華な額縁だった。その中にあるのは、深い夜の瞳、小さな形の良い唇、すっと通った鼻。伏し目がちの瞳は憂いをふくんでいて、見つめられでもしたら思わず抱きしめたくなる容貌だった。

「………」

 カルノーサ王は立ち上がると姫の前にいき、左腕を胸の前におると、ひざまずいて右手で服のすそを持ち上げると接吻をした。

 この大陸での男性から女性への正式な礼だ。

「……」

 それに姫は右手を差し出して答えた。

カルノーサ王は右手でその手を支え、ふれるかふれないかの接吻をする。

 今のカルノーサ王は旅装束で豪華な正装ではなかったが、その光景はまるで一枚の絵のようだった。

 思わず目を奪われるパキアとマコヤナ。

 姫が席に座ろうとする時になって、二人はやっと本来の役目を思い出した。

 二人の助けを借りて姫が席に着くと、カルノーサ王も席に着く。

「そろったのう、さて」

 アフェランドラ王が手をたたき、声高に命を下した。

「料理を運んでまいれ。酒も忘れずに頼むぞ!」

 ロベレニー以下六人の料理人が運ぶ中、アフェランドラ王はいたずらっ子のように目を輝かせて囁いた。

「どうじゃ、カルノーサの。いかがかな?」

「……予想以上ですね。リラ・パルピナと称されるのもうなずけます」

 アフェランドラ王が尋ねたのはもちろん姫のことだ。

 リラ・パルピナとは『海の精霊の涙』のことで、格別な白い肌・深い黒の瞳・漆黒の髪を持つ者への最高の賛美だ。

「そうじゃろう、そうじゃろう」

 嬉しそうなアフェランドラ王。

 当のリラ・パルピナは平静を装ってはいたが、アフェランドラ城以外の人と会うのは何年ぶりなことで、実はとても緊張していた。

(この人がカルノーサ王。父さまと四十歳以上も歳が離れているというのに、どうしてあんなに堂々としているのかしら)

 その両脇に控えるパキアとマコヤナは、かしこまっていたが、

(きゃーーーーー!!)

(良かった~。今日の担当で)

(みんなに自慢できるわ~)

(これって『風』のおかげ? なんでもいいけど、嬉し~!)

と、声にならない声を上げていた。

 広い敷物の上に、たくさんの料理が並び終えた。

「さぁ、この王国の美味しさをたんと味わってもらおうぞ!」

「では遠慮なく」

 カルノーサ王はさっそくヤモの煮っころがしに手を伸ばした。

「おお! これはうまい!! さすが名人がいらっしゃるところは違う! ……ほぅ、この汁もなかなか。……おっ、この炒め物も………」

 何がすごいといって、あれこれ言いながらもちっとも休まず食べ続けるカルノーサ王の口ほどすごいものはなかった。

「これは?」

「チュピ村特有の魚料理でございます」

「これは?」

「ダンサス村風ごった煮でございます」

 そのカルノーサ王の矢つぎ早な質問に、てきぱき答えるロベレニー。

「まぁまぁカルノーサの。飲みながらのんびりやらんか?」

「はっ。いただきます」

 さっそく杯を持ち、アフェランドラ王国の地酒を一気にあおるカルノーサ王。

「くぅ~~~。いい味ですな~」

「むむっ。やるのぅ。なんの、わしも負けぬぞ!」

 同じく杯をあけるアフェランドラ王に、すかさずなみなみと注ぐカルノーサ王。

「お、お父さま」

 はらはらする姫をよそに、場は宴会へとなだれ込んでいくのだった。

「さぁさぁ、アフェランドラ王。もっとぐーっと、いっていって」

「おっとっとっと……。う~ん、うまいのぅ。いや、久しぶりじゃ。こんなにぎやかな夕食は」

 早くも頬を染めて、嬉しそうなアフェランドラ王。

「妃が逝ってからは寂しくてな。酒もあまりやらんようなったしの。カシワバがおった頃はまだ、二人でちびちびやったりしたもんじゃが」

「前の大臣ですよね。なかなかの切れ者だったとか」

「ああ……うむ。確かに切れ者じゃったが、あいつは、なんて言うのか、あっけらかんとしておって、表裏がないやつじゃったわい。仕事のことで何か言い合いになっても、知らずまた以前のように酒を飲みあったものじゃ」

「それはいいですね」

「そうじゃな。今は息子のドラセナが後をついでおるが、これもまた、なかなかの……」

 そんな二人のやりとりに、姫は少し傷ついていた。

(知らなかったわ。お父さまがそんなにカシワバ爺と仲が良かったなんて)

 姫はほとんど食事に手をつけてなかった。

目の前の会話に、耳をそばだてていたのだ。

(それにしてもお父さまったら。さみしいならそう言ってくださったら良かったのに。私にはちっとも言ってくれない。私の前では、強くて優しいお父さまを演じていたのね)

 勢いにまかせて、姫は近くの杯をぐっとあけた。

(あ、あら。冷たいのに熱いわ。なに、これ?)

「姫さまっ、それは」

「大変! 姫さまがチアチアを!」

(まぁ、そんなに騒がなくても大丈夫よ)

 姫はパキアとマコヤナに、大丈夫よ、と言おうとした。が……

(あ、あら……?)

その瞬間、ふぅっと意識が軽くなって、目に映る景色がぐるりと反転した。


「………姫、姫! 気がつかれましたか?」

「良かった~。姫さまー!」

「姫さまー!」

 まばたきすると、そこはいつもの姫の部屋で、いつもの姫の寝床だった。

「……私?」

「姫さま、申し訳ございません」

「お止めできなくって、申し訳ございません」

 泣きそうなパキアとマコヤナ。

「?」

「姫、あなたは地酒の中でもきついチアチアを一気にお飲みになって、倒れたのですよ。覚えていませんか?」

 意外に近くからカルノーサ王の声がした。

 姫は驚き、手を伸ばせば届くカルノーサ王の顔を思わずまじまじと見つめてしまった。

(あら? 私、どこかでカルノーサ王を見たことがある?)

「なにか?」

 視線に気づいてほほえむカルノーサ王。

「姫さま。カルノーサ王は姫さまを抱えてここまで運んでくださったんです」

「それから気付けにリルを飲ませてくださったんです」

 そう言われれば、口の中にリルの味が残っている。

「すっごいかっこよかったですー!」

「ほんとに! なんだか読み物みたいでしたよ!」

 カルノーサ王は吹き出した。

「元気な女の子だね。名前は?」

「パ、パキアです」

「マコヤナですわ」

 二人は空へ舞い上がらんばかりの心臓を押さえて、なんとかよそ行きの声で答えた。

「どこの村に住んでいるの?」

「ダンサス村です」

「水の日はお城に来るんです」

「へえ? じゃあ、料理すごくうまいんじゃ……」

「はい!」

 ここぞとばかりに即答する二人。

「今日お出しした中に、私たちの作った料理もあったんですよ」

「ダンサス村風ごった煮です」

「ああ、あのごった煮かぁ。うんうん、あれは美味しかった。あっさりした味付けに………」

(すごい。二人と負けずに話しているわ)

 三人はどこそこの村がどんな味だの、どこの野菜が美味しいだの料理の話に花を咲かせていた。

「ところで、今日のヤモの煮っころがしは、もう本当に美味しかったのだけど……あれは名人の作品ですか?」

 と、ひょいと姫にまわってきた。

「はい。材料が地味なので、味で勝負だと、はりきっておりました」

「う~んあれは良かった。わざわざ指定したかいがあるってもんだ。後で御礼の品を渡しますよ」

「そんな御礼なんて。お客様なのですから」

「ま、いいってことにしてよ。じゃ、帰るね」

「えええ―――!!」

「もうお帰りですかー!?」

 パキアとマコヤナの悲鳴が上がる。

「うん。実は城に内緒で出てきたから、きっと今頃心配していると思うんだ。だから、また今度、ね」

 魅惑的なカルノーサ王の笑顔に、

「はい!」

「ぜひ!」

力いっぱいうなずく二人。

「あ、リーヤに御礼の品をくくりつけたままだった。悪いけど、一緒に来てくれる?」

「はい!」

「喜んで!」

 普段なら「もー信じらんない、サイテー」とか「寒いのにー」とぼやく二人が、嬉々としてカルノーサ王の後ろについていった。

「カルノーサ王って、不思議な人。どこかで会ったような気がしたけれど………」

 姫が記憶を遡って思い出そうとしていると、

「姫さま」

「姫さま」

パキアとマコヤナが飛び込んできた。

「まぁ、早かったわね」

 姫は寝床から身体を起こした。

「あのぅ、カルノーサ王から御礼の品を頂いたんですけど」

「あら、見せてくださいな」

「ですけど……。単なる葉っぱなんです」

「それでどうしようかと」

 二人が差し出したずた袋いっぱいの葉は、かわいらしい山形の葉だった。

「これ……! ロベレニーを呼んで!」

「は、はい」

 残ったマコヤナが不思議そうに葉を見る。

「姫さま、これってルウの葉でしょう? これが御礼の品なんですか?」

「いいえ、マコヤナ。おそらくこれは」

「お呼びですか、エクメアファッシアータ姫」

「ロベレニー。これを見てちょうだい」

「……ルイの葉?」

 まじまじと見つめるロベレニー。

「え……エクメアファッシアータ姫。まさか、これ全部そうなんですか?」

「はい。カルノーサ王が今日の御礼だと」

「御礼!? これだけあったら高級料理をいくら作ってもお釣りがくるくらいです! もしやカルノーサ王国では、栽培に成功したのでしょうか?」

「?」

 袋に小さな手紙がついていた。


あなたたちに渡せばきっと活用してくれると思い、この袋を差し上げます。

ルウの葉は、種ではなく、育つ環境でルイの葉になります。

カルノーサ王国に豊富なあるモノを、成長期にたっぷりあげてみてください。

ここまで言えば名人どのもピンとくるのではないでしょうか?

それでは、また伺います。

今日は本当に御馳走様でした。

あ、焼き菓子は城でゆっくり食べる予定です。


「ロベレニー!」

 姫はロベレニーに手紙を渡した。ロベレニーは目を通す途中で、部屋を走り出た。

「姫さま?」

「いったいどうしたんです?」

 姫はただ笑っただけだった。二人はそんな姫に顔を見合わせる。

「姫さま、どうなさいますか?」

「もうおやすみになられますか?」

「そうね。でも、お父さまに今日のことをお詫びに行かないと。私のせいで、中途半端に終わってしまったのですものね」

「でも、おかげで楽しかったですー」

「そうですよ。カルノーサ王ってなんだかおもしろい人でしたね」

「姫さま、もっと仲良くなってくださいよー。そうすれば、こちらにも頻繁に来られるようになるでしょうし」

「うまくいけば次のアフェランドラ王になられるかも」

「まぁ。カルノーサ王はもうカルノーサ王国の王なのですから、こちらにはお呼びできないでしょう?」

「そんなぁ」

 がっくりとパキア。

「あ、二つの国を合併しちゃえばいいんですよ。そうすれば、国も広く豊かになるし」

 名案とばかりにマコヤナ。

「それはできません」

 しかしきっぱりと姫は言った。

「考えてくださいな。どちらにも合併する必要はないのです。こちらは海の幸を、あちらは陸の幸をいただいて、同じように栄えているのですから。それに隣国とはいえ、実際の距離は相当なものです。それを一人の王が統治するのは、とても負担になることだわ」

 今のアフェランドラ王国でも大小五十の村を統治しているのだ。

村人すべての安全な生活を保証するのは、なかなか簡単ではない。

「あああ、せっかくのいい男が………」

「遠ざかった………」

 肩を落とすパキアとマコヤナ。

 不思議そうな顔の姫にマコヤナは言った。

「姫さまは素敵な男性に出会う確率が高いからわからないのでしょうが、私たちにはそうそうないんです!」

「そうですよー。お金あり、家あり、かっこいいってそろっている人ってめずらしいんです!」

 言葉につまる姫。

「……あの、私、男の方をそういう目で見たことがないので」

「大丈夫です! 姫さまですもん」

「そう! さっきの条件を満たした旦那さま候補がたくさんいらっしゃいますよ」

「きっとどこかの王族とか……」

「この王国の大金持ちとか……」

 うっとりと想像する二人。

「ってちょっとマコヤナ」

「なによ、パキア」

「姫さまってお見合いって感じじゃない?」

「そりゃそうでしょ。恋愛する機会なんてないですよね?」

 二人に見つめられて、うなずく姫。

 外に出られず、ましてや人に会うことすらままならないのに、恋などできるはずがない。

「パキアとマコヤナは恋をしているの?」

 うふふーとパキアとマコヤナの顔がにやける。

「私たち、もうつきあっている人いるんですよー」

「そうなんですー。そうそう、聞いてくださいよ、姫さま。マコヤナったらこんな純情そうに見えて、実はもう」

「きゃ―――! 姫さま、パキアこそ、ここではこんなですけど、彼の前ではそれはもう、猫かぶって、おとなしいんですよ」

「……」

「そんなのマコヤナだって一緒じゃない!」

「まっ、私はいつも変わらないですわ!」

「………」

「何言ってんの、別人みたいよ!」

「なんですって―――!」

「いいかげんに、しなさ―――い!!」

 めずらしい姫の大きな声に、ピタリと二人は口を閉ざした。

「ひ……」

「姫さま………?」

 目を丸くする二人をにらむ姫。

「もう二人は帰る時間です! さ、早く出てちょうだい!」

 寝床からおりると、姫は二人を押しやった。

「姫さま……」

「まだお召し替えも……」

 しゅっ

 しきい布を下ろしてしまえば、もう二人は姫が呼ぶ鈴の音がならない限り入れない。

「ふんだ!」

(なによなによ! 二人ともずるいわ。私だって、私だって普通に外へ出られたら恋だって………)

 姫は寝床に八つ当たりした。


「もう帰るのか……?」

 残念そうなアフェランドラ王。

「ええ。すっかりご馳走になりました。会議の概略もいただきましたし、本当にありがとうございます」

 リーヤを撫でるカルノーサ王に、アフェランドラ王は重い口を割った。

「その……さっきの話じゃが………」

 カルノーサ王の快活な声がそれを遮った。

「アフェランドラ様……『望み』は思っているだけではかないませんよ」

「?」

「私は来年、我がカルノーサ王国で会議を開くことで、噂を一掃するつもりです」

「良い考えじゃ」

「でしょう? では、また来ます。せっかくの隣同士なのです。いつでも呼んでください。すぐに参りますよ」

「うむ。今日は楽しかったぞ、カルノーサ」

「こちらこそ。では!」

 リーヤにまたがると砂煙を巻き上げ、カルノーサ王は闇に消えていった。

 アフェランドラ王はしばらくそのまま立ちつくしていた。

「望むだけではかなわぬ……か。確かにそうじゃ。魔法など、この大陸にはない。しかし………」

 アフェランドラ王の耳に懐かしい亡き王妃の声がよみがえる。


『この子が五歳と十五歳になったら、『新しい風』がふきます』


「オブッシフォーリア……わしはもう二度とあんな想いをしたくないのじゃ………」

 年老いた王はゆっくりときびすを返すと、愛娘の様子を見に行った。


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