1.病弱なペッサム少年
開け放した窓から風が通る。
ペッサムは熱っぽい頭を上げ、横になっていた身体を起こした。
外には眩しいほどの光があふれ、砂を金に輝かせている。
その向こうには海が広がっているはずだが、残念ながらペッサムの家からは見えない。ただ、微かに香る潮風が海の存在を示していた。
(砂漠のこの大陸じゃあ、季節の変わり目なんてほとんどわからないのに……)
ペッサムはだるさのせいで思うように動かない自分の身体を壁に預けた。
珍しくてむしろ貴重な存在、と言われるほどペッサムは身体が弱い。
六人兄妹、一つ違いの妹ですら病気知らずだというのに。
ペッサムだけが一年の半分以上、特に季節の変わり目には必ずふせっていた。
「おまえのおかげで一年のメリハリがきくねぇ」
なんて母親に言われるのはいいほうで、
「まぁたさぼって」
「いいよなぁ身体が弱いって」
「オレにもうつしてくれよ~」
「今日だけでいいけどな」
などと兄たちにからかわれ、挙げ句の果てに、
「お兄ちゃん、今日は私が代わりに行っといたからね」
と、顔だけはそっくりな妹に世話を焼かれるしまつだった。
(僕だって好きでこんな身体になったんじゃない!)
こんな気持ちの良さそうな日に、誰が家でじっとしていたいだろう?
少ない緑が芽吹く、誰かに祝福されているようなこの季節に、リーヤに乗ってさっそうと駆け回れたらどんなにいいだろう……!
小さなくしゃみが出たので、ペッサムはかけ布を引き寄せた。
家でできることはなんでもやってきた。
おかげで妹よりも料理や裁縫がうまくなった。
兄たちの宿題を手伝うこともある。
雑学にもくわしくなって、それなりに家の役にたっているはずだ。
でも……、とペッサムは思う。
(運命を変えるという『新しい風』……本当にそんなものがあるのなら、今すぐ僕の身体を強くしてよ)
ペッサムの短い髪を、優しく風がなでていった。