落書き
ケモノ、とアレは呼ばれている。
赤く、紅く、黒く、闇く、生命体には見えないアレは、形を何かの獣に似ていることから人々は「ケモノ」と呼んでいる。
四肢と胴体と頭をもつ「アレ」は煙るように揺らめく何かを身に纏う。尾のようなものは細く幾本もある。頭には目らしき光が二つ。口らしき線の闇が一つ。
アレは破滅の体現者。
アレを、ケモノを打ち倒すことのみ、生存の道は開かれる。
赤色が支配する時間。太陽が大きく傾き、空も大地も赤く染め挙げられる。表面を赤く染められた森の淵から小さな粒が三つ。遅れて大きな粒が一つ。小さな粒は大きな粒に弾かれるように拡散し、三角形を作るように大きな粒を囲む。
小さな粒は人である。手には剣、斧、槍を持ち各々すぐに攻撃に移れるよう、回避に移れるよう身構えている。
大きな粒は異形の化け物だ。猿のような姿をしているが、赤と黒の線が縦横無尽に走っているサルなどバケモノと言える。空を切り裂く尾がバケモノの感情を表しているように見えるのは姿形からの印象を受けているのか。
その睨み合いは、爆発によって破られる。バケモノの目を中心に爆発した。胴体はのけぞり、体は硬直する。それを合図に三人は襲いかかる。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!ふー……ふー……ふー……はぁ……」
空に星が瞬き始める。短い赤の時間は、長き黒の時間が追いやる。
「中型……討伐完了……」
猿のごときバケモノは、地に伏した。穴を開けられ、切り裂かれ、腕を失い、足を焼かれ、頸を落とされた姿は凄惨そのもの。
「……指輪か……」
空に溶けきった後、化け物がいたところには一つの指輪があった。化け物からすれば毛先ほどの大きさのそれは、鈍い輝きを放つ。
「撤収。帰るぞ。まだ気を抜くなよ。家に帰るまでが任務だからな」
剣を持つ人はそれを何か容器にいれ、森から離れる。斧と槍を持つ人もそれに習い、遠く離れた所から人影が追従した。
破滅を呼ぶ「ケモノ」は幾つもの世界を破壊した。破壊の限りを尽くし、それから逃れた人々がいた。「ケモノ」はそれを許さなかった。幾つもの世界を破壊し、人々は幾つもの世界を吸収した。
最終防衛都市「クチナシ」
それが願いを、呪いを込められた、人々が生きる町の名である。