第一話
私は田中ミコです。これからする話は私が六才の時におこったことです。私にはお姉さんがいました。お姉さんは田中マコといいました。私たちは、ふたごでした。
私たちにはお父さんもお母さんもいなくて、ふくしまのふくしのしせつ、というところにいました。そこには私のような子どもがたくさんいました。私よりも小さい子もいれば大きい子もいました。
私はいつでもマコちゃんといっしょでした。しせつの先生はいつも「この子たちはふたごで、そっくり同じ。なかなか見わけがつかないね」 と言いました。実際、私たちはなかよしでした。ケンカもしたことがありません。マコちゃんはいつでもやさしいマコちゃんでした。
ある時、私たちは園長先生に呼ばれました。そこに初めて会うお父さんとママがいました。見たことのない人でしたが、園長先生が「あなたたちのお父さんですよ」 というのです。
二人はソファに座っていました。お父さんには、しらがが、ありました。ほおにも深いしわがあり、おじいさんみたいでした。私は今でもおぼえていますが、このお父さんは私たちを見た瞬間、目をそらしたのです。園長先生は、うれしそうでした。
「お父さんと会えてよかったわね」
私たちはどうしていいか、わからずじっとしていました。すると、ママのほうが立ちあがりました。それから近よってきました。この人は、私たちをうんだ人ではなく、お父さんと結婚した新しいママだったのです。しわだらけのお父さんと結婚したとは信じられないくらい、若いママでした。かみの毛は赤茶色で、目は上も下もびっしりとしたまつ毛でおおわれていました。そしてとてもやせていて、がりがりでした。ママは私たちを見て言いました。
「まあ、ほんとにかわいらしい子どもたちね。さあ、私となかよくしてね」
そして二人まとめて、ぎゅっと抱きしめてくれました。ママは化粧がすごく濃くて、甘いにおいがしていました。甘いけどあまりいいにおいではありませんでした。そして吐く息がすごく、くさかったのです。抱きしめてくれた手も、今にも折れそうなぐらい細かったです。でも私たちにむかってにこにこしてくれたので、うれしくなりました。
「ほんとのほんもののママなの?」
「そうよ、私があなたたちのママになるのよ、だから私のこと、ママってよんでね」
「うん」
実はお父さんが、私たちの本物のお父さんでした。刑務所に長く入っていた人でした。出所後にきて私たちを引き取りにきたのです。ママの方は私たちをうんだ人ではなく、まったくの無関係の人でした。だけど一時的にお父さんと結婚したのです。しせつの人の目をくらますための、偽装された結婚でした。お父さんと新しいママは、しせつの決まりでいきなり私たちを引き取ることはできず、何度かあそびにきました。ママはいつもお菓子をお土産に持ってきました。私たちは、ママが好きになりました。お父さんはだまって見ているだけでした。
とうとうある日、園長先生が言いました。
「あなたたちはお父さんたちと一緒にくらすのですよ、東京のあたらしいおうちで暮らすのですよ」
「東京? すごーい」
マコちゃんがいいました。私もうれしくなって、ソファの上をぴょんぴょんとびました。その様子を園長先生はうれしそうに見ていました。園長先生のお部屋で反対側のソファに座っていたママも、にこにことしていました。お父さんはまじめな顔をして、すわっていました。
実際、私たちはお父さんとママができて、とてもうれしかったのです。東京という場所は関係ありません。あたらしいおうちも関係がありません。私たちは、お父さんとママができたことが一番うれしかったのです。
園長先生やしせつの先生たち、いつでも一緒だったおともだちに見送られて、私たちはお父さんの大きな車に乗りました。季節は春でした。
毎朝水やりをしていた花だんのチューリップがゆれていました。赤いチューリップと白と黄色とピンク。風にゆれて私たちにさようなら、と言っているようでした。玄関の桜の花はまだつぼみでした。しせつからは大きな山が見え、てっぺんにはまだ白い雪が残っていました。風はまだ冷たかったです。よく覚えています。私は何度でも言うけど、ふくしのしせつを出る時はとてもうれしかったのです。だって私たちにはお父さんとママができたのです。私たちだけのお父さんとママです。
お父さんが運転していた車は大きいけれど中身はボロで、座席から綿がはみでていました。天井は傷だらけでした。後ろには汚れた段ボールの箱がいっぱい積まれていました。
私たちは車窓から見える山の景色が楽しくて、ながめていました。マコちゃんは、すぐに寝てしまいました。私も眠たくなりました。ママからもらったおそろいのピンクのくまちゃんを抱いたまま、寝ていました。
夢うつつにお父さんとママの会話が聞こえました。私は、それをおぼえています。お父さんは、ママに質問ばかりしていました。ママの言葉づかいはとても乱暴です。お父さんに対して怒っているように聞こえました。
「これで、もうだいじょうぶでしょうか?」
「まだよ……じそーから、しばらくチェックが入るから」
またお父さんがママに質問します。
「ええと。すみません、じそってなんすか?」
「じどー相談所のこと」
「やばいですかね、私はこいつらのモノホンの父親ですがね、そのじそが」
「児相よ、児童相談所のこと! ヘンな行動はつつしんでよ。こんなかわいい双子がいなければ、お前みたいなクズはとっくの昔に死んでんだからよ」
「わ、わかっています。わかってますよ」
「けっ、ちゃんと運転しゃがれよ、このクズがよ」
私はそのまま寝てしまいました。




