3.パンツを買いに行こう
祐二は、蛇姿の恵美の入ったザックを背負ったまま遊園地を出た。ザックの中から恵美が話しかけてくる。
「祐二、今日は臨時休園になって暇だから、今から昨日稼いだ小銭で、新しいパンツを買いに行こうね。それから普通の服も。今、冬物がたたき売りになっているから、安く手に入るよ。春休み中は毎日人前に出るんだからまともな服にしようよ。それでお金が余ったらさ、久しぶりに喫茶店でお茶したいな。ねえ、いいでしょう?」
「それでは金が残らないぞ。買うのはパンツだけでいい。おまえのも買うんだろう? 服なんかいらないし、喫茶店まで入ったら、また文無しだ」
「そんなこと言わないでよ。春休み中まだまだしっかり稼げそうだから、今日使い込んだって北海道への旅費ぐらいなんとか出そうだよ。どこかであたしをザックから出してね。祐二と人の姿で町を歩きたい」
思えば、祐二とはお金が一切かからない山の中ばかりのデートだった。町中で会ったのは結婚式の準備の為のわずか二回だけ。二人きりで自然の中で過ごす時間は幸せだったが、普通の恋人同士のように、映画を見たり、海へ行ったり、喫茶店へ入ったり――
「恵美は買い物がしたいのか。どこへ行こう」
「行きに通った途中に、なんかお店なかった?」
「店か……大きなのがあったぞ。行ってみるか」
祐二は、遊園地まで歩いて来る途中で見つけた大型ショッピングセンターへ入った。目指すはその中の百円ショップ。ここなら百円で下着が手に入る。模様の好みなど問わないなら、これで充分だ。
商品を手に取った祐二が、小声でザックの中の恵美にささやいた。
「俺のは決まったぞ。おまえのパンツはどうする? 俺が決めていいのか?」
「……よくない。自分のぐらい、自分で見るからあたしを出して」
「それなら俺のパンツと一緒に清算してくれ。百均のは一種類しかないからここにあるこれでいい」
「それって、もしかして白のブリーフ? 嫌だなぁ……多少値が張ってもいいからさ、トランクスにしてよ」
「なんで?」
「だって……白のブリーフなんてさ、最悪」
「最悪って、そんなに?」
「そういうのは、おじさん、って言うか、おやじのイメージで嫌なのっ! 祐二には絶対に似合わない」
「ふ〜ん……俺、いつ生まれたか憶えてないから、おまえと比べるとだいぶおやじだけどな。白はだめなのか? それならおまえを出してやるから、おまえが見ろ。俺のは何でもいい。どこで出る? 男子トイレは嫌なんだろう?」
「こういう大きなショッピングセンター内なら、たぶん障害者用の大きなトイレがあるはず。そこなら男でも女でも使っていいから安心だよ。探してみて」
恵美の言ったとおり、ほどなく障害者トイレはみつかった。中は広く着替えるのに適しており、ベビーのおむつ替えベッドもそこに用意されていた。
「ねえ、祐二、久しぶりの町でのデートなんだからさ、あたしのお買い物ちょっと付き合ってよ」
広いトイレで着替えながら、恵美の心ははずんでいたが、祐二の方はあまり元気がなかった。ごもつく返事に、恵美は軽く口を尖らせた。
「祐二? 嫌なの?」
「人ごみは苦手だ。おまえが見てくる間、人の少なそうなところを探して適当にぶらぶらしてるよ。時間を気にせずゆっくりして来い。おまえの買い物が済んだら、その後はどこでも付き合ってやる」
二人とも人の姿になり、トイレから出ると、恵美は待ち合わせ場所を決め、祐二といったん別れた。
きのう遊園地で集まったお金は四千円あまり。触られまくられて疲れたが、たった一日で小銭がこれだけ集まったなら文句はない。
恵美は下着の他に冬物最終処分品として出ていた激安の服や靴を買い、女子トイレの中で早速着替えた。下着をつけたのは、久し振りだった。古家を追われてから一度もつけておらず、ブラの固い感覚に背筋もしゃんと伸びる。恵美は、新品のスニーカーを履いた足で軽やかに祐二と待ち合わせの場所へ向かった。残金は千円もない。
ショッピングセンターの一階の吹き抜けの所。約束した場所に祐二はいなかった。時間を合わせたわけではなかったので、祐二が店内を見に行ったのだと思い、恵美はしばらくはそこにあった長いすの一つに腰かけて待った。祐二はなかなか現れない。
「祐二、遅いな……」
さらに十五分を過ぎても祐二は戻って来ない。恵美は別れてから一時間近くうろついていたはずで、祐二がそろそろ戻るだろうと、何度も壁の大時計を見上げた。それにしても遅い。
人ごみが大嫌いな祐二は、待ちきれず外へ出てしまったかもしれなかった。また時計を見上げた恵美は、つい先程、どこかで救急車の音が聞こえていたのを思い出した。
まさか、外で車にひかれて……祐二!
急に不安が走り、恵美は店外へ走り出た。髪をふりみだしてきょろきょろと周りを見渡したが、祐二の姿はない。店を出た目の前は広大な駐車場。祐二がそんな排ガス臭い場所にいるわけがない。
「あっ!」
恵美は駆け出した。その先には一台の救急車が止まっている。駆け寄ると、ちょうど店内のもう一つの出入り口からストレッチャーに乗せられた人が運ばれてきた。
祐二! 祐二?
心臓をぱくつかせながら息を止めて、ストレッチャー上の人物の顔を確認した。涙があふれそうな目に入ってきた病人の姿。しわだらけでしみの浮き出た顔、真っ白な短い髪。
――祐二じゃない……
恵美はほっと息を吐き、また吹き抜けの場所へ戻ったが、やはり祐二の姿は見当たらなかった。どうしようもなく、また長いすに座りながら、辺りに視線をまわす。
たくさんある長いすにはいろいろな人が座っている。携帯に夢中になっている主婦、休憩する数人の老人、眠ってしまった赤ちゃんを抱く母親。どうということもないショッピングセンターの吹き抜けでの光景。ゆったりと買い物を楽しめるような音楽が流れており、全く平和そのもの。落ち着いて座っていられないのは恵美だけだ。
何度も立ち上がっては周囲を見回したが、祐二の姿は見えてこない。さらに十分以上待ったが、それでも祐二が戻らないので、恵美は店内を探すことにした。別れてからすでに二時間近くが経過。お金を持っていない祐二がそんなに長くうろうろしているわけがない。恵美は、広い店内をあちこち探し回っているうち、ある場所に人だかりができているのが目に入った。
祐二? 動悸を鎮めながら人の輪に近づいた。
「あの、何かあったんですか?」
恵美は、隣に立っていた見知らぬ女性に訪ねた。
「なんかよく見えないからわからないけど、不審者じゃないかしら。トイレに変質者が出るってうわさもあるものね。最近そういうの多いでしょう? イヤよねえ」
「変質者がいるんですか?」
変質者? ――なんともいやな響きだ。この人だかり、ただ事ではない。まさか、常識知らずの祐二が何かしでかして……いや、そのまさかだと思った方が―――
恵美は人を押しのけて、前へ出ていた。押された人はなんだ? と恵美を迷惑そうに見たが、恵美は、すみません、と言いながら目標へまっしぐらに向かって行った。そこは先ほど着替えた障害者用のトイレ。トイレの引き戸になった扉は全開になっており、制服を着た警備員の背中が見えている。
「ああ!」
トイレの中を覗いた恵美は、思わず大声を出していた。障害者用トイレのおむつ替えベッドの中に、祐二が丸くなって眠っていた。つややかな黒蛇姿。小さなベッドいっぱいにとぐろを巻き、頭がその真中に乗って、気持ちよさそうに目を閉じている。おむつ替えベッドの周りには、脱ぎ捨てた服が散らかっている。あのゴムの伸びたパンツもそこに……
〜〜〜ちょっと休憩
作者のひとりごと。。。。
それにしても、あんたパンツが好きだねー
またしてもパンツネタ
ああ、最近疲れ気味かも
ゴムの伸びたパンツがひ〜らひら
黒と白の蛇がくるくるくるくる……
ん? そういえば、どんなパンツだったのか描写してなかったわww
伸びパンツの色、柄は想像したくもないから、読者様におまかせよぉ
下品ですみませんでしたぁ!
まだまだ話は続きます